第二章 真実 その15 「自責と怒りの一撃」
「わああああああああああああああああああああ」
霞むほどのスピードで流れる景色の中、戦哉の絶叫はその中へと流れていく。
ディアに抱えられ、おそらくは学校へと向かっている過程の道中の中、遊園地の絶叫マシンに勝るとも劣らない速度に晒され続けた戦哉は、学校の状況は置いておいてただただ叫びまくることしか出来なかった。
「よし、気配的にここらへんかな!」
顔全体に浴びていた風が唐突に止まる。
それはディアの移動が止まったことを示していた。
「はぁ~これはまた派手にやったなぁ~、あちらさん人質なんか残す気ないっぽいなぁ~」
抱えられた背後からディアの暢気な声が聴こえてくる。
戦哉は、ぜぇ~はぁ~、と息を吐きながら後ろを振り向く。
「ッ‼……ちょ、ちょっと下してくれ‼」
担がれた状態で振り返った視界の端に映った光景に戦哉は手足をバタつかせ、下ろしてと懇願すした。
ディアもここまで来てさすがに逃げることはないだろうと思ったのか素直に下ろす。
そこは学校の近くの建物の屋上。
そこから学校の様子をまんま見ることが出来た。
建物の屋上に降り立った戦哉が見た光景は想像を絶するものだった。
校舎の上を飛び回るカラス、校舎の壁を滴り落ちる真っ赤な生徒の血液、窓から端々に見える生気を失った生徒たちの死体、いつも通っていた平凡な学校の風景はそこには見当たらず、悲惨というしかない光景が目の前には広がっていた。
そして、その光景の中に生き残りと呼べる人間は一切見当たらなかった。
「……」
映像で見せてもらった光景と一致しているものの、現実でそれを見るのとでは受ける衝撃が全く違う。
戦哉は何も言えず、絶句するしかなかった。
(この光景は……俺のせいなのか)
戦哉の心が絶望の闇と、燃え滾る怒りに満たされていく。
こんな光景を作り上げた自分自身と敵の主犯とやらを一刻も早くぶっ潰したかった。
しかしそんな時、横からディアの声が聴こえてくる。
「あ、生き残り、いた!」
その声に反応し、ディアの方向を見つめる。
ディアの目線は下を向いていた。
視線を辿り、戦哉もそこに視線を向ければそこには地面に座り込んだまま動けなくなっている柔道着を着た黒髪少女の姿が目に移った。
(あれは……柴崎?)
少女の存在に戦哉が気づいた。
その瞬間正面入り口から明らかに正常ではない白衣を着た人間が歩き出てくる。
その白衣の人物の目は白目を向いていた。
(あの時のホームレスと同じ……てことは俺の左手に傷をつけたあの虎が関わっている)
戦哉は即行でその存在が敵であると判断した。
白衣を着た奴と柴崎の距離はそれほど遠くない、気付くのにも時間の問題だ。そうすれば彼女は確実に襲われる。一刻も早くあの場に向かわなければならない。
それに加え戦哉の目には、怯えた柴崎の目から流れる涙が映っていた。
常に強気で凛としていた彼女の怯えた姿に、戦哉の内側でさらに込みあげてくるものがあった。
「なぁディア、俺をあいつの所まで一瞬で飛ばすことできるか?」
隣に立つディアに尋ねる戦哉。
ディアは白衣の男と戦哉を交互に見た後、
「まぁいけるが、別にお前が行かなくても私が対処できるぞ、あんな奴。それにあれは敵の一部だ、攻撃しても大した意味はないぞ?」
そう尋ね返してきた。
「細かいことは良い、出来るならやってくれ、今俺は、この怒りを発散しなければどうにかなってしまいそうだ」
そう言った戦哉の拳は強く握りしめられ、額には青筋が浮かんでいた。
柴崎の強い恐怖心を読み取り、その原因に対する怒りの感情に呑まれないよう戦哉は、必死に自分を抑えていた。
「……分かった、じゃあ飛ばすから着地はしっかりしろよ」
戦哉のその横顔を見て、ディアは静かに頷く。
「ああ、大丈夫、どうにかする」
その時の戦哉は怒りに呑まれる寸前で、それを発散するためだったらなんでも出来る気がしていた。
「じゃあ、いくぞ......私がせーのって言ったら思いっきりジャンプしろ」
ディアが戦哉の背後に回り、その手を赤く光らせ、振りかぶる。
「せーのッ」
ぶわッ
合図と同時にジャンプした戦哉の身体は、後ろから迫ってきた赤色の衝撃波に押され、そのまま柔道少女の元まで一気に飛んだ。
飛ばされた勢いのまま流れる景色の中、見据えるのは少女に襲い掛かろうとしている白衣の化け物だけだった。
怒りがその身を支配し、恐怖も周りの音さえも感じない。
ただただ、目の前の敵を排除する、戦哉の思考はただそれだけだった。
「俺の知り合いに、触んじゃねぇぇええええええええええ」
言葉と共に放たれる拳。
その拳は赤い光を帯びていた。
ズゴォォォォォォン
拳は見事に白衣の男の頭に刺さり、地面へと思いっきり叩きつけた。
地面を砕き、中身を破裂させながら、その半分を地中へと埋める頭。
地面に向かって激突するはずだった戦哉の身体は、叩き潰した反動で、逆に僅かに跳ね上がった。
そのまま何事も問題なく着地する戦哉。
その光景を離れた建物の屋上から見ていたディアはその口の端を上げ、ほくそ笑んだ。
(へぇ、赤色とは――これは予想以上の威力だな)
と。




