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【第二十三話】現場至上主義、王都に立つ

『スクユス』第1章へのたくさんの応援、本当にありがとうございました!

おかげさまで、本日よりいよいよ【第2章・王都編】が着工いたします。

いつも平日の深夜やシフトの合間に足を運んでくださる読者の皆様の熱量が、何よりの駆動エネルギーです。

王都からの使者を迎え、サトウの重機がさらに唸りを上げる第2章。

本日も、安全第一でついてきてください!


白亜の巨壁が天を突き、豪奢な尖塔がいくつも並ぶ街――王国の心臓部、王都。


その厳重な正門をくぐり抜けたのは、魔導馬車の列……だけではなかった。


──────ズ、ズズ·····


「……地響きがするぞ!?」

「何だ、あの黄色い鉄の怪物は……!?」


ゴトゴトと重々しい音を立て、鉄の履帯クローラを軋ませながら進む黄色い巨体。

サトウが操縦席に座る油圧ショベルである。魔導馬車に先導され、王都の目抜き通りを自走するその姿は、文字通り圧倒的な異形だった。


色めき立つ住民や色を失う高官たち。

だが、それ以上に彼らを驚かせたのは、その異質な一団の顔ぶれだった。


「おい、あれって……『騎士団長』のカレン様だぞ! 」

「その後ろにいるのは『精霊兵の長』エルミア様じゃないか!?」


国の最高戦力たる二人を後ろに付き従わせ、頭に黄色いヘルメット、首に汚れたタオルを巻いたサトウが、平然とレバーを握っている。


その助手席エリアで、リノが身を乗り出して目を輝かせた。


「わあ、大きな街ですね、サトウさん! 建物がいっぱいで、お祭りみたいです!」


「人が多すぎて、重機の旋回半径クリアランスが確保できねえな。……誘導員が何人いても足りねえぞ」

サトウはいつも通りの死んだ魚のような目で、ボソリと呟いた。


「つーか、空気も排ガスで汚れてんな。魔力の残滓が淀んでやがる。……さっさと現場に向かうぞ」

相変わらずの社会不適合、かつ現場至上主義。

彼にとって、王都の栄華など「動きにくいだけの障害物」に過ぎなかった。


「サトウ殿、こちらです! もう一刻の猶予もないのです……!」

案内する建築局のダムスは、額から滝のような冷や汗を流していた。


案内された現場は、王都の命脈たる「王都大運河」、および街を囲む「絶対不可侵の巨大城壁」の交差する地点だった。


だが、そこにある光景はまさに悲惨な反理想郷ディストピアだった。


運河の底の地盤はグズグズに沈み込み、水は濁って干上がりかけている。さらに最悪なのは、その地盤沈みの歪みのせいで、見上げるほど巨大な白亜の城壁に、メキメキと巨大な亀裂が走っていることだった。一刻を争う危険な状態。


サトウは重機を停めると、無言で運転席から飛び降りた。

足元の泥をすくい上げ、指でこすって感触を確かめる。さらに、城壁の亀裂をじっと見つめ、拳でコツコツと叩いた。


ダムスの視線など一切無視し、ただ職人の目で、現場の「本当のバグ」を見つめていた。


「――ダムス様、お戻りですか。……って、なんですな、その泥まみれの男は」

不意に、背後から鼻につく声が響いた。


きらびやかな法衣をまとった集団――

ダムスの部下である、王都の「宮廷魔導建築士団」のエリートたちが、ぞろぞろとやってきたのだ。

チーフらしき男が、サトウを不快げに鼻で笑い、上司であるダムスに進言する。


「まさかダムス様、我ら最高峰の建築魔法でも直せぬ大運河を、そんな地方の小汚い作業員と、その鉄の玩具で直そうというのですか? 国家の予算をこれ以上無駄にされるのは、下に立つ我々としても看過できませんな」

エリートたちは、ダムスが連れてきたサトウを馬鹿にすることで、暗にダムスの無能さを突き、組織内でのマウントを取ろうとしたのだ。


同時に、サトウの背後の空気が一瞬で凍りついた。

カレンが不機嫌そうに大剣の柄に手をかけ、エルミアの瞳がスッと冷たく細まる。王都のエリートたちがその殺気に「ひっ……!」と息を呑んだ。


だが、サトウは彼らを完全に無視(アウト・オブ・眼中)していた。怒りすら湧かない。会話するのも面倒くさい。


サトウはただ、チーフの持っている最高級の魔導杖を指差し、ボソッと、きわめて低い声で言った。


「……おい。その補強魔法、城壁の自重を計算に入れてねえだろ」

「な、何だと……!?」

サトウはエリートたちを見ることすらせず、濁った運河の底を顎でしゃくった。


「表面だけ魔法で固めたって、下の地盤が豆腐なんだよ。余計に自重が増して、沈むスピードが早くなってんだろ。お前らが魔法を使えば使うほど、この壁は早く崩れるぞ」


「な、ななな……何を根拠にそんなデタラメを!」


「足元見ろよ。クラック(亀裂)が下に開いてる。上が重い証拠だ。現場も見ねえで机の上で魔法こねくり回してるからそうなるんだよ、素人が」


サトウの淡々とした、だが絶対的な確信を突いた指摘に、エリート建築士たちは言葉を失い、顔を真っ青にした。彼らがプライドのために目を背けていた致命的な設計ミスを、ただ一目見ただけで見抜かれたからだ。


サトウはもう、彼らに1文字たりとも言葉を費やす気はなかった。

ヘルメットをトントンと叩き、隣で冷や汗を拭うダムスに向き直る。


「ダムス。邪魔だ、これ全員つまみ出せ。現場が狭くなる」

「――ッ!! 貴様、ダムス殿に何という無礼を!!」


チーフの言葉が終わるや否や、建築局の長であるダムスの怒声が現場に響き渡った。


「サトウ殿の仰る通りだ! お前たちの無能な手抜き工事のせいで、王都は滅びかけているんだぞ! 責任者の私への反逆とみなす! おい、この役立たずどもを今すぐ現場から叩き出せ!!」


「は、はいっ!?」


最高上司であるダムスのガチギレ激昂に、エリート建築士たちは悲鳴を上げ、駆けつけた衛兵たちに引きずられるようにして全員つまみ出されていった。


サトウはそんな騒ぎに目もくれず、さっさと油圧ショベルの運転席へと飛び乗った。彼にとって、目の前の壊れかけの構造物をどう直すか、それ以外はすべてノイズだった。


キュルルル、ドガァァォン! と激しいエンジン音が響き渡り、重機が咆哮を上げる。

サトウはレバーを握り、背中で語るようにリノたちへ合図を送った。


「おい、始めるぞ。……安全第一だ」


 ドンッ!!!


轟音と共に、重機のバケットがガツンと地面に下ろされた。王都崩壊の危機を救う、サトウ工務店の圧倒的な突貫工事が、今ここに始まる。




第23話、楽しんでいただけましたでしょうか?


どんなに偉そうなエリートが相手でも、現場の嘘を見抜くサトウの鑑識眼の前には形無しでしたね。

やっぱり現場で泥を触ってきた職人の言葉には重みがあります。エリートたちを文字通り「つまみ出し」、現場の全権を握ったサトウ。

「安全第一」の看板を掲げ、崩壊寸前の反理想郷ディストピアを相手に一体どんな突貫工事を繰り広げるのか――!?


サトウの次の現場が気になる方は、ぜひブックマークや評価で応援していただけると励みになります。次の現場(更新)まで、ご安全に!


明日はキララ

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