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【第四話】見過ごせない不備

「……ひっ、……あ、あ……」

背後から漏れた小さな声に、俺は肩越しに視線を向けた。

鉄屑の陰に、一人の少女がへたり込んでいる。頭の上には、小刻みに震える三角形の獣耳。

この「現場」に似つかわしくない、ひどく場違いな存在だった。

「……なんだ。まだ動く素材が残ってたのか?」

俺がナタを肩に担ぎ直すと、彼女は悲鳴を飲み込むようにして顔を伏せた。

無理もない。

さっきまで巨大な化け物だったモノが、俺の足元でただの「鎧の残骸」と化しているのだ。


だが、俺の興味は彼女の恐怖心にはなかった。

「おい。そこ、座ってろ。……逃げるなよ、その足じゃどうせ無理だ」

「……は、はいぃっ!」

 俺は彼女に歩み寄る。

間近で見れば見るほど、彼女の装備は「ゴミ」だった。


腰に下げた短剣は刃こぼれが酷く、さやは歪んでうまく収まっていない。何より、彼女が背負っている荷車の車輪――その軸受けから、嫌な金属音が漏れている。

「……ひどいな。よくこんなもんで歩けてたな、お前。現場なら即、作業停止レベルだぞ」

「え……? あ、あの、あなたは……?」

「サトウだ。……おい、その短剣を貸せ。あと、そこの荷車もだ。見てるこっちがムズムズする」

 彼女が困惑して固まっている間に、俺はスキル、

万物再利用リユース・エクス・マキナ】を静かに発動させた。


周囲に散らばる「化け物の鎧」の破片を引き寄せ、俺の頭の中に浮かぶ『理想の構造』へと組み替えていく。

ただ溶かして形を作るんじゃない。素材が持つ粘りや硬度を見極め、必要な場所に、必要な分だけ肉を盛る。

スクラップ工場で、限られた廃材から予備パーツを自作していたあの頃と同じ――いや、それ以上の精度だ。

「……この短剣の重心、あと3ミリほど切っ先寄りなら最高なんだが。……あぁ、この廃材のクロム含有量なら、焼き入れのタイミング次第で理想の硬度が出るな」

独り言を漏らしながら、俺の手の中で金属が生物のようにうごめく。

 

「な、なんですか、それ……。呪われた鉄が、まるで聖剣みたいに輝いて……。魔法……なんですか?」

「魔法? ……いや、ただの熱処理と応力除去だろ。焼き入れの温度管理もできないのか、この世界の連中は。素材が泣いてるぞ」

「お、おうりょく……? やきいれ……?」

呆然とする彼女を余所に、俺は仕上げの工程に入る。


もともと鈍い銀色だった彼女の短剣は、化け物の黒鉄を「リユース」した美しい波打つ刃紋を持つ、一振りの業物へと変貌していた。


「……よし、ツライチだ。ほら、持ってみろ」

「……あ。……軽い。それに、吸い付くみたいに手に馴染む……。これ、本当に私のボロナイフだったものなんですか?」

「中身は一緒だ。余計な贅肉を削って、適材適所に補強を入れただけだ。……次は荷車だ。そっちの軸受けはもっと深刻だぞ」

俺は彼女が差し出した荷車の車軸を掴んだ。

ベアリングなんて上等なものはないが、摩擦係数を極限まで下げるやり方ならいくらでもある。

 

「……暮らすにはちょっと足場は悪いが、ここは本当にいいな。あの辺に転がってる潰れた戦車のハッチ、いい具合に焼きが入ってて軸受けの裏張りに使えそうだ」

 俺は鼻歌まじりに、周囲のガラクタを物色し始める。

 

「待ってください! そこは『嘆きの平原』って呼ばれる、一歩入れば呪いで体が腐ると言われている戦場跡地なんですよ!? なんでそんな、ピクニック気分で歩き回れるんですか!?」

「呪い? ……あぁ、このモヤっとしたガスのことか。換気が悪いだけだろ、マスクでもしてりゃ問題ない。それより、この潤滑油代わりになりそうな魔物の体液、粘度がちょうどいいな……」



俺は彼女の叫びを適当に聞き流しながら、廃材を組み合わせて荷車を「アップグレード」していく。

 

「……ほら、引いてみろ。新品よりはマシになってるはずだ」

おずおずと荷車を引いた少女が、「――っ!?」と目を見開いた。

指一本でスッと動くその軽さは、彼女の常識では魔法にしか見えなかっただろう。

「……さて。修理代は、その辺の鉄屑を回収するのを手伝ってもらうことで手を打とう。……行くぞ。あっちに、まだ『活きのいいスクラップ』が埋まってそうだからな」


俺は再び、より「質の高い素材」を求めて歩き出した。

後ろで少女が、「あぁっ、待ってくださいサトウさん! 死ぬ気ですか!? そっちはさらにヤバいエリアですって!」と叫びながら、軽くなった荷車を引いて必死に追いかけてくる。

 ヤバいエリア?

願ったり叶ったりだ。ヤバい場所には、決まって希少な金属が眠っているもんだからな。


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