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【第二十一話】職人の「ニコイチ」


不可侵領域の境界線に基準杭が打ち込まれてから数日。現場には、どこか穏やかな空気が流れていた。


次の施工を待つ間、サトウは重機の影に作業マットを敷き、淡々と工具のメンテナンスに励んでいた。


使い込まれたモンキーレンチやハンマーを丁寧に拭きあげ、パーツクリーナーで汚れを落としていく。

サトウにとって、道具の手入れを怠らないのは職人として当然の義務だった。


そこへ、金属の擦れ合う不穏な音を響かせながら、カレンが歩み寄ってきた。その手には、彼女が愛用している大剣が握られている。


「サトウ、少し相談があるのだが……」

カレンが差し出してきた大剣を見て、サトウは片方の眉を上げた。


剣の刃先は先日の激戦と日々の猛訓練によってボロボロに刃こぼれし、刀身の半ばには今にも破断しそうな細かなヒビ(クラック)が無数に走っていた。完全に寿命を迎えている鉄屑の一歩手前だ。


「王都の銘高き鍛冶師に頼めば、新品の素晴らしい剣が買えるのは分かっている。だが……工期も予算もかかる上に、この剣の重心は私の手に一番馴染んでいるのだ。どうにかならんか?」

騎士の命とも言える武器の危機に、カレンが珍しく眉を下げて弱音を吐く。


サトウは無言で大剣を受け取ると、指先で刀身を軽く弾いた。

「……刃は完全に死んでるな。金属疲労も限界だ。だが、柄(持ち手)の芯金と、魔力の伝導率は悪くない。まだ使えるパーツはある」


サトウがそう言って大剣を観察していると、リノが「サトウさん、集めてきましたよー!」と、手押しの一輪車ネコを重そうに押しながらやってきた。


一輪車ネコの中には、先日の工事で掘り起こした「死の茨」の硬質なトゲや、精霊兵たちが現場に置き忘れていった古い折れた槍の穂先など、およそ武器の材料とは思えない「現場の廃材」が山積みにされていた。


そのゴミの山を見て、近くで静観していたエルミアが怪訝そうに目を細める。


「サトウ、そんな戦場の残骸を集めてどうするのだ? 鉄屑を並べても、カレンの剣が直るわけではなかろう」


エルミアのクールな疑問に対し、サトウは作業着の袖を無造作にまくり上げながら鼻を鳴らした。


「ゴミじゃねえ。目利きが足りねえな、エルミア。……これとこれを組み合わせて『ニコイチ』にすれば、新品以上の実用性が出る」

サトウはすぐに作業に取り掛かった。


まず、カレンの大剣を分解し、まだ強度の残っている柄と芯金だけを正確に切り出す。

次に、一輪車から精霊兵の折れた槍の穂先を手に取り、その高純度な金属部分を魔導溶接機で溶かして、カレンの剣の芯金へと「肉盛り」していった。


 バチバチバチッ!! と激しい紫白の火花が周囲を照らし、カレンとエルミアが思わず腕で顔を覆う。


 サトウの修繕リユースは、単に魔法で形を元に戻すようなチャチなものではなかった。


「一番負荷がかかる根本の厚みを増して、全体の重心を少し手元に寄せる。そうすれば、お前みたいな力任せの振り方でも刃が負けねえ」


サトウはグラインダー(魔導砥石)を起動し、凄まじい金属音とともに火花を散らしながら、一気に刀身を整形していく。


現代のスクラップ工場で、毎日山のような鉄屑と向き合ってきたサトウだからこそできる、徹底的に「実用性」と「コストパフォーマンス」を追求したアプローチ。


現場に転がっていた死の茨のトゲは、その超硬質な特性を活かして、刃の先端を補強する合金の素材として綺麗に溶かし込まれていった。


「――よし、持ってみろ」

サトウが差し出したのは、かつての大剣とは似ても似つかない、全く新しい武器だった。


刀身は複数の金属が複雑に噛み合ったパッチワークのような幾何学模様を描いており、どこか無骨で、ストリートモード感のある圧倒的にカッコいいデザインに仕上がっている。


カレンが半信半疑でその柄を握り、空間を鋭く一閃した。

 ――ヒュンッ!!!


信じられないほどの風切り音が響く。カレンは目を見開いた。


「な、なんだこの馴染む感覚は……!? 以前よりも遥かに軽い、いや、私の腕の延長線上にあるかのように錯覚するぞ! 魔力の通りも、以前の新品時を遥かに凌駕している!

……素材の『命』を無駄にせず、異なる特性を組み合わせて新たな価値を与えるというのか。人間の技術、恐るべしだな」


間近でその異質なクオリティを見たエルミアも、表情こそ崩さないものの、瞳を大きく見開いて驚愕を隠せない様子だった。


二人の度肝を抜いた光景に、リノが横からふふんと自慢げに胸を張る。


「そうですよ! サトウさんの手にかかれば、どんな廃材だって一級品に生まれ変わるんですから!」

まるで自分のことのように嬉しそうなリノ。


カレンは新しい相棒となったリユース大剣を愛おしそうに眺め、胸を張ってフッと「すんっ」と満足げにドヤ顔を決めていた。


そんな様子を見ながら、サトウはめったに見せない微かな笑みを口元に浮かべた。

「使えなくなったからってすぐに捨てるな。手入れして使えば、道具はいくらでも応えてくれる」


職人としての確固たる信念が語られた、そんな温かい空気の中。

「さあ、お昼ご飯にしましょう!」とリノが笑顔でお弁当を広げようとした、まさにその時だった。


遠くの街道から、王都の紋章が刻まれたきらびやかな盾を掲げた早馬が、砂煙を上げて猛スピードでこちらへ向かってくるのが見えた。


平和な日常の終わりと、次なる巨大な現場の幕開けを予感させる、王都からの使者であった。


第21話もお読みいただきありがとうございます!


サトウの手にかかれば、ボロボロの大剣も新品以上の神クオリティに。そして、リノのご飯の合図と同時にやってきた「王都の使者」……!いよいよ平和な日常に、次なる巨大な現場の影が迫ってきました。


昨晩は、日付が変わった深夜帯にもかかわらず、本当にたくさんのアクセス(特にPCからのガチ勢の皆様!)をいただき、めちゃくちゃ驚いたと同時に最高に嬉しかったです!本当にありがとうございます。


サトウの次なる大型案件が気になる方は、ぜひブクマや評価で応援していただけると励みになります。

それでは、次の現場もどうぞご安全に!


明日はキララ


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