【第二十八話】地下大霊脈の修繕工事(施工前段取り)
皆様、いつもサトウ工務店へのご入場ありがとうございます!
そして、現場から緊急の謝罪とご報告が……。
前回の第27話、完全に重機のレバーを握る手が走りすぎて、後書きを丸ごと流し込み忘れるという世紀の施工ミス(やらかし)をやらかしました……orz
ですが、そんなポンコツな現場監督を横目に、なんと気がつけばブックマークが『4件』に増え、最高評価(★5)までドロップされておりました……!新入りの職人様、そしていつも巡回してくださる皆様、本当にありがとうございます!
というわけで、お礼を伝えるべく今回は「前書き」から緊急着工いたしました。
本編の第28話も、どうぞご安全に!!!
王都大運河の底。激流が去ったあとに露わになったのは、ひび割れた岩盤の奥にひっそりと佇む、古びた石造りの大扉だった。
かつて王都が築かれるよりも遥か昔に存在したとされる、危険な魔物が巣食う「地下遺構」への入り口。そこから漏れ出る冷気は、どことなくおどろおどろしい雰囲気を纏っている。
「ま、まさか、大霊脈がこんな呪われた遺構に繋がっているなんて……」
「生きては戻れんぞ。かつて調査に入った高位の魔導士たちですら、大半が行方不明になったという暗黒の迷宮だ……!」
案内役の兵士たちがガタガタと震え出し、建築局長であるダムスも顔を青くして大扉を見上げる。
だが、サトウはそんな大げさな反応をフンと鼻で笑うと、重機から降りて地下の入り口を作業用ライトで照らした。
「呪いだの生きて戻れねえだの、いちいち騒ぐな。ただの換気不良の地下暗渠だろ。中に入る前に、まずは『段取り』だ」
サトウは重機の工具箱から、無骨な長方形の携帯用ガス検知器を取り出した。大扉の隙間にセンサーのノズルを差し込むと、電子音が小さくピピッと鳴り響く。
サトウは死んだ魚の目でその数値を睨みつけながら、背後の面々に吐き捨てるように言った。
「いいか。魔物なら剣で斬り合えるし、魔法で防壁も張れるだろうが、ガスや酸欠は『見えない、臭わない、気づいた時には足が動かない』。お前らみたいな戦闘の素人も玄人も関係ねえ、一番マヌケに死ぬパターンだ」
サトウの言葉は淡々としていたが、だからこそ現場をいくつも修羅場としてくぐり抜けてきた職人の、冷徹な説得力に満ちていた。
「無酸素の空気を一呼吸でも吸ってみろ。脳の酸素が瞬時に抜けて、自覚症状もないままその場でぶっ倒れて終わりだ。ダンジョンだの遺構だので死んだ昔の冒険者の大半は、魔物の呪いじゃなくて、ただの換気不良のせいだと俺は睨んでる。死因の分析もできねえからオカルトに逃げるんだよ、素人は。……リノ、送風機とダクトを準備しろ。中に新しい空気を送り込むぞ」
「了解です、サトウさん! 大型ダクト、展開します!」
サトウの指示が飛ぶやいなや、リノが素早く動いた。
重機の荷台から引き出されたのは、折りたたまれてジャバラ状になった、頑丈な布製の長大な特殊ダクトだ。リノはガシャガシャと手際よく工具を扱い、慣れた手つきで魔導送風機の吐出口にダクトの基部を固定していく。
「な、何だあの蛇のような巨大な管は……!? いったい何をするつもりだ」
ダムスが目を丸くして見守る中、リノはダクトの先端を掴んで、地下遺構の大扉の奥へと一気に伸ばしていった。
何十メートルもの長さを持つ布の管が、暗闇の奥へと吸い込まれていく。そしてリノが魔導送風機の起動レバーをガチリと下げると、
────ゴーッ!!!
凄まじい、だが頼もしい駆動音と共に、新鮮な外気が強引に暗闇の奥へと送り込まれ始めた。
数秒と経たないうちに、大扉の隙間から、それまで溜まっていた泥臭く淀んだ空気が押し出されてくる。代わりに、地上と変わらない清涼な風の循環が生まれ、周囲の空気が劇的に変わっていく。
「あ、空気が……軽くなった……!?」
ダムスは驚愕のあまり、自分の喉元を押さえた。ただの管と風を送り込む機械だけで、あの忌まわしい遺構特有の「肌にまとわりつくような圧迫感」が、綺麗に霧散してしまったのだ。
エルミアはその徹底した「生存への合理性」を静かに見つめ、カレンは「さすがサトウ、戦う前の備えに抜かりはないな、すんっ」と深く感心して胸を張る。
ダクトの設置が終わり、地下の空気が完全に循環するのを待つ間、サトウが声をかけた。
「よし、施工前に腹を留めとくぞ」
リノが市場で仕入れてきた食材で作った、温かい『現場風具だくさんスープと堅焼きパン』が全員に配られる。暗く不気味な地下の入り口の前で、そこだけパッと火が灯ったような温かい空気が広がった。
「……! 根菜の甘みと肉の出汁が身体の芯まで染み渡る! これで地下の悪霊が来ても百人力だな、すんっ!」
カレンはスープをフゥフゥと吹きながら一口すすると、いつもの調子を完璧に取り戻した。
エルミアも器を両手で持ち、静かにスープを味わう。
「……温まるな。これだけの栄養を一度に摂取できれば、地下の冷気など恐るるに足りん。リノ、お前の兵站能力には毎回驚かされる」
「えへへ、エルミアさんにそう言ってもらえると嬉しいです! おかわりもありますからね〜」
リノがアッシュグレーの尻尾をパタパタと誇らしげに振る。
サトウは古い図面を見ながら、無骨に堅焼きパンをスープに浸して噛み締めていた。
チームの会話を静かに聞き流しているようでいて、その実は全員の体調とモチベーションが万全であることを、職人の目でしっかりと見極めている。
食事が終わり、全員が黄色いヘルメットの顎紐を強く締め直した。
サトウは油圧ショベルの先端を、今までの土を掘るための「バケット」から、岩盤を打ち砕く巨大なノミのような「ブレーカー」へと換装を完了させていた。
ガチリ、と油圧ホースが繋がる重厚な金属音が、暗い暗渠に静かに響き渡る。
サトウが操縦席に乗り込み、拡声器をガッと掴んだ。
『───こちらサトウ。これより地下大霊脈の修繕工事を開始する。足元が暗い、段差に注意しろ。カレンは先行して障害物の索敵。エルミアは壁の強度をスキャン。リノは後方の資材管理。……行くぞ』
一度言葉を切ると、サトウは力強くレバーを握り込んだ。
『安全第一だ!』
────キュルルル、ドガァァォン!!!
重機の凄まじいエンジン音が地下遺構の奥へと轟然と鳴り響く。サトウ工務店の一行は、未知なる暗闇の奥へと力強く一歩を踏み出した。
第28話もお読みいただき、ありがとうございました!
(今回は忘れないように、ちゃんと投稿前にコンクリートを流し込みました!笑)
王都編、サトウの現場介入はいよいよここからが本番。
面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価での補強、ぜひよろしくお願いいたします!
次回も、どうぞご安全に!




