【第三十一話】外壁ハツリと解体手順(段取り)
ドズゥゥゥン……!!
地響きと共に地下遺構の奥から這い出てきたのは、数メートル級の質量を持つ、文字通りの『違法建築ゴーレム』だった。
大霊脈のドス黒く歪んだエネルギーを心臓部にして、地下の強固な岩盤、かつて不法投棄された魔法の残骸、そして先ほど粉砕された魔物の殻までもが磁石のようにドロドロと吸着し、巨大な歪な人型を形成していく。
「攻撃が効かん! 剣で岩を削っても、魔法で部位を吹き飛ばしても、周囲の残土を吸い上げてすぐに再生してしまう!」
「くそっ、キリがないぞ! 一体どうすればいいんだ!」
護衛の兵士たちが絶望的な悲鳴を上げながら後退する。
だが、油圧ショベルの操縦席に腰据えるサトウは、レバーを握ったまま冷めた目でその巨体の動きを凝視していた。
怪物が一歩を踏み出すたびに生じる傾き、結合部の歪み、 そして全体の重量バランス———それらをプロの解体業者としての客観的な視線で冷徹に値踏みする。
サトウは迷わず窓を開け、拡声器を掴んで口元に宛てた。
『こちらサトウ。慌てるな。再生してんじゃねえ、ただの「盛り土」だ。芯にある魔法の楔を直接叩かねえ限り、外側をどれだけ弄っても止まらねえ。だが、いきなり芯は狙えねえ。解体の基本は【上から、外から】だ。まずは邪魔な外壁(まわりの岩)をハツり落とすぞ!』
「了解だ、サトウ! 『外から』だな」すんっ——
サトウの明確な指示が飛んだ瞬間、カレンの迷いは完全に消え去った。
幾何学模様の大剣を握り直し、爆発的な闘気と共に跳躍する。
ゴーレムの巨体へと肉薄したカレンは、本体の厚い胸部を狙うのではなく、ゴーレムが周囲から吸い寄せている「右腕の結合部の岩盤」へと狙いを定めた。
目にも留まらぬ速さで、鋭い連続斬撃が虚空を裂く。
キィィィン! ドガガガッ!
闘気を纏った大剣が、ゴーレムの右腕の付け根を綺麗に一文字に「縁切り(切り離し)」していく。
構造としての繋がりを絶たれた怪物の巨大な右腕は、自らの質量を支えきれずにグラリと不自然に傾いだ。
「……ハツった破片が飛び散れば二次災害になるな。私が足場を固める」
カレンが着地した直後、間髪入れずにエルミアが鋭い詠唱を紡ぐ。
両手から放たれた極大の冷気が、ゴーレムの足元と、カレンが切り離して崩落しかけた巨大な岩の塊を包み込んだ。
バリバリバリ!と地鳴りを立てて、結合部から剥がれ落ちた岩盤がその場でカチカチに凍りつく。
これにより、敵の破片による質量攻撃を防ぐと同時に、崩落しかけた足元が強固に連結され、サトウの重機が最大出力を出せるための、びくともしない「作業足場」が完璧に確保された。
『カレン、エルミア、いい段取りだ。……よし、本番行くぞ』
サトウの操縦する油圧ショベルのエンジンが、キュルル、ボボボボッ!と激しい黒煙を上げて爆音を響かせた。
エルミアが凍らせた強固な氷の足場を、重いキャタピラが「ギチィッ」と力強く踏み締め、重機が前進する。シューッ、シューッという油圧シリンダーの太い駆動音と共に、先端の巨大なノミ———「油圧ブレーカー」が、カレンが縁切りして生じたゴーレムの「右肩の亀裂」へと正確に突き立てられた。
「よし、まとめてハツるぞ」
サトウがコンソールのトリガーを絞る。
ドギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!!
地下遺構の全域が激しく激しく鳴動し、鼓膜を劈くような金属と岩石の超連続打撃音と地響きが轟いた。
サトウの超精密なレバー操作により、毎分数百発という暴力的な物理打撃が、寸分の狂いもなくピンポイントでゴーレムの外殻に打ち込まれていく。
強烈な衝撃で火花が爆発的に飛び散り、細かく粉砕された石粉が白い嵐となって周囲を遮る。
火薬の匂いと、摩擦で焼けた石の匂いが現場に立ち込めた。
「オラオラ! 手抜き工事のガラクタが、プロの重機に勝てると思ってんじゃねえぞ!」
圧倒的な物理破壊の前に、ゴーレムの右半身を構成していた外壁の岩盤が、ベキベキと音を立てて無残に剥がれ落ちていく。
ボロボロと崩れ去る瓦礫の奥から、ドス黒く禍々しく明滅する「本丸のバグ(コア)」———あの魔法の楔の一部が、ついにうっすらと外へと露出した。
勝機が見えた、と誰もが確信したその瞬間だった。
剥き出しになったコアが、まるで侵入者を拒絶するように歪にドクン、ドクンと拍動した。
「っ!? サトウ、離れて!」
エルミアの警告と同時に、コアの隙間から、地下遺構に数百年間溜まっていた「大量の有毒ガス(死霊の魔力)」が、ブワッと濁流のように周囲に撒き散らされ始めた。紫色の濃霧が、一瞬にして現場の視界を奪っていく。
「ゲホッ、ゴホッ! な、なんだこのガスは……息が……!」
「身体が、痺れて動けない……!」
周囲の兵士たちがバタバタと倒れ伏し、操縦席の計器盤には「酸欠アラート」の赤いランプが猛烈に点滅を始める。
サトウがすぐに拡声器を掴み、「おいリノ、防護――」と言いかけた、その瞬間だった。
———ヴォォォォォォォォン!!!!
サトウの指示を遮るようにして、後方に設置されていた超大型換気ファンが、鼓膜を震わせるほどの重低音を立てて強制始動した。
猛烈な勢いで逆回転を始めた送風ダクトが、地下の澱んだ空気を力技で押し戻し、有毒ガスの濃度を一気に薄めていく。
「サトウさん、ステージ2(強制排気)に切り替えました! 防護服です、全員分あります!」
いつの間にか操縦席のすぐ横に詰め寄っていたリノが、サトウの顔の前にプロ仕様の防護マスクを間髪入れずに差し出した。その手にはすでに、後方の全員に配るための予備のマスクが詰まったカバンががっしりと握られている。
計器盤のランプが赤く点滅した瞬間に、事態を予測してすべての段取りを終わらせていたのだ。
「……さすがだな、リノ。いつも助かる」
サトウは冷めた目を優しく緩めると、差し出されたマスクを受け取って装着した。
サトウからの心からの賞賛と信頼の言葉。
それを聞いたリノは、一瞬だけ驚いたように目を見張ったが、すぐにその頭の上の耳を嬉しそうにピコピコと動かしていた。
マスク越しでもわかるほど、その頬が嬉しさで緩んでいる。
「えへへ、お任せください!」
リノは力強く頷くと、すぐさま後方の避難指示へと走り出した。
サトウは再び拡声器を握り直す。
『リノの言う通りだ! 全員マスクをつけろ! 換気ファンは最大出力、ここからが本番の突貫工事だぞ!』
白いガスが激しく渦巻く最悪の現場。
だが、完璧なサポートを得た職人たちの目は、まだ死んでいなかった。
命懸けの「長期解体工事」は、ここからさらに過酷な戦いへと突入していく。
第31話、楽しんでいただけましたでしょうか?(書いてる私自身、30話と31話はいつも以上に気合を入れて楽しく書けたのですが、少しでも楽しんでいただけていたら幸いです…笑)
どれだけ巨大化しようがサトウにとってはただの「構造物」でしかなく、解体の基本手順通りにハツり倒していく姿が描けた総力戦の幕開けの回でした。
カレンが削り、エルミアが固定し、サトウがバラすという、女の子たちとの連携でこの巨大な違法建築をどう解体していくのか――!?
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次回もお楽しみに!次の現場(更新)まで、ご安全に!
明日はキララ




