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第1章・完結【第二十二話】次なる現場は王都


不可侵領域の境界線が完全に確定した現場で、サトウたちは穏やかな昼休憩を迎えていた。


ひっくり返したコンクリートブロックを椅子代わりに、サトウはリノが作ってくれたお弁当箱を開く。


「ふふん、今日のおかずの目玉はこれです!」

リノが嬉しそうに指差したのは、お弁当の隅っこに収まった『ミニグラタン』だった。


エルミアの森で採れた、熱に強くて頑丈な『銀色に輝く大葉』を器の代わりに敷き詰め、昨日の残りの濃厚なスープをベースにマカロニとホクホクのじゃがいもを入れ、チーズを乗せてこんがりと焼き上げられた一品だ。


サトウが箸でミニグラタンを持ち上げ、口に運ぶ。

「……ん。適度に焦げたチーズの塩気が、現場終わりの身体にちょうどいい。この葉っぱ、器にちょうどいいな」


「そうなんです! エルミア様が『これなら火に負けぬ』と教えてくださって。お二人のお弁当にも、この大葉の特大カップで作ってありますからね」


「うむ、我が故郷の知恵が、このような美味に化けるとはな。何度食べても飽きぬ」


エルミアがクールに、しかし器用に箸を使ってミニグラタンを口に運ぶ。


その横では、カレンが「すんっ」と満足げに鼻を鳴らし、早くも二個目のミニグラタンに手を伸ばしていた。


そんな4人の平和なピクニック空間に、猛烈な砂煙が迫っていた。



街道の向こうから走ってきたのは、王都の最高格式を示す紋章が刻まれた、きらびやかな魔導馬車だ。


キキィッ! と派手な音を立てて停まった馬車から飛び出してきたのは、豪奢なシルクの外套をまとった王都の建築局のお偉いさん(高級官僚)だった。


「せ、聖域の呪いを、鉄の怪物を駆り立てて一瞬で解いたという、伝説の魔導建築技師はどなたか!?」

ダムスは大慌てで周囲を見回す。


高名な精霊の長であるエルミア、そして王国最強の聖騎士カレンの姿を見つけて平伏しつつも、肝心の「伝説の技師」の姿を探してキョロキョロと首を振る。


カレンが、もぐもぐと口を動かしながら、作業着姿で淡々とお弁当の唐揚げをつまんでいるサトウを指差した。

「我があるじ、サトウ殿はそこの男だが」


「は……? え? その……油汚れだらけの作業着を着た、愛想の悪い若者が……ですか?」


 ダムスは大失態でも見たかのように絶句した。王都の偉い建築士たちのような気品は1ミリもなく、どこからどう見ても「ただの不愛想な現場作業員」にしか見えないサトウが、聖域を救った英雄だとは信じられない様子だ。


サトウはダムスを完全に無視し、水筒の冷たい麦茶を喉に流し込むと、面倒くさそうに吐き捨てた。

「……おい、飯の邪魔だ。用がないなら帰れ。俺はこれから重機の洗車をしなきゃならねえんだよ」


安定の社会不適合者(社不)全開の塩対応。

ダムスは一瞬カチンときたようだが、背後に佇むエルミアの冷徹な視線と、カレンが腰に帯びた「見たこともない無骨で不気味なパッチワーク風の大剣」から放たれる凄まじい威圧感に気圧され、慌てて本題を切り出した。


「お、お待ちくださいサトウ殿! 実は、王都の存亡に関わる重大な土木危機が発生しているのです! これを見てください!」

ダムスが必死の形相で広げたのは、羊皮紙に緻密に描かれた王都の巨大インフラ――『王都大運河』とその周囲を囲む『絶対不可侵の巨大城壁』の構造図面だった。


「王都を支える大運河の底で原因不明の地盤沈下が起き、運河の水が干上がりかけているのです! さらに、その影響で背後にある巨大城壁の基礎が傾き、このままでは一週間以内に崩落しかねません! 王都の魔導建築士たちが総出で魔法を試みましたが、どれも効果がなく……!」


ダムスの悲痛な説明を聞きながら、サトウの目が、職人としてピクリと動いた。サトウは箸を置くと、無言で図面に這いつくばるようにして線を指でなぞる。


「……おい。この大運河の底、水抜きをせずにそのまま基礎のコンクリート(魔導泥土)をブチ込んだだろ」


「えっ? は、はい、工期を短縮するために、水中に直接……」


「どこの素人がやった手抜き工事だ、これ。地盤の圧密沈下をナメてんのか? 水圧と土圧の計算がガタガタだ。これじゃ、上にある城壁の自重で基礎がズレて沈み込むのは当たり前だろ。設計した奴のツラが見てみたいわ」


サトウの口から飛び出す、専門的かつ的確すぎるダメ出しの嵐。

ダムスは「な、なぜ図面を見ただけでそこまで正確に……!?」と完全に圧倒され、その場に膝をついた。

王都の最高頭脳たちが束になっても分からなかった原因を、この男は秒で見抜いたのだ。


サトウは「めんどくせえな」とボヤきつつも、すでに脳内では、重機のバケットをどう入れ、どうやって水抜きをして地盤を改良するか、完璧な施工計画プロットを組み立て始めていた。不愛想で社会には馴染めないが、目の前に『不良施工の現場』があると、どうしても叩き直したくなるのが、毎日スクラップ工場で鉄屑と向き合ってきたサトウの、気難しい職人の性だった。


「サトウ殿! お願いです、王都の危機を救ってください!」

ダムスが必死に頭を地面に擦りつける。

そんな姿を、サトウは冷ややかな目で見下ろした。


「おい、勘違いするなよ。俺はボランティアでやってるわけじゃねえ。その現場を叩き直してやるとして、俺への見返りは何だ? 報酬の話が先だろ」


「ひゃいっ!? は、はい! もちろん、成功報酬として金貨五百枚……いや、千枚をお約束します!」


「金なんかどうでもいい。重機の燃料になる魔石の特級品を山ほど用意しろ。それと、王都のスクラップ(廃材)の山への立ち入り許可、そこで出たゴミの完全回収権だ。それを工期中の衣食住の完全保証と一緒に書面で出せ」


サトウが提示したのは、金貨ではなく「次の現場で使える資材」の要求だった。そのプロすぎる、そして一般人には理解不能な要求に、お偉いさんは「は、廃材の回収権……? 金貨よりそちらでよろしいのですか!?」と目を丸くしながらも、必死に頷いた。


「わ、分かりました! すべて国の予算で、サトウ殿のご要望通りの書面をご用意します!」


「……よし。工期は二週間だ。それ以上はダレる。その手抜き工事、俺の重機で叩き直してやる」


「わあ、次のお仕事は王都ですね! サトウさんが行くなら、私はどこまでもお供します!」

リノがパッと顔を輝かせ、お弁当箱を素早く片付け始める。


カレンは待ってましたと言わんばかりに、新しく生まれ変わったリユース大剣を肩に担ぎ、胸を張って「すんっ」とドヤ顔を決めた。


「ふっ、王都の軟弱な建築士どもに、サトウ殿の真の『土木』、術理クオリティの圧倒的な違いを見せてやるが良い」


「お前の技術、王都という大舞台でどう振るわれるか、私も特等席で見届けさせてもらおう」

エルミアも氷のようにクールな佇まいのまま、確古たる信頼を瞳に宿して頷いた。


サトウは重機の運転席に飛び乗ると、キーを回してエンジンを始動させる。


 ブォォォォン!! と力強い咆哮を上げる黄色い重機。

その向かう先、街道の遥か彼方には、夕日に照らされた王都の巨大なシルエットがそびえ立っていた。


「現場があるならどこへでも行く。……全員、安全第一でついてこい」


スクラップ工場の社不と、彼を支える有能な受付嬢、あるいは胃袋と装備を掴まれた最強の二人の、次なる挑戦が始まる。


(第一章 完)


第22話をお読みいただき、

そして【現代のスクラップ工場で培ったリユース技術が、異世界では神の権能でした。捨てられた英雄の遺産を繋ぎ合わせたら、本物の勇者より強くなってしまった(スクユス)

第1章を最後まで応援していただき、本当にありがとうございました!


王都のお偉いさん相手にも一切ブレないサトウの社不な塩対応と、図面一枚で圧倒するプロの職人技、スカッとしていただけたら幸いです。

最後は重機のエンジン音と共に、最高にサトウらしい「安全第一!」で一章を締めくくることができました。


シフトの合間や平日の深夜、PCやスマホから現場に足を運んでくださる皆様のアクセスや応援が、何よりの施工エネルギーでした。


本当にありがとうございます!


サトウの「次の現場(第2章)」もすでに着工準備中ですので、ぜひブクマや評価を残して待機していただけると嬉しいです。

それでは、次の現場でも……どうぞご安全に!


明日はキララ

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