【第二十四話】サトウ工務店の現場入り
「工期は二週間。遊んでる暇はねえ。全員、自分の職務を全うしろ」
工事開始直前。サトウの淡々とした声が、重機の唸る現場に響いた。
集まった面々を冷めた目で見据え、サトウはいつも通り無駄のない指示を飛ばしていく。
「カレン。野次馬が旋回半径に入らねえよう見張れ。あとは重機じゃ入り込めねえ隅のデカい瓦礫をどかしとけ」
「承知した! 騎士団長の威信にかけ、一人の侵入も許さん。重量物移動もお任せあれ!」
カレンはすんっと胸を張り、頼もしく微笑む。
「エルミア。あんたの精霊視で、泥の下に埋まってる古い配管や空洞を探れ。図面が信用できねえから、あんたの目が頼りだ」
「……なるほど。地中の霊脈の乱れを読み取ればいいんだな。面白い術理だ。任せろ」
エルミアの静かに闘志を宿した瞳が、現場の泥を見つめる。魔法による地中探査――まさに超高性能の地中レーダー役だ。
最後に、サトウはソワソワと出番を待つ少女を振り返った。
「リノ。ダムスに馬車を出させて、市場で『材料』を揃えてこい。今日の昼飯と、午後の作業に必要な油脂だ」
「はい、サトウさん! 王都の美味しいもの、たくさん見つけてきますね!」
リノは元気よく返事をすると、建築局の長であるダムスが慌てて手配した豪華な馬車へと乗り込んだ。
王都の市場は、地方とは比べものにならない活気に満ちていた。
ダムスの部下である兵士数名が荷物持ちとして付き従う中、リノは鋭い目で露店を巡る。彼女はサトウ工務店の「現場のコスト管理」を預かる身。お偉いさんの財布だからと妥協はしない。
「うわあ、お肉も野菜もいっぱい……! でも、のんびり選んでる時間はありませんよね」
リノは現場の状況を素早く計算する。作業の合間に片手で食べられる「機能的な食材」――それが今日のテーマだ。
「すみませーん、この小麦粉を三キロ! あと、その新鮮なお野菜と、そっちの厚切り肉を塊でちょうだい!」
「へい! 毎度……って、お嬢ちゃん、そんなゴツい肉をどうするんだい?」
「あ、この肉、もっと細かくカットできますか? 脂身の多いところを適度に混ぜてもらえると助かります!」
可愛らしい外見に似合わぬ、プロの的確な注文。市場の商人たちは、そのギャップと淀みのない手際に圧倒され、圧倒されながらも要望通りの極上肉を包んで手渡した。リノは素早く油脂の調達も済ませ、現場へと急行する。
その頃、崩落寸前の大運河では、サトウ、カレン、エルミアによる「三位一体」の施工が始まっていた。
キュルルル、ドガガガガ!
サトウが操縦する油圧ショベルが咆哮を上げ、濁った泥を容赦なく掻き出していく。その動きには一切の無駄がない。
「サトウ、その三メートル先……右側に古い石造りの導水路が眠っている。バケットを当てるな」
傍らに立つエルミアが、霊脈を視る双眸で地中を透過し、的確なナビゲーションを送る。
サトウは視線すら動かさず、ノールックでレバーを微調整し、古い遺構を完璧に避けて掘り進めた。
「そこまでだ、市民! ここから先は立ち入り禁止区域である! 退かれよ!」
一方、現場の周囲では、カレンが威厳たっぷりの大音声で野次馬を退散させていた。それだけに留まらず、重機が通れない狭い隘路に差し掛かると、彼女は笑顔で袖をまくり上げる。
「ふんっ!」
重機でも手こずるような巨大な岩を、カレンは超人的な膂力で軽々と持ち上げ、安全な場所へと放り投げた。
その様子を遠巻きに見ていたダムスは、驚愕のあまり開いた口が塞がらない。
(な、なんだこのチームは……! 国の最高戦力たるお二方が、まるで手足のように動き、サトウ殿の重機と完全にリンクしている……!)
「みなさーん! お昼ご飯ですよー!」
午前中の猛烈な作業が一段落した頃、リノが大きな包みを抱えて戻ってきた。
手際よく調理されたそれは、香ばしく焼かれた生地に具材がぎっしりと詰まった、特製の『王都風スタミナ二層ブリトー』だった。
「ふぅ、いい汗をかいたな」
カレンは大剣を地面に突き刺し、汗を拭うと、リノから渡されたブリトーの包み紙をペリペリと剥いた。そして、ワイルドにガブッと一口。
「……! な、なんだこれは!? 最初は優しい温野菜の旨味とシャキシャキした食感が広がり……途中から突然、濃厚な肉の暴風雨が押し寄せてくる! 片手で持てる手軽さなのに、なんと計算された美味さだ!」
エルミアもまた、片手でブリトーを掴み、豪快かつ美しく食べ進める。
「……機能的だな。王都の濃い味付けを、前半の温野菜が完璧に中和している。現場の効率を落とさないための計算なら、見事な知恵だ」
二人の称賛に、リノは「えへへ」と嬉しそうに胸を張った。
当のサトウはといえば、エルミアの探査によって判明した古い配管の位置を、ボロボロの図面に書き加えながら、ブリトーを無造作に口へ放り込んでいた。
「リノ、いい肉選んだな。スタミナがつく。……エルミア、午後からはもっと深く探ってもらう。カレン、次は城壁の亀裂の下まで道を作れ」
口数は少ない。だが、そこにはプロ同士の確かな信頼と、チームとしての圧倒的な機能美があった。全員が力強く頷く。
サトウは最後の一口を飲み干すと、再び油圧ショベルの運転席へと飛び乗った。
エンジンが再び轟音を上げ、黄色い重機が動く。王都を救うための戦いは、まだ始まったばかりだ。
第24話もお読みいただきありがとうございます。
いよいよ舞台は王都へ。
それぞれの強みを活かしたサトウ班の三位一体チームワーク、そしてリノ特製ブリトー(食べたい)、楽しんでいただけたら幸いです!
実は……昨日(木曜)の23話、本当は土曜日あたりまで温めてから第2章を開幕する予定だったのですが、私の完全な確認漏れにより、まさかのサイレントゲリラ強制着工となってしまいました(涙)
告知なしのフライングだったにもかかわらず、驚くほどたくさんの方に見つけていただき、木曜日のアクセス数が過去最高クラスまで跳ね上がっていて本当に救われました……!見守ってくださった皆様、本当にありがとうございます。
急ピッチで施工を進め、なんとか24話の最新現場をお届けすることができました。
サトウたちの王都での大工事、ここからさらに加速していきます!
それでは、本日もどうぞご安全に!
明日はキララ




