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【第三十話】不法投棄(バグ)の強制解体と、未知の構造


大霊脈の結晶にドス黒く突き刺さった巨大な魔法の楔。そこからパキパキと、不吉なガラスが割れるような音が地下遺構に響き渡った。


楔を中心に、毒々しい紫色の亀裂が結晶の表面を走るたび、地上の王都全域で魔力のバランスが崩壊していくのが伝わってくる。

大運河の水面が怪しく光り、王都を支える見えない基盤がギチギチと悲名を上げていた。


「……ダメだ。この楔、ただ突き刺さっているだけじゃない。大霊脈の根幹と完全に魔力回路が癒着しているわ。力づくで抜けば、その瞬間に大霊脈そのものが衝撃で大爆発を起こす……!」

エルミアは唇を噛み締め、その白い指先を小刻みに震わせた。

彼女の精霊視が、この「バグ」の致命的な危険性を正確に捉えていた。


建築局長のダムスにいたっては、「もう手遅れだ! 王都が木端微塵になる!」と頭を抱えて地面に泣き崩れている。


「エルミアがそう言うなら、さすがのサトウも……詰みか……」

普段はどんな逆境でも大剣を構えるカレンすら、今回ばかりは相棒の柄を握る手に迷いを生じさせ、ぽつりと絶望を口にした。


しかし、油圧ショベルから無造作に降りてきたサトウは、冷めた目のままその禍々しい楔の前に歩み寄った。

ゴツゴツした手で作業用のバールを持ち、コンコンと楔の表面を軽く叩く。金属とも岩石ともつかない重厚な音が響いた。


「詰み? ふっ、何言ってんだ。これだけの魔力合金の塊、まともに発注してみろ。予算がいくらあっても足りねえぞ。不法投棄してくれた前施工主(バカ大臣)に感謝しねえとな」


サトウにとって、これは世界を滅ぼす呪いでも危機でもなかった。現場に転がっている、最高に上質で、利用価値のある「廃材ジャンクパーツ」に過ぎないのだ。


サトウは使い古された作業手袋をグッとはめ直すと、ドス黒い楔と、ひび割れた大霊脈の結晶の両方にガシッと両手を触れた。


「道具の手入れ、資材の適材適所。……ゴミにするか資材にするかは、職人の腕次第だ」


 ――カチ。


 サトウの脳内で、完全に現場のスイッチが入った。


「――スキル、【万物再利用リユース・エクス・マキナ】。」



その瞬間、サトウの手元から、眩いばかりの幾何学模様の魔力回路がブワッと溢れ出した!


それは以前にカレンの大剣を打ち直した時とは比べ物にならない規模と密度の光だった。

津波のように広がった輝きは、禍々しい楔の全容を包み込み、その構造を強引に脳内へとトレースしていく。

エルミアもカレンも、その神聖ですらある職人スキルの輝きに、思わず息を呑んで見入っていた。


スキルの光が楔を包み込み、不純物を取り除いて綺麗な資材へと再構築リサイクルされようとした、その時だった。


――ギチギチギチィ!!!


突如として、楔の奥からドス黒い魔力が噴き出し、再利用の光を激しく拒絶した。


「な、何これ……!? 構造が、内側から書き換わっていく……!」

エルミアが驚愕の声を上げる。


楔の表面のパッチワーク模様が歪に歪み、大霊脈のエネルギーを強引に吸い上げて、まるで生き物のように蠢き始めたのだ。


「サトウ、危ない! それはただの楔じゃない! 古代の防衛システム(呪い)の核だ! 大臣たちはそれを知りながら、違法な魔力抽出のために無理やり大霊脈に埋め込んだんだ……二重のトラップ(違法建築)だ!」


ドゴォォン!と魔力の拒絶反応が炸裂し、サトウの作業手袋がパチバチと火花を散らして弾け飛んだ。


さすがのサトウも「チッ……! 構造体の積算(計算)が追いつかねえ……!」と顔をしかめ、一歩後退を余儀なくされる。


リユースの刺激によって逆に活性化した呪いの楔は、地下遺構の壁や岩盤、さらには先ほどサトウたちが粉砕した魔物の死骸(残土)までを、磁石のようにドロドロと猛烈な勢いで吸い寄せ始めた。


ガラと瓦礫が肉を形成するように組み上がり、それは巨大な「歩く違法建築(魔力とガラのゴーレム)」へと姿を変えていく。


「オォォォォォォォォッ!!!」

巨大な岩石と魔法の楔が融合したバグの怪物が、重低音の咆息を上げた。その振動だけで地下遺構の天井からパラパラと土砂が崩落し始める。


一発撤去で綺麗に終わるはずだった現場が、一瞬にして崩落寸前の危険地帯へと変貌した。完全に想定外の複合災害だ。


だが、サトウの目はまだ死んでいなかった。

むしろ、難工事を前にした職人の執念が、その冷めた目の奥で静かに、激しく燃え上がっていた。


サトウは瞬時に油圧ショベルの操縦席へと飛び乗ると、拡声器をひっつかんだ。

『ピーーーー!』

激しいハウリング音が響き渡る。


『全員、作業配置に戻れ! 構造がクソ複雑に入り組んでやがる。一発撤去は無理だ。……これより、力技の【解体工事】に切り替える!』


「サトウさん!!どこから壊しますかーーー!?」

後方からリノが、割れんばかりの声で叫んだ。


恐怖に震えるどころか、サトウの指示を待つ彼女の目は、アシスタントとしての強い覚悟に満ちている。


カレンが大剣を構えて前線へ走り出し、エルミアが魔力を練り上げて防護壁を展開する。


『外壁(外側の岩)から順にハツっていくぞ! 工期が伸びるが……手抜き工事をそのまま残して引き渡せるかよ!』

サトウは油圧ブレーカーのレバーを限界まで押し込んだ。


『全員、ヘルメットの紐を限界まで締めろ! 安全第一でブチ壊すぞ!』


崩れ落ちる地下現場の中。サトウ工務店と、

最悪の違法建築による、

命懸けの「長期解体工事(決戦)」の幕が、

ついに切って落とされた。


第30話、楽しんでいただけましたでしょうか?

大霊脈を汚染するバグの正体が、

まさかの「複合型の不法投棄」というサトウの職人魂を一番逆撫でするタイプの最悪な現場でしたね!

固有スキル【万物再利用】と重機をフル稼働させても一筋縄ではいかない過去の遺物に、サトウ工務店がいよいよかつてない長期戦へと突入します。


メキメキと変化する最悪の現場を相手に、カレンやエルミアたちとどう総力戦で挑むのか――!?


サトウの次の現場が気になる方は、ぜひブックマークや評価で応援していただけると励みになります。既に登録頂いた四天王の皆様(ブクマ4名様)感謝申し上げます。


次回もお楽しみに!次の現場(更新)まで、ご安全に!


明日はキララ

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