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【第二十五話】ゴミを資材に変える「ニコイチ」


「……で、これをどうする気なんだ、サトウ殿」


大運河の脇で、建築局のダムスが顔を青くして立ち尽くしていた。


彼の視線の先にあるのは、油圧ショベルによって運河の底から掻き出された、悪臭を放つ大量のヘドロの山だ。ダムスの部下たちも、不気味な魔力の残滓を帯びたドロドロの塊を前に、気味悪そうに距離を取っている。


サトウは彼らを見向きもせず、リノが市場から調達してきた油脂グリスを重機の各部へ無言で注油していた。ガンタイプの手動ポンプをガショガショと動かし、可動部のメンテナンスを終えると、ようやくボソッと口を開く。


「ダムス。王都のスクラップ置き場から、魔導具の『廃石』と、石灰岩の粉をありったけ持ってきてくれ」


「は? 廃石……あの使い古された魔力結晶のクズですか!? そんなゴミを集めて一体どうするのですか!」


驚愕するダムスを、サトウは運転席から死んだ魚の目で一蹴した。

「お前らはすぐゴミだの失敗作だの言う。使えねえのは資材じゃなくて、お前らの頭(目利き)だろ。さっさと動かせ、工期が縮むぞ」


「ひっ! すぐに手配します!」

サトウの有無を言わせぬ圧に、ダムスは悲鳴を上げて部下たちに指示を飛ばした。



「ちくしょう、なんで俺たちがこんなゴミを運ばなきゃいけないんだよ」

「宮廷建築士団の先生方の魔法でもダメだったんだぞ。あんな地方の作業員が、廃石のクズと石灰なんかで何ができるってんだ」



王都のスクラップ置き場から現場まで、重い麻袋を背負って往復するダムスの部下たちは、あからさまに嫌気を出していた。


彼らが運んでいるのは、魔力が枯渇して変色した『廃石』の山と、真っ白な石灰岩の粉だ。

どれも王都では「使い道のなくなった廃棄物」として打ち捨てられていたものばかり。

額に汗を浮かべた若手兵士の一人が、地面に袋をドサリと下ろして愚痴をこぼす。


「大体、ダムス様もあのサトウとかいう男にペコペコしすぎだろ。建築局の長としての威厳はどこにいっちまったんだよ」

「静かにしろ、聞こえるぞ。……さっさと袋を開けろ、あの死んだ魚の目に見つかったら何を言われるか分からん」


部下たちは忌々しげにサトウを睨みつけながら、ヘドロの山の横に廃石と石灰をぶちまけていった。



サトウは彼らの視線など一瞥もせず、油圧ショベルのレバーを握った。

 キュルルル、ドガガガガ! とエンジンが咆哮を上げる。ここからが職人の本番だ。


サトウはバケットの先端を器用に使い、まずは石灰の粉とヘドロをざっくりと混ぜ合わせた。

水分を多く含んだドロドロの泥に石灰が混ざることで、化学反応による熱が発生し、ヘドロの水分が急激に吸収されていく。

粘り気が出てきたところで、今度は魔導具の廃石をそこに投入した。


 ガシャガシャ、ゴリゴリと、金属と石が擦れ合う凄まじい音が現場に響き渡る。


サトウの重機さばきは正確無比だった。バケットをただ叩きつけるのではなく、手前に引きながら泥を反転させ、廃石のクズを満遍なく行き渡らせる。


すくい上げては落とし、ブレンドの密度を均一にしていく地道なミキシング(撹拌)作業。


かつて宮廷魔導建築士たちが失敗して捨て去った「魔導ヘドロ」には、まだ不安定な魔力成分が残っていた。そこに、廃石の結晶内にわずかに残る微弱な魔力と、石灰の成分が合わさった瞬間、泥の性質が劇的に変化を始める。


熱を帯びた泥が灰色に変色し、見る見るうちに粘り気を増して、強固に硬化する特殊なセメント(裏込め材)へと変貌していくのだ。


「……バカな」

その様子を横で観察していたエルミアが、驚きに目を見張った。

「それぞれの魔力は死んでいたはずだ。だが、混ぜ合わされたことで泥の分子が結晶化し、鉄よりも硬い強度へと変質している。……サトウ、お前は錬金術師か?」


「ただの『再利用(ニコイチ)』だ。現場のゴミをどう活かすかで、職人の腕が決まるんだよ」


サトウは視線すら合わせず、淡々とレバーを操作する。


さっきまで愚痴を叩いていたダムスの部下たちも、目の前で起きた「ゴミが最強の補強材に変わる光景」に、完全に言葉を失っていた。


めったに感情を出さないエルミアの目が、サトウの圧倒的な「現場の目利き」への深い敬意に揺れていた。


「よし、圧入するぞ。エルミア、位置を教えろ」

「分かった。そのまま真っ直ぐ五メートル奥だ。そこに地盤沈みの最大の空洞がある。そこを埋めろ」

「おう」


サトウはエルミアの精密なナビゲーションに従い、精製した最強の補強材グラウトをバケットで掬い上げると、城壁の亀裂の奥にある地中の空洞へと一気に流し込み、押し固めていく。


重機のサイズを感じさせない、ミリ単位の超絶的なコントロールだ。


「サトウ、下は任せたぞ! こちらは上の安全を確保した!」

城壁の上方からは、カレンの神速の一撃が響く。

彼女は大剣を構え、地盤の歪みで上空から落ちてくる瓦礫や崩落しかけた石材を完璧に叩き落とし、現場の安全を完全に守りきっていた。


 ドンッ! ドンッ!


サトウはバケットの底面を使い、注入した泥の上から地面をガンガンと転圧(踏み固め)していく。


──── その瞬間だった。

メキメキと不気味な音を立てていた巨大な白亜の城壁の鳴動が、ピタッ……と完全に鳴り止んだ。

地を揺るがしていた不穏な地鳴りが消え、亀裂の進行が、完全に停止したのだ。


「お、おぉ……城壁が、止まった……! 本当に、あのゴミだけで……!」

ダムスはその場に腰を抜かし、涙を流して震えていた。王都の象徴が、地方の作業員の手によって救われたのだ。


だが、サトウは操縦席でふぅと短く息を吐き、ヘルメットの位置を直しただけだった。これだけの偉業を成し遂げながら、ドヤ顔ひとつしない。


「……これで基礎(足元)は一先ず固まった。だが……本当のバグはここじゃねえな」


サトウは重機の窓から顔を出し、干上がった運河のさらに上流――王都の中枢、宮殿側を冷ややかに睨みつけた。


「おい、ダムス。この運河の最上流、何がある?」

「え? 最上流、ですか……? 宮殿の地下、あるいは……」


「水の流れが不自然に堰き止められてやがる。誰かが意図的に手抜き工事の隠蔽でもしてねえか、これ」


「な、何ですって……!?」

ダムスが息を呑み、現場に凍りついたような静寂が落ちる。


城壁の危機を脱したサトウ工務店が次に挑むのは、王都の深部に潜む、人為的な「巨大なバグ」だった。


第25話もお読みいただきありがとうございます。

魔法しか信じない王都の連中の鼻を、

ヘドロとスクラップで作った最強の補強材グラウトで明かしてやったサトウの職人技、スカッとしていただけたら幸いです。

やっぱり現場の「目利き」と「リユース」こそが最強の権能ですね!


しかし、無事に城壁を補強したのも束の間、王都の深部には何やら不穏な巨大バグの気配が……?


ぜひブクマや評価を残して待機していただけると励みになります!

それでは皆様、最高の週末を。どうぞご安全に!


明日はキララ


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