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【第三十三話】完全解体と無災害竣工


ズガガガガッ!ドゴォォン!


家一軒分はあろうかという巨大な岩盤が、逃げ場のない地下遺構の天井から容赦なく降り注ぐ。


凄まじい質量兵器の雨。轟音と巻き上がる濃密な土煙が視界を完全な白に染め上げ、建築局長ダムスや兵士たちは「押し潰される!」と悲鳴を上げて頭を抱え、その場にうずくまった。


だが、油圧ショベルの鋼鉄の操縦席に深く腰据えるサトウの冷めた目は、一瞬たりともブレていなかった。


フロントガラスの向こう、土煙の奥で蠢くのは、諸悪の根源である「魔法のコア」。


それが断末魔の悪あがきとして周囲の岩盤を狂ったように侵食し、自らと共にすべてを圧殺しようと地盤を崩壊させているのだ。


サトウは落下してくる無数の瓦礫の重量、軌道、速度――そのすべてをコンマ数秒の職人直感で完璧に見切った。


左右の操縦レバーをミリ単位で、かつ目にも留まらぬ速さで同時に引き絞る。キャタピラがエルミアの作った氷のステージを「ギチギチィッ!」と激しく火花を散らしながら滑り、巨大な岩盤の直撃を紙一重でかわしていく。


「逃げたら現場の負けだ。……ここが一番の踏ん張りどころだ、踏ん張れッ!」

サトウがアクセルダイヤルを限界を超えて回しきり、コンソールのトリガーを完全に絞り込んだ。


ブゥゥゥゥォォォォン!!!と重機のディーゼルエンジンが爆発的な咆哮を上げる。高圧の作動油が太いホースを内側から引き裂かんばかりに駆け巡り、ブームの油圧シリンダーが金属の悲鳴を上げた。


ドギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!!


咆哮と共に突き立てられた超重量級油圧ブレーカーの極太のノミ先が、明滅するドス黒い楔のコアへとジャストで突き刺さった。


サトウの超精密なレバー操作は、コアの構造的な弱点、すなわち最も負荷が集中している「応力の支点」へと、寸分の狂いもなく毎分数百発という暴力的な超連続打撃を叩き込んでいた。


 ドカカカカカカババババババッ!!!


金属と岩石が超高速で激突する凄まじい打撃衝撃波が、ゴーレムの巨体を内側から激しく震わせる。


衝撃の余波で、周囲の空間の空気そのものが目に見える波となって波紋を広げた。


いかに大霊脈の魔力を吸い上げ、いかなる強固な魔法障壁を纏っていようとも、建築物理と重機が叩き出す純粋な重物理破壊の前には無力だった。


コアの表面に、蜘蛛の巣のような白い亀裂がバキバキと高速で広がっていく。

「オラオラ! プロの解体ハツリをナメんじゃねえぞ! 手抜き工事のバグごと、木端微塵に解体工事バラしてやるよ!」


サトウの咆哮と同時に、ブレーカーが最大出力を叩き出した。


 ———ドゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオン!!!!


地下遺構の全域、いや、地上の王都すら震わせるほどの、これまでにない極大の打撃音が轟いた。


次の瞬間、頑強を誇った違法建築のコアが、まるで強度不足の劣悪なコンクリートガラのように、ベキベキと音を立てて分子レベルで完全粉砕された。


まばゆい魔力の破片と岩石の嵐が、四方八方へと派手に爆発的に砕け散っていく。


 ギィィィィャァァァァァッ……!!


コアが破裂した瞬間、怪物の断末魔のような魔力の暴風が地下に吹き荒れた。


核を完全に失い、自らの結合構造を維持できなくなったゴーレムの巨体は、ドサドサ、ボロボロと音を立てて足元から完全に崩壊し、ただの「無害な岩石と土砂(残土)」へと還っていく。


王都を蝕んでいたドス黒い呪いの霧も、大霊脈の本来の神聖な輝きに押し戻されるようにして一気に霧散していった。


「やった……のか?」

ダムスが顔を上げ、呆然と呟いた、その時だった。


「サトウ、大結晶の亀裂から魔力が漏れ出す! コアが消えたせいで、フレームの負荷が偏っている……このままだと地盤がもたない!」

最前線にいたエルミアが、結晶の根元を指差して悲痛な声を上げる。


最悪のバグを引き抜いた反動で、今度は大霊脈の結晶そのものが、内圧の暴走によって自壊の危機に瀕していた。


「慌てるな、エルミア! ———リノ、カレン! 残った結晶の破片と、さっきハツり落とした岩の残土を、その傷口(亀裂)にありったけブチ込め!」


『了解です!サトウさん!』「任せろ!サトウ!」

サトウの的確な指示を受け、カレンが特大の残土を大剣で強引に弾き飛ばし、魔力を使い果たして膝を震わせるリノは、気力だけで巨大送風機ファンのコントロールパネルへと這い寄っていた。

自身の魔力は空っぽだが、機械にはまだ予備の魔石エネルギーが僅かに残っている。リノは全体重を乗せて「逆転・最大風量」の物理レバーを力任せに引き下げた!


傷口が瓦礫で埋まった瞬間、サトウは重機から飛び降り、両手をその傷口へとガシッと突き立てた。自らの固有スキルを、ここですべて注ぎ込む。


「スキルはまだ生きてる。……まとめて【ニコイチ】で溶接する!」


 ——【万物再利用リユース・エクス・マキナ】——


サトウの両手から放たれた、これまでにないほど眩い幾何学模様の残光が、大結晶の亀裂へと一気に流れ込んだ。


するとどうだ。バラバラになって転がっていた、かつての不法投棄(元・バグ)である最高級の魔法合金の破片が、サトウのスキルの光によって一瞬で融解を始める。


それは結晶の傷口を寸分の隙間もなく埋める最高の「溶接材パテ」へと生まれ変わり、メキメキと音を立てて大結晶本体と完全に一体化していった。


ただ壊すだけで終わらない、職人の極上の「修繕技術」が、ここに完璧な形で結実したのだ。


 ゴォォォン……。


地下遺構に、今度は心地よく安定した、低く重厚な地鳴りが響き渡る。


大霊脈の結晶は、これまでにないほど澄み切った、美しい青の神聖な輝きを取り戻していた。

王都の地盤沈下は完全に停止し、地上側の大運河の激流も、完璧にコントロールされた流路へと収まっていくのが肌で感じられた。


「地盤沈下が止まった……! 結晶が、安定している……!」

「王都は……我が国は救われたのだぁぁぁ!」

さっきまで腰を抜かしていたダムスや兵士たちが、手を取り合い、ボロ泣きしながら割れんばかりの歓声を上げた。


王都を水没の危機から救う「王都インフラ大修繕工事」、ここに完全竣工。


静まり返った地下現場で、サトウは油圧ショベルのエンジンを切った。静かに回転を止めるメカニカルな余韻の中、操縦席のドアを開け、地面へと軽く飛び降りる。


「サ、サトウ殿! 奇跡だ、まさに国を救う大偉業だ! 陛下へ直々に――」

「あー、そういう堅苦しい挨拶はいいから、後でちゃんと書類(検収書)回しといて。ハンコ忘れるなよ」

涙目で駆け寄ってくるダムスを冷たくあしらい、サトウは汚れた作業手袋をパチンと脱いだ。


涙目で駆け寄ってくるダムスを冷たくあしらい、サトウは汚れた作業手袋をパチンと脱いだ。


そこへ、トトト……と少し危なっかしい足取りで、リノが歩み寄ってきた。


すっかり魔力を使い果たしたせいで、その小さな膝は生まれたての小動物のようにガタガタと震えている。顔も煤で真っ黒だ。


それでもサトウに心配をかけまいと、リノは胸を張って、これ以上ないほどの「空元気」な笑顔を作って見せた。


差し出す木製のカップを持つ手もわずかに震えているが、その中身———湯気の立つコーヒーは一滴もこぼさないよう、必死に指先に力を込めている。

「サ、サトウさん、本当にお疲れ様でした! あまり多くは用意できなかったんですけど……っ、ちょっとビターで濃いめの、淹れたてです!」


「……生き返るな。やっぱり現場の後はこれだ」


リノの無理な頑張りをすべて察しながらも、サトウはあえて野暮なことは言わず、差し出された熱いカップを優しく受け取った。


フゥフゥと息を吹きかけ、温かいコーヒーを口に含む。深い苦味と芳醇な香りが、激戦で張り詰めていた神経をじんわりと弛ませていく。


泥まみれになりながらも、やり遂げた充実感を顔に浮かべたカレンとエルミアが、リノの肩をそっと支えてやりながら、それぞれの木製カップをサトウの手元に「カチン」と軽く合わせた。


コーヒーの温かさが、泥臭い地下の空気の中で何よりも愛おしい。


「片付けまでが工事だ。全員、忘れ物(工具)がないか確認して撤収するぞ」

サトウはカップを飲み干すと、油圧ショベルの操縦席のドアを開けた。

そして、まだ足元をふらつかせているリノの脇を、背後から「ひょい」と両手で無造作に持ち上げた。

「へっ? あ、あの、サトウさん……っ!?」


驚いてアッシュグレーの耳ををピンと立たせるリノを、サトウはそのまま重機の高い操縦席のシートへと優しく、ストンと座らせる。


「魔力切れの歩荷ぼっかほど工期の足手まといになるもんはねえ。そこ座ってろ。……カレン、エルミア、お前らは重機の横について歩け。歩けるな?」


「もちろんだ!」すんっ!

「ふっ、私はこれでもまだ余力がある。」


サトウは無表情のまま、再びエンジンキーを回した。

———ブゥォォォン、と心地よいアイドリング音が静まり返った地下に響く。


リノは特等席で真っ赤になりながらも、サトウのぶっきらぼうな優しさが嬉しくて、今度は本当の満面の笑みを咲かせた。


「今回も無災害だ。よし、帰るぞ」

サトウがレバーを引くと、油圧ショベルがゆっくりと、しかし力強く動き出す。


カレンとエルミアが重機の左右を固め、サトウに向かってビシッと拳を胸に当てて声を揃えた。

シートの上で、リノも震える手を一生懸命に掲げる。

その耳が、安心したように嬉しそうにピコピコと揺れていた。


「「「はい! 今日もご安全に!!!」」」


静かに、そして力強く輝く大結晶の光を背に受けて、サトウ工務店の重機は、誇らしげに地上へと歩みを進めていく。



第33話、楽しんでいただけましたでしょうか?

サトウの最大出力で「本丸のバグ」を粉砕し、

王都の大トラブルも見事に「竣工」を迎えました!


激動の現場を終えた後、ぶっきらぼうだけど優しいサトウと、全員での「今日もご安全に!!!」で締める大団円、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。


サトウ工務店の次なる現場が気になる方は、

ぜひブックマークや評価で応援していただけると励みになります。


四天王の皆様(ブクマ4名様)もいつも本当にありがとうございます。次回もお楽しみに!次の現場(更新)まで、ご安全に!


明日はキララ

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