表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
39/45

【第三十九話】仕様変更の最終工程(グランドフィナーレ)

太陽が天頂へと昇り始める。

墜落のタイムリミットである「正午」まで、残り30分。


先ほどの突発的な磁気嵐をサトウたちが力技でパッチ修正したおかげで、空中都市の根底を揺るがしていた岩盤の鳴きは完全に収まっていた。


だが、この巨大な構造物を中空に完全に定着させるには、回廊中央に位置する最大の心臓部———「磁気コア」を、岩山側の基部へとガッチリとドッキングさせなければならない。


これさえ終われば、無災害竣工。

ドワーフの作業員たちが総出で牽引ロープを引き、サトウの黄色い油圧ショベルがその巨体を後ろからバケットで支え、ゆっくりと磁気コアを接合部へと近づけていく。


だが、いざ、コアの鋼鉄製シャフトを基部のソケットへと滑り込ませようとした、その瞬間だった。


「ガ、ギギィィッ……!」

鈍い金属の衝突音が響き、コアの動きがピタリと止まった。どれだけショベルで押し込もうとしても、接合部がわずかに斜めに歪み、物理的に噛み合わない。


「そんな……計算が合わない!? サヴァル様の設計図の通りなら、ここは完璧に、綺麗に噛み合うはずなのに! なぜ……!?」

黒髪を焦燥で振り乱し、仮設の図面台に身を乗り出して青図を凝視するニイナの声が裏返る。何度も図面と現物を往復する彼女の瞳に、再び絶望の影が差し込んだ。


そんな総現場監督のエルフに向かって、サトウは油圧ショベルの操縦席から、相変わらずの冷徹な声音を拡声魔導具スピーカー越しに叩きつけた。


「だから言ったろ、ニイナ。サヴァルの図面はただの絵空事バグだってな」

「え……?」

「あいつは日中の強烈な直射日光による『熱膨張(環境変化による金属や結晶の歪み)』の計算を、丸ごとハショってやがる。図面室の冷房の中でしか線を引いたことがねえから、現地のリアル(環境)が目に入ってねえんだよ」


スクラップ工場で夏の熱を吸って歪む鉄骨や、冬の寒さで縮むクランクシャフトを嫌というほど見てきたサトウの『物好きの直感』が、噛み合わない原因を瞬時に見抜いていた。


 ———正午まで、あと15分。


設計者の致命的なバグが発覚し、現場のドワーフたちに諦めの空気が広がりかける。


だが、サトウが重機を駆って見せた圧倒的な現実のパワーと、あの絶体絶命の崩落を執念でねじ伏せた泥臭くも確実なプロの背中を、誰よりも間近で見続けてきたニイナは、もうただ胃薬を煽って泣くだけのエルフではなかった。


「……いいえ、まだ終わらせない! サヴァルが現場を無視したなら、私がこの場で、現場のツラ(現実)に合わせて図面を引き直すまでよ!」


ニイナは涙を袖で力強く拭うと、インクペンをインク瓶に叩き込み、青図の上へ凄まじい速度で修正の赤線を走らせ始めた。


「バルド親方! サヴァルが無視した歪みの分、コアの右ソケットのクリアランス(隙間)が足りていません! リノさんのさっきの計算の通りです、サトウさん、重機の全トルクで、あと『三十二ミリ』だけコアを右斜め上へ強引に押し上げて! 親方はその隙間に、熱を逃がすための膨張補正のくさびを叩き込んで!!」


仮設事務所に引き籠もっていた建築士が、リノの弾き出した数値を信じ、真の「総現場監督」としての才能を開花させ、暴風を切り裂くような怒号の指示を飛ばす。


その必死の形相と的確な仕様変更の指示に、バルド親方はガッと目を見開いた。

「おうよぉぉぉッ!! エルフの姉ちゃんが現場のツラを見たんだ! ドワーフの意地、ここで見せなきゃ男が廃るぜぇ!!」


バルド親方の胸中にあったサトウへの複雑な感情は、この瞬間、完全に「最高の建物を造るための職人のプライド」へと昇華された。親方は巨大な槌をこれ以上ない力で握り直すと、歪みの最前線へと飛び出していく。


———正午まで、残り1分。


サトウの腕時計の秒針がチクタクと非情に刻まれ、

助手席のリノが「残りカウント、五十秒……四十秒……!」と正確な秒数を口にする。


サトウは黄色い油圧ショベルのコンソールを掴み、レバーを限界まで押し込んだ。


「カレン、エルミア! 重機のアームの油圧トルクを魔法と怪力で限界突破ブーストさせろ! リノ、衝撃に備えて手すりに掴まってろ!」


『任せろ!』「任せてくださいっ!」

カレン、エルミア、そしてリノの三人が力強く返事をする。

チームの息は、寸分の狂いもなく完璧に揃っていた。


カレンがショベルのブームの横から自らの肉体を楔にして支え、エルミアの展開した術式が重機の油圧シリンダーを真っ赤に発光させる。


凄まじい駆動音と、金属が軋む悲鳴。

ショベルのバケットが磁気コアを捉え、ミリ単位で狂った結合部を、ニイナの指示通りに強引にソケットへと押し込んでいく。キチキチ、キチキチと火花が散り、魔導の爆炎が周囲を焦がす。


「ラスト十秒……五、四、三……!」

 リノの冷徹なカウントダウンが響く。


サトウは操縦席のシートを蹴るようにして立ち上がり、フロントガラス越しにコアを睨みつけてトドメの叫びをあげた。

「———【万物再利用リユース・エクス・マキナ】!! 机上の計算ペーパーでハショった熱膨張ひずみごと、許容誤差クリアランスの中にハツり落とせ! 現場の意地を乗せて、今ここで完全施工リフォームを完了するッ!!!」


サトウの咆哮と共に、油圧ショベルの先端から放たれた幾何学模様のまばゆい残光が、磁気コアと基部を丸ごと包み込んだ。


サヴァルの狂った机上の幾何学と、ニイナが現場で引き直した修正図面、そして環境がもたらした熱膨張の歪み。その全てがサトウのスキルの下で瞬時に「ニコイチ」へと強制再編集され、融合していく。


 ———ズドォォォォォン!!!

正午の鐘が王都の彼方から響くと同時に、地鳴りのような大音響を立てて、磁気コアがパズルの最後のピースがハマるようにソケットの奥深くへと完全に結合した。


 シーン……。

重機の排気音と、定着した磁気圧の柔らかなハミングだけが雲海に響く。


サトウの感覚器(職人の勘)に伝わる手応えは、完璧な「安全」を告げていた。


ニイナが図面を抱えたままヘタヘタと地面に座り込み、バルド親方は槌を肩に担いで、ただただ呆然と一体化した結合部を見つめている。


サトウは重機のエンジンを切り、静かになった操縦席の窓からひょいと顔を出した。

首のタオルで顔のオイル汚れを拭い、フンと鼻を鳴らす。


「正午ジャスト。工期内、完全無災害で引き渡し(竣工)だ。全員、お疲れさん」

その瞬間、雲海の上の空中都市に、ドワーフたちの大歓声が爆発した。


ニイナは涙を目に溜めながらも、サトウに向かって深く、深く頭を下げていた。

第39話、楽しんでいただけましたでしょうか?


正午の墜落リミットが刻一刻と迫る中、ついに空中回廊の心臓部である「大キーロック」の接続へと挑んだサトウ工務店とドワーフたち。


サヴァルが仕込んだ現場無視の最悪なロックに対し、ニイナさんの図面管理、ドワーフたちの職人技、そしてサトウの重機の全馬力を一点に集中させたタイムリミット1秒前の大工事でした。


全員の力を合わせたあの執念の完全施工リフォーム、皆様にその緊迫感と熱量が上手く描けてお届けできていましたでしょうか……?少しでも一緒にハラハラして、すっきり楽しんでいただけていれば幸いです。


サトウ工務店の次なる現場が気になる方は、ぜひブックマークや評価で応援していただけると励みになります。四天王の皆様(ブクマ4名様)もいつも本当にありがとうございます。次の現場(更新)まで、ご安全に!


明日はキララ


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ