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第一章  目覚め  その6「不良との喧嘩――繰り返す過ち」

「へ~へっへっへっへ~、この間はずいぶんと痛ぶってくれたじゃねぇか。よぉ、神崎さんよ~」


 独特な笑い方でそう言ってくるのは不良6人衆の内の1人、顔に大きなガーゼを貼った男。


(いや、痛ぶるも何も、前は1発しか当ててないっつーの!それで勝手に逃げてったのオメェらじゃん!)


 戦哉はガーゼの男の言葉に内心で突っ込っむみつつ言葉には出さい。出せばよりめんどくさくなるのが分かるからである。


 場所は先ほどの通学路から、いくつかの路地裏をぬけた所。

 路地の中にポツンと現れる、周りを建物で囲われた人目につかない薄暗い広場。


 戦哉はそこで、広場の中心に立たされ前も後ろも不良6人に囲まれていた。


「6人相手じゃ、さすがに何もできまい。謝るなら今のうちだぜ」


 6人のうちの誰かが、そんなことを言った。


(どうせ謝っても、許す気ねぇ癖によく言うわ)


 不良たちの抱いている、自分に対する怒りとそれを発散できる喜びを感じ取りながら戦哉はそう思った。これほどの感情の高ぶり具合から見て、謝った程度で何もされずに許してもらえるとは到底思えない。

 戦哉は、頭上に目線をやり、広場を囲む建物と建物の間から覗く青空を眺める。


 思い出されるのは姉、ユリの言葉。


「なに?ガラの悪い連中に狙われてる⁈そういったろくでもねぇ輩はな、逃げ回るよりも1発かましてやって、こちらの強さを思い知らせてやったほうが案外関わってこなくなるもんなんだよ、覚えときな」


 そんな言葉を思い出し、


(なぁ、姉貴よ、かましてやっても思い知らされねぇバカ共相手にはどうすればいいんだ)


 戦哉は遠い目をして記憶の中の姉に尋ねた。


 戦哉には、不良や喧嘩自慢に狙われるちょっとした事情がある。

 こうやって絡まれるのも日常茶飯事だ。


 いつもなら全力疾走&頭フル回転の逃げ戦法などで、なんとか不良たちを撒いているのだが、つい一週間前、いよいよ逃げることが億劫になった戦哉は姉のアドバイスを思い出し不良3人相手に拳を一発ずつ、かましてやったのだが、


(まぁ、このざまですよね~)


 戦哉は目線を前に戻し、目の前にいるにやにやとした3人を見てため息をこぼす。


(逃げてもダメ、1発かましてもダメなら、もうとりあえず全力でやっちゃってみるか)


 戦哉はそんなことを考えながら、拳を目の前に構えて戦闘態勢に入った。


 それを見た不良どもは一瞬、肩をビクつかせる。


「オラッ、この人数差で負けるわけがねぇんだ、テメェら、やっちまえー‼」


 不良6人のうちの誰かが叫んだ。


 それを合図に不良6人が一斉に戦哉へと突っ込んできた。




「はぁ~~~~、ダメだ!ストレス発散にすらなりゃならなかった」


 数分後。

 広場の中で立っていたのは戦哉1人だけだった。


 辺りには痛みに蹲るか、気絶してぶっ倒れている不良6人の姿。


(いくら相手が6人でも、さすがにうちの姉貴に比べればこんなもん屁でもなかったな。まさか全員が一撃で終わってしまうとは思ってなかったけど)


 普段、ユリにトレーニングという名の取っ組み合いを仕掛けられている戦哉としては、姉のユリと比べるとそこら辺の不良の戦闘力など、スピード、力、耐久性、何においても眠ってしまいそうになるレベルであった。

 特に耐久性に至ってはコンクリの壁を殴ってる感覚と同じレベルの姉に対し、不良の肉体はそれはもうスナック菓子レベルのもろさ、改めて自分の姉の化け物じみた強さは何なんだと戦慄する戦哉であった。


(にしても、痛そうにしてるなぁ。あの程度の威力で、さすがに大怪我はないとは思うけど……ん~~)


「あ~一応言っとくけど、俺、絡まれた側の人間だからね、つまりは被害者側だから、悪いのは勝手に絡んできたあんたらよ、全部自業自得ってことだからね、だから変に恨まないでね。あと痛みが続くようだったら、念のため病院行ってね。それじゃあもう俺、学校行くから」


 痛がって蹲っている不良たちを見て、なんだか急に変な罪悪感が出てきた戦哉は、自分にも、不良たちにも言い聞かせるように、その場をそそくさと立ち去ろうとした。


 しかし、学校にはまだ向かえそうになく、災難は続く。


「ちょ~と待ってなぁ、お兄さん」


 来た道を戻ろうとしたところで、目の前にまた新しく人が立ちふさがってきた。

 これまたガラの悪そうな2人組。


(げッ、まだいたのかよ、もうやめて!学校、遅刻しちゃう‼)


 戦哉は露骨に嫌そうな顔をした。


「そんな嫌そうな顔しないで、俺らとも遊んでくれや~こいつらよりかは楽しませてやるからよ」


 出てきた2人組の内、細目の軽薄そうな顔のほうが、あたりで蹲る6人を顎で指し、そんなことを言ってくる。


「あ、兄貴ッ……」


 ガーゼ男が痛そうに腹部を抑えながら、そう呟いた。

 意識ある他の奴らの様子も見る限り、この細目の男がどうやらこの不良達のリーダー的存在らしい。


(もうめんどくさいから、逃げちゃおうかなぁ~)


 そんなことを考えながらどこか逃げ道はないかと、辺りをキョロキョロと見渡す戦哉。


「おめぇらもバカだねぇ~。足止めだけでいいって言ったろ。何、正面からやって負けてんのよ。相手はあの()()()()()()の神崎さんよ~もうちょっとは警戒しなさいって」


(ッ……)


 細目の男が倒れる不良たちに放った言葉に、戦哉はつい反応してしまう。

 目線を細目の男に移し、睨みながら、戦哉はすぐさま戦闘態勢に入った。


(......もうなんでもいいや、すぐに終わればそれで済む)


 そんな戦哉の様子を見て、


「おお、怖い怖い。そんなに睨むなよ、怖いなぁ。自分の過去を掘り起こされたのがそんなに気に食わんかった~」


 細目の男はケラケラと笑って面白がっていた。


「でも、残念。さっきも言った通り、お前さんとは正々堂々やるつもりは一切ない、6人相手をすんなりやっちゃう相手はこっちも怖いからなぁ……おいッ、連れてこい」


 細目の男がそう言うと、道の陰からもう2人、男が出てきた。


 1人はまたもやガラの悪そうな体格の大きい男。

 そしてもう1人は、そんな体格の大きい男によって首に腕をまわされ無理やり引っ張り出されてきた、喧嘩とは無縁そうな感じの真面目そうな顔をした青年だった。


 青年はビクビクと震えながら怯えた表情で戦哉を見ていた。


 その顔と着ている制服には身に覚えがあった。


 戦哉も同じものを着ている。


 その青年は、戦哉と同じ高校の生徒で、同じクラスメイトの青年だった。


「なぁ、神崎さんよ~、俺たちと遊ぶとき、出来れば腕一本動かさず止まっててほしいんだよねー。じゃないと、このなんの関係もない真面目君の顔に一生消えない傷がついちゃうよー」


 青年の首に腕を回している男がポケットからカッターナイフを取り出した。

 その刃を出し、青年の顔に近づける。


 戦哉は動けず、顔の前にかまえた腕をかすかに震わせていた。


 その目には怯えた青年の顔が映っていた。目に涙を溜め、恐怖に歪む顔。よく見ればかすかに頬に痣のような、すでに殴られた跡さえある。


 戦哉はこの時、確かな強い恐怖の感情を受け取った。


(あ、まずい)


 戦哉の中で何かが弾けた。


「さぁ、ここからはリンチタイムだ!さぁ、楽しんッ は?」


 その時、その場にいた全員が何が起きたのかを理解できていなかった。


 もう動けないと思われていた、神崎戦哉が突如として目の前から消えたのだ。


 そして次の瞬間、

 青年の首に腕をまわしていた男の顔が後ろにのけ反り、その鼻からは血が噴き出ていた。


 見れば、男の前には先ほど消えた戦哉が立っており、右手の拳を男の顔面めがけて繰り出していた。

 逆の左手は捕まっていた青年に突きつけられていたカッターナイフを、その刃ごと素手で握りしめ、絶対に動かせないようにしている。

 もちろんのこと、刃を握っている戦哉自身の手からも血が零れ落ちていた。


 しかし、そんなこともお構いなしに戦哉は周りから見えない速度で右の拳を繰り出し続ける。

 1撃、2撃、3撃目が入ったところで、体格の大きい男は白目を向いて意識を失っていた。

 そして、それに気づいたのか戦哉はその右手で今度は男の髪を引っ掴み、横に投げた。

 青年の首にまわされていた腕が外れ、意識のない男の体はそのまま引っ張られる方向へと転がっていく。

 解放された青年も何が起きたのか分からず、その場で腰を抜かしへたり込んでしまった。


 ここまで、ほんの一瞬の出来事。

 細目の男も、周りの不良たちも何が起きたのか分からず、立ちすくんでいた。

 しかし、戦哉自身は止まらない。

 体格の良い男を転がした動きそのままで、次は細目の男の横に立っていた男を狙った。

 地面を踏みしめ、とてつもない速度の飛び蹴りを男の腹めがけて繰り出す。

 飛び蹴りを食らった男は、広場を囲む建物の壁まで吹き飛びそのままその痛さに悶えて動けなくなった。


(ハッ‼)


 そこでようやく細目の男は我に返った。


 自分の後ろにいた取り巻き2人が一瞬のうちにやられた、その事実に頭の回転が追い付かない。

 細目の男は戦哉に目を向ける。


(なんなんだ、こいつ⁉)


 そこにいた戦哉の目は明らかに自分たちが対峙していたものとは違うものになっていた。

 獲物を食い殺さんとする獣の目、細目の男はそんな印象を受けた。


(勝てるわけねぇ、こんなバケモン!)


「わ、悪かった!謝る、謝るから、許しッ ぐがぁあ」


 細目の男は許しを請おうとした。

 が、そんなもの今の戦哉には聞こえていない。

 戦哉はそのまま細目の男に飛びつき、馬乗りになった。

 そこから繰り出されるは拳の嵐。

 馬乗りになり、身動きの取れなくなった細目の男に対して戦哉は何発もの拳を浴びせた。


(潰すッ!潰す!潰す!潰す!潰す!潰す!潰す!潰す!潰す!潰すッ‼)


 戦哉の心は怒りと憎し身で埋もれていた。

 考えられるのは、罪のない者に恐怖と苦しみを与えた害なる者への報復と、その排除だけだった。


(お前も同じぐらいの恐怖を、いや、その倍の恐怖を味わえ‼)


 まともな思考は今の戦哉には存在しなかった。


(......て‼ もうやめて‼)


 しかし、そこで戦哉の頭にノイズが走った。

 脳内で再生される誰かの叫び声、視界に映し出されるは5年前の光景。


(……ぐぅッ‼ ……ッ‼)


 戦哉は我に返った。最初に目に映ったのは、自分の下で涙を流し、顔がボロボロになったまま気絶している細目の男だった。


「う、うわああああああああああ‼」


 戦哉は思わず後ずさり、細目の男の上から退いた。

 辺りを見渡せば、最初に絡んできた6人と飛び蹴りを喰らわせた男はすでにいなくなっており、広場に残っていたのは後に出てきて気絶した2人の不良と、いまだに腰を抜かして、怯えたまま動けなくなった青年だけだった。


 戦哉は残った同じクラスメイトの青年と顔を合わせる。

 しかし、青年は戦哉と目を合わせた途端「ひぃぃぃぃぃぃ」と後ずさりをして怯えだした。


(俺はまたやっちまったのか......)


「はぁ~~~~~~~」


 戦哉はため息をつきながら、頭上の建物同士の隙間から見える空を仰いだ。































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