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第二章 真実 その17 「歪んだ人格」

「ディア、彼女の怪我の治療、あと頼んだ‼」


 そう言って駆けだしていった青年の背中を、ディアはほおけた顔で見つめていた。


「あんの野郎、私をいいように使いやがって。よくもまぁ自分を痛めつけた相手に友達の治療を任せられるよなぁ」


 目線を下に下げれば、困惑と不審に顔を染めた黒髪少女がこちらを見上げていた。

 その目は先ほど泣いていた影響で赤く腫れており、普段の少女を知らないディアからすればただの怯えたか弱い女子高生にしか見えなかった。


「ほれ、その足だせ」


 ディアは少女の隣にしゃがみ込み、やけどを負って変色した足を指さす。


「あなたは……一体?」


 少女は警戒した目でディアを見つめて少しだけ後ずさった。


「うあ~~~、また出たよその質問。もう、めんどくさいなぁ」


 ディアは頭を抱え、煩わしそうにわしゃわしゃと赤い長髪を搔き毟った。


 その時、


「カアアアアアアア」


 一羽のカラスがディアの背後に回って回転をし始めた。

 その回転を維持したまま弾丸のようにディアの頭目掛けて飛び込んでくる。


「……危ない‼」


 少女がその存在に気付き、叫ぶ。

 しかしそんな心配、するだけ無用であった。


 スチャッ   バンッ


 いつの間に引き抜いたのか、ディアはその手に拳銃を掴み、銃口を背後に向けていた。


 一発。


 ディアは向かってくるカラスに目も向けず、一発でそれを撃ち抜いた。


 頭部を爆散させ、その場にボトリッと落下するカラスの死体。


 それを見ていた少女はただただ呆然とするしかなかった。


「もう時間かかるから、とりあえずは味方ってだけでいいでしょ。ほらそんなことより、その痛そうな足を見せろって」


「痛ッ‼」


 呆然とする少女を他所にディアは少女の足を無理やり掴んで引き寄せた。


 傷口を掴まれたことによって顔を痛みで歪める少女。


 だがそれも、長くは続かない。


 少女の足を掴んだディアの手が赤く光る。


 その瞬間、やけど跡が何事もなかったように消え去った。


「え、嘘⁉痛く……ない……」


 少女は驚き傷の治った片足を触る。


「なぁ~~、凄いだろ~~、何も知らない子に能力を見せるのは、リアクションがあって楽しいねぇ~」


 驚く少女の顔を見てディアはニヤニヤと楽しそうに笑った。


「さぁ、もう片っぽも見せてみな」


 そう言ってディアはもう片方を指さし、手を差し出す。

 少女も今度は素直に足を差し出した。


 あっという間に両足のやけど跡が消え、少女は普通に立ち上がった。


「あ、ありがとうございます」


 ディアに向かい頭を下げる、黒髪の少女。

 しかし、それをディアは片手で制した。


「お礼を言うのは……まだ早いかなぁ~」


 そう言って上空を見上げるディア。


 その視線を追って、立ち上がった少女も空を見上げた。


「ッ‼」


 その視線の先にはこの世の終わりを告げるような光景が広がっていた。


 二人を中心に何十、何百、いや何千というカラスが渦を巻き、まるでいつ飛び掛かるかとタイミングを計っているかように飛び回っていた。


 ディアは怯える少女を守るように、自らの背に少女が隠れるよう佇む。


 飛び回るカラスの群れを何の危機感もないニヤケ顔で見つめていた。


(へぇ~~面白い、やっぱ戦闘は楽しいねぇ。さぁ、ここからどう出る?一斉に突っ込んでこようもんなら、全部爆散させてやる)


 ディアの銃を掴む腕がさらに赤く、その光の強さを増す。

 ディアはその状況を公園で遊ぶ子供のような気分で楽しんでいた。


 その時、


『その場で動かないでいただきたい赤髪の侵入者、さもなくば隣の少女ごと、あなたをぐちゃぐちゃのミンチにしますよ』


 頭の中に直接語りかけてくる声があった。


『それにしても驚きました。まさか、TAIGAを通じて青年に混ぜ込んでいた私の力をあなたに奪われてしまっていたとは……しかしあなたもひどい人だ、警告していたはずでしょうあなたがここに来ればこの学校にいる人々は皆殺しだと』


 感情の宿っていないような無機質な声。

 その声を受けてもディアの余裕そうな表情は一切変わらなかった。


「よく言うわな、私たちが来る前にほとんど殺していたくせに。弱者を殺す殺戮がそんなに楽しいか!お前ら人造人間はやはり姿、形は人間でもその中身はどこか歪なようだな。安心しろ、恐れる通り私がすぐにお前ら紛い物は、駆除してやるよ」


 挑発的な笑みを浮かべ、誰もいない虚空に喋りかけるディア。

 それを見て背後の少女は困惑したように眉をひそめた。


『……黙りなさい、貴様ら惑星に生を受けし者に我ら造られた者の気持ちなど理解できるはずながない、楽しいなんて感情など我々には存在すらしていない‼』


 無機質な声の圧が自然と強まる。

 その声に確かな怒りというものが含まれているのを感じたディアは鼻で面白がるように「ふふッ」と笑った。


『だから私達は任務を遂行するだけだ。ただ無感情に、命じられた使命を果たすためだけに、より確実的な方法で』


 その声が聴こえた瞬間、バリンと校舎の窓が割れ、いくつかの影が空中に飛び出してきた。


「た、助けッ……」


「殺さ……ないで」


 それはまだ息のある生徒や教師達であった。

 何羽かのカラスにその身体を吊り下げられ、ディアたちの目の前の位置で宙に浮いていた。

 その残忍な光景に後ろに立つ少女は「あッ……」と小さく漏らし、口を塞いだ。

 ディアもその光景には笑顔を消し、真顔で見つめる。


『私は皆だと言った、ほとんどと皆の違いぐらい外の世界の野蛮人でも理解しているでしょうに、あ~あ、これは残念だ。あなたがこの場に来なければまだ救われる命もあったのに、ひどく残念だ』


 その声が聴こえ終えたすぐ後、飛び回っていたカラスの何羽かが吊り下げられた人々の身体に突っ込みその息の根を止めた。


 息のしなくなった肉体が地面に落とされ、バシャッと辺りに血が飛び散る。


 少女はその光景に目を伏せ、ディアは真顔のまま、動かなくなり地面に落とされた肉体を見つめた。


 ディアは気付いていた、彼らの息の根を止める前、頭に響いていた声にかすかに、その言葉に反して喜びの感情が含まれていたことに


(これはまた反吐がでるほど(いびつ)に歪んだな、使命とか関係なく殺すことを楽しんでやがる。しかもその自覚がない……これならまだあの洗脳女の歪み方のほうが100倍はマシだな)


 ディアは心の中でそう呟いた。


「で、それからどうするよ、殺戮快楽者さんよ~私が名前も知らん奴らの死に様見て、意気消沈するような雑魚に見えたか」


 再び挑発的な笑みを浮かべ語りかける。


『まだ気づかないですか、もうここは私のテリトリーの中です』


 言われてディアがなんのこっちゃと思っていると、目の前で変化が起きた。


 息の根を止められた生徒や教師たちの身体が動き始めたのだ。


「あ~、あ~」


 白目を向き動くその姿、それはあの白衣の化け物と同一だった。


 バリンッ バリンッ


「あ~、あ~~~~」


 それ同時に校舎からも同じような白目を向いた生徒たちの身体が続々と出てくる。


(ああ、なるほどそういうことね)


『今や私の半身であるTAIGAの能力は、生き物の死体に乗り移り操ること、今やこの敷地内全てがあなたの敵です。さぁ、あなたに勝ち目はない青年の事は諦めなさい』


 ディアは頭の中に響く声には一切耳を貸さず、空いている手を腰のもう一丁の銃へ伸ばそうとする。


 そこで、


 ボガァァァァァァン


 突如、体育館で爆発が起きた。


「楠木先生!神崎!」


 黒髪の少女が心配の声を上げる。


 その爆発を見たディアは逆にその顔に笑みを浮かべた。


 何故なら、その爆発の中から飛び出してくる影が見えたから。


(よっしゃッちょうどいい所に‼)


「柴崎ー‼逃げろーー‼ディアー‼助けてーー‼」


 爆発した体育館の壁、その爆風の中から黒髪の青年が全力疾走で走ってくる。

 その腕の中には赤ジャージを着た女性が抱えられていた。


 その姿を見て少女の顔が綻ぶ。

 しかし走る青年の後を追う存在を見て、即効で顔を青ざめさせ、息をのんだ。


「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 体育館と同じ高さはありそうなほど強大な体躯をした緑色に光る虎が体育館の壁をぶち破って青年の後を追ってきていた。


「私のそばまで走れ‼そうすれば助かるぞー」


 銃を腰にしまい、両手を空けたディアは戦哉が走ってくる方向とは逆に空いた掌をかざした。


 グワッ


 かざした掌から赤色の衝撃波が飛び出す。


 戦哉より先に迫っていた白目の化け物たちを一気に吹き飛ばした。


 そんなディアのそばへと赤ジャージの女性を抱えた戦哉が走り込んでくる。

 それと同時にその後を追う虎もすぐ目と鼻の先まで迫ってきていた。


「よし、ついたな」


 そんなディアの一言の後、


 グワッ


 ディアの瞳が赤く光り、今度はディアを中心とした全方向に先ほどよりも強力な衝撃波が放たれた。


 目と鼻の先まで迫っていた虎も、上空を飛んでいたカラスたちも全てが吹き飛ばされる。


 一緒にいた少女も走り込んできた戦哉も、衝撃波が放たれたその内側にいたはずなのに思わず目を瞑ってしまう。


「うッ……なんだ、これ⁉」


 瞼を上げた時、視界に飛び込んできたのは、赤色で覆われた風景だった。


























































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