第二章 真実 その18 「神の如し御業」
視界を覆う真っ赤な景色。
それを見た戦哉と柴崎は口を開けたまま呆然としていた。
一体何が起こったんだ、二人の気持ちは一致していた。
「ふぃ~~、これでいったんは落ち着けるな」
ディアが発した言葉に戦哉は目を向ける。
「い、一体何を......この真っ赤な世界は一体......⁉」
ディアに対し、戦哉は問いかける。
「ふん?ああ、これは私の力を膜状に固めて覆ったんだ。こうすることで私より力の弱い奴らは入ってこれない、便利だろ」
戦哉の問いに対し、相変わらずのニカッとした笑みを向けて言うディア。
(もう何でも有りだな、この人)
戦哉は冷や汗を浮かべ、内心薄く笑いながらそう思った。
「先生!楠木先生‼ しっかりしてください‼」
戦哉がディアの力に呆然としていると、すぐ横合いの方から柴崎の焦る声が聴こえてきた。
何事だと、その方向を見る。
視線を向けた先では柴崎が未だ目を覚まさない楠木教師に向かい必死に声をかけていた。
柴崎の焦った顔がこちらを振り向く。
「神崎‼先生が、呼吸してない‼」
涙目になった柴崎の言葉を受け、戦哉も驚愕の表情を浮かべ、弾かれたように楠木教師のそばに近づく。
青白くなった顔や掌、だらんとした身体は確かにピクリとも動いている様子はなかった。
戦哉は吐血した血が固まっている楠木教師の口元に急いで耳を寄せる。
しかし、呼吸らしき音は一切聞こえなかった。
戦哉は懇願するように、ディアを見つめる。
するとディアは、ふんッどれどれ、と頷き、楠木教師のそばに座る戦哉に、ちょっとどいてくれと手で示した。
ピクリとも動かない赤ジャージ教師の腹に掌をかざすディア。
一瞬だけ、目を瞑ったかと思うとすぐに瞼を上げ、楠木教師の容体を語りだした。
「うひゃーーこれはこれは、外傷はないように見えてその実、身体の中はぐっしゃぐしゃだな、あばらは粉々、内臓も大半潰れてる、脈も完全に止まってるし......うん、こりゃ死んでるな」
淡々と吐き出される言葉に柴崎は絶望を顔に染める。
戦哉も到底受け入れられない事実に呼吸がうまくできなくなっていた。
瞳が揺らぎ、鼓動が早まる。
全身から力が抜けていくのが分かった。
「……て、ことはあれか?あんたでも先生は助けられない、てそうゆうことか?
なんとか震える声を振り絞り、ディアに問いかける。
それに対しディアは、
「いや、簡単に助けられるぞ」
と、軽々しく言った。
「そうだよな。死んじまってたらもうどうしようも――って、え?今なんて」
「だから助けられるって、見とけよー、ほりゃッ」
そんなディアの気の抜ける言葉と同時、楠木教師の腹にかざしたディアの手が赤く光る。
そして今回はそれだけじゃなかった。
魔法陣のような文様が楠木教師の身体の下に現れる。
そこから立ち上る粒子が楠木教師の身体を包み込んだ。
約3秒後
パンッと弾ける音と共に楠木教師を包んでいた赤い粒子も共に弾けた。
次の瞬間、
「ぅぅ!......がはッ、げほッ、ぐはッ、はぁぁああああああ」
楠木教師の身体が跳ねッ、せき込み始めた。
瞳孔をいっぱいに開き、思いっきり呼吸を吸う。
「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
その後普通に呼吸が安定しだした。
楠木教師は、がん開いた目であたりを見回す。
「楠木......先生?」
柴崎の口から思わず名前が呟かれる。
「おお……柴崎、無事だったか。それに神崎も一緒とは……これはどうゆう状況だ?」
「先生ー‼」
状況が飲み込めず、ポカンとする楠木教師に柴崎が飛びつく。
戦哉は再び驚愕した顔でディアの事を見つめていた。
「え、なんで、さっき先生は死んでるって?」
「ああ、死んでたな。だから生き返らせてやったんだ、それで身体も全回復、ふんー私は凄いだろー」
両腕を組み、胸を張るディアに戦哉はゆっくりと首を振る。
(すごいとか、そうゆう次元じゃないだろこれ......。それはもう神とかの領域なんじゃ......)
唖然とする戦哉を置いてけぼりにディアはそのまま説明を始める。
「人間の命ってやつはな、その身体が機能を失った後、親元に吸収されるまでにいくばくかの時間を要する、私はその前に命の源である魂?ってやつをもう一度身体に定着させることが出来る......この世界だと死んでから一時間以内だと復活させられるぞ」
人差し指を立てて説明するディアに戦哉は口を開けたまま理解することも出来ず、聞き流すことしかできなかった。
しかし、次の一言で再び正気に戻される。
「――だから、死んでからの一時間以内、お前の学校とやらの連中を生き返らせることも私には可能だ!あと15分ぐらいかなぁ」
「ッ‼」
その言葉を受けて戦哉の瞳に希望が宿った。
(俺のせいで死なせてしまった人間を元に戻せるかもしれない‼……まだ償うことが出来るかもしれない‼)
戦哉は固く拳を握った。
早速ディアにお願いをと思ったところで、戦哉の顔に指を立てられる。
「だけどな、今の現状、一つ問題がある」
ディアが静かな表情で言った。
「死んだ奴らの身体に別の紛い物、つまりあの虎の力が入っちまってるということだ。あの状態だと生き返らせたとして、たぶんそのまま人格を飲み込まれるだけになる。それに人一人ならまだしもこの敷地全域となると、私でもちょっと下準備が必要だ、下準備して虎を倒す、それを15分以内にやるのはこの世界の私じゃちょいと難しい......そこでだ‼」
戦哉に生き返ることの問題点を羅列したディア。
腕を組みながら悩ましい顔で怒涛の言葉を話す。
そして問題点を全て話し終えた、と思ったところでディアは一度声を張り上げ、話を区切った。
ズビシッ、と音が鳴る勢いで、戦哉の顔に人差し指が指される。
ニヤッと妙に生き生きとした顔でディアは笑った。
「私が下準備してる間、お前があの虎を倒せ」
「はい⁉」
生き生きとした笑顔と共に放たれた無茶ぶりに、戦哉は今まで出したことのない、妙に高音でへんてこな声を挙げて驚いた。




