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第一章  目覚め  その4「ニュースの向こう側――感情に呑まれる朝」

「なんかテレビ、やってないかなぁ~」


 朝食のあてになるものを探して、戦哉はリモコンを手に取りテレビのチャンネルを無造作に変えていた。


 それを横目に、ユリはもぐもぐと朝食を食べ進める。


「……やめとけって、朝はどうせろくでもないニュースしかやっていないんだから……。あんた、また感情持っていかれても、姉ちゃん知んねぇからね」


 ジト目を戦哉に向け、そんなことを言うユリ。


「うぐッ……わ、分かってる、分かってるよ。でもさすがに、朝のニュースぐらいまともに見れないと、この先社会でやっていける気がしねぇ。俺だって成長してるんだ。これぐらい、大丈夫、大丈夫」


「あんた、それ、自分に言い聞かせてるだろ」


 ユリの発言に図星を突かれる戦哉であったが、これからのことを考えるとニュースを見といたほうが良いなと自分で結論づける。

 そんな戦哉を見てユリはさらにジト目を強めた。


 ふと、あるチャンネルで、戦哉が変えるのを止める。


 そのチャンネルでは昨晩に発生した、とある製薬企業の研究所で発生した事故のことについて取り上げられていた。


 何でもその研究所で、研究中だった薬品が大爆発し、建物自体が倒壊してしまったらしい。

 幸いのことに死傷者はおらず、建物の中にいた研究者たちも、全員薬品が爆発する前に避難できていたとニュースキャスターの男性は淡々と語っている。


(避難出来たってことは、すぐ爆発するタイプじゃなかったのか。ああいうの、イメ-ジでは間違えた瞬間、ボンッ、って感じだったけど。……まぁ人命が無事だったことに越したことはないか)


 などと戦哉は、この爆発事故のニュースを聞いていて少し違和感を覚えた。


「最近多いよな、この企業の爆発事故。つい2日前も同じような事故起こしてなかったっけ」


 と、戦哉はここ最近の記憶を頼りに、気になったことを姉に問いかける。


「……ああ、その企業ねぇ。なんか怪しい噂が絶えない、妙な企業らしいよ。なんでも、裏でまだ実験途中の試薬品を無料で配り歩いて、客を使って人体実験しているらしいんだと」


 特にテレビの画面を見ず、朝食のおかずをもぐもぐしながらユリは答える。


「無料で薬の配布って、そんな怪しいもの誰が使うんだよ。バカげた噂だなぁ......ちなみにどんな感じの薬を配っていたとか知ってたりする?」


 噂の内容に思わず突っ込んでしまう戦哉であったが、追加情報によっては......、と気になり、さらに噂について質問する。


「身体能力が超人的に上がる薬だと」


 質問に対し、ユリはさらっと答えた。


「何それ欲しい‼ 確かにそんな薬だったら、思わずもらって使っちゃうかもな」


「でもその変わり、数分で脳が完全に麻痺して思考も理性もない、ただ暴れまわるだけの化け物になってしまうんだと、しかもそのあとには力尽きてコロッと死んじまうらしいよ」


「何それ怖ッ‼ そんな化け物、俺絶対なりたくない!絶対!そんな薬を使いたいなんて思わない!」


「当たり前だ、アホッ!誰だって、自分から化け物になりたいなんて思う奴、いるわけないだろ。そんな悪い部分の副作用なんて伝えられずに渡されるんだよ。うますぎる話には絶対、最悪の裏があるってことさ、覚えときなさいよ!」


 噂の話からそんな教訓めいた事を言うユリ。

 噂に対する、あまりの弟の素直な反応に彼女は少し心配になったのだ。この弟は騙されてしまうアホの部類かもしれないと。


「まぁ、あくまで噂だから、どこまで信ぴょう性があるかはこの際置いておいて。あんたは今後、この企業の名のつくものには絶対関わらないこと!そして薬を売り歩いている怪しいおじさんには絶対に近づかないこと、分ったな!お兄さんやお姉さんでもダメだぞ、いいな‼」


 そんなことを言われてしまった戦哉は、我が姉ながら、


(過保護だなぁ、俺は小学生か‼ )


 などと思いつつ、反論したらめんどくさいのを知っているので、しっかり了承した。


「わ、分った!絶対近づかない‼」


 そして戦哉は首を縦に振ると同時にテレビのチャンネルも別のチャンネルへと変えた。

 いっそうめんどくさくなる前に別の話題に移りたかった。


 次のチャンネルでも、放送していたのは別のニュース番組であった。


 その番組では、1週間前ほど前に起きた無差別殺人事件の模様が放送されていた。


(......確かに最近、こういった物騒な事件、増えてるよなぁ。噂の薬が原因だったりして)


 戦哉は無差別殺人のニュースを見ながら先ほどの噂とつなぎ合わせて考える。


(まぁ、でも薬があろうが、なかろうが物騒な事件はごくたまに結局起こってるし、どうしようもない人間はどうしてもいるもんな。関係しているとも限らないか)


 と、そんなことを戦哉は考えていた。


 その時、


『なんで、家の娘がこんな目に……』


(ッ......‼)


 画面に殺人事件の被害者の親族であろう人の映像が映し出される。


(負けたらダメだ‼ 踏ん張れ‼)


 戦哉は、頭痛をこらえるように頭を片手で抑え込んだ。


 テレビから聞こえる被害者遺族の声がまるで脳に入り込んでくるかのように、戦哉の頭に響き渡る。


(クッ‼......)


 そして、目を瞑った視界に会ったこともない女性の笑顔が映し出された。


(なんでッ……‼)


 女性の顔はだんだんと灰色の靄のようなものに包まれていく。

 完全に靄が視界を覆った後、静止していた映像がふっと切り替わった。


(はッ……‼)


 そこに映っていたのは棺桶に入り色白くなった女性だった。

 そこに先ほどの笑顔はなく、悲しいまでに動かない、眠っているような穏やかな顔だった。


(なんでッ......‼なんでだよッ......‼)


 先ほどの灰色の靄が、再び視界を覆っていく。心ごと飲み込むように。


(絶対に、許さなッ) パシンッ 


(……ッ‼)


 突然、額に鋭い痛みが入り、思考が中断される。


「……ヤ‼......戦哉‼」


(……ハッ!)


 自分の名を呼ぶその声で、戦哉は我に返った。

 顔を上げれば姉の顔が視界いっぱいに広がっており、机を乗り越えこちらに身を乗り出しているのが分かった。


「このテレビに映っている遺族も事件の被害者もあんたには関係ない‼赤の他人だ‼」


 ユリが大声で強く戦哉に言い放つ。


 それを受け戦哉は、


「……あ、そ、そうか、そうだよな、俺、またやっちまったのか。ごめん姉貴」


 と、ほぼ放心状態で、でもしっかりと落ち着いたことを知らせる笑顔でなんとか返した。


 そんな戦哉を見て、ユリも安心したかのように優しい笑顔を作り、ため息を吐きながら笑いかけてきた。


 が、それも一瞬で、  


 パシンッ


「痛ッッだ‼」


 次の瞬間、鋭いデコピンが戦哉を襲った。先ほど、思考を止めてくれた痛みとほぼ同じなのでこれが2発目だと戦哉は気づく。


「なぁにが、大丈夫だ‼ しっかり、ちゃんと感情持っていかれやがって!だから姉ちゃん、やめとけって言ったよなぁ‼」


 目をギラつかせて言う姉の言葉に戦哉はぐうの音も出ず、今回はただ説教を聞き入れるしかできなかった。


(うぅぅぅ、チクショー! ホントやだ!この体質)


 テレビはいつの間にか消され。家の中にはユリの説教が響く。

 朝食を食べ終わるころには説教から、なぜか日常的なお小言に切り替わり、今回に関しては立場的に弱い戦哉は急いで残りの学校へ向かう準備を整え、逃げるように家を飛び出した。

























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