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第二章 真実 その7「譲れない願い」

 家族と呼べる存在が欲しかった。

 家族と呼んでくれる、そんな存在が。


 救いのないこの世界で、そんな願い、叶うはずがない。

 抱くだけ無駄だと、分かっていた。

 特に私のような紛い物の存在には。


 だから、私はこの願いをずっと胸の奥に抑え込んで生きてきた。

 辛いだけなら、願いなど必要ないと、目を逸らして生きてきた。


 だけど、出会ってしまった。


 私の事を家族と呼んでくれる存在に。私の事を姉と、そう呼んでくれる存在に。


 私は決めた、この子だけは、この願いだけは何としてでも守り切ると。

 他の何を裏切ってでも、私はこの子のためだけに生きると、その日私は、心に誓ったのだ。


 だから、私は許さない。

 この子の平穏を、私の願いを壊そうするものを全て、決して……




 ユリは椅子に座らされ両手を縛り付けられているディアを、光のない目で見つめる。

 その瞳から感じるのは強烈な殺意のみ。


 そんなユリの瞳に対し、ディアは挑発的な視線を向けていた。


 ユリはディアに向かい無言で距離を詰めると、先ほど床に投げ捨てた銃を拾い、全弾をディアの身体めがけて撃ち込んだ。


 バンッ バンッ バンッ バンッ


 部屋に銃声が鳴り響く。


 しかし、撃たれた当の本人であるディアは身体にいくつもの穴を開けているのにも関わらず、その顔はケロリとしていた。


「はぁ~~‼痛ってぇなぁ、何やってんの?この世界の普通の銃弾じゃあ、覚醒者は殺せないって、隊長さんもそれぐらい知ってるでしょ?」


 ユリの行動にディアは首を傾げる。


「ああ、だが身体に穴が開く痛みぐらいはちゃんと感じてるはずだ……どこの何者かは知らんが私の大事なものに手を出した。貴様は簡単には殺さん、殺すのは散々痛ぶった後だ」


 ユリは、弾倉の空になった銃を、両手でバキッと破壊しながらそう言った。


「お~お~、怖い、怖い!なんだ?そんなに家族ごっこをバラされたのが気に食わなかったのか。疑似家族なんて、あんたの能力があれば、またいくらでも――」ガンッ  


 ガシッ 


 挑発的に喋っていたディアの顔にユリの拳が刺さる。

 殴られた反動で、揺れたディアの頭をユリはそのまま正面から片手で鷲掴みにした。


「いい加減に、黙れ‼――それとも、今すぐ物言わぬ廃人に変えられたいか?」


 ユリの声がより一層低く鳴り響く。

 その声は、彼女の怒りがさらに増したことを示していた。

 そこに戦哉と話していた時の彼女の面影はもはや存在しない。


「ははぁ、こりゃぁ面白い。自ら作った偽物の絆に、作った本人がそこまで固執してるとは――ああいいぜ。やれるもんならやってみろよ」


 それを受けて、ディアは顔に笑みを浮かべる。

 頭を掴むユリの掌、その指と指の間から覗いたディアの瞳は殴られてもなお、好戦的に輝いていた。


 その瞳を見て、ユリは、チッ、と舌打ちを打つ。


「そうか……ならお望み通り、壊れろ」


 ディアの頭を掴むユリの手が緑色の光を帯び始める。

 その光がディアの頭を覆った。


 バチンッ


 次の瞬間、部屋に強烈な破裂音のような音が鳴り響く。


 それと同時にユリはディアの頭を離し、後ろに飛び引いた。

 ディアの頭を掴んでいたはずのユリの手は、ビリッビリッ、と音を立てて痙攣し、震えていた。


「貴様!なんだその総量、普通ではないぞ」


 震える手を抑え、ユリは椅子に座ったまま笑うディアを睨む。


「……脳操作。相手の記憶、認識を自由に操れる能力。使い方によっては相手の人格を壊し廃人にすることも、その認識を書き換えて思い通りの操り人形にすることも可能、と。いやぁ~~、エグい能力だ……まぁ、その程度の力じゃ、私には効かないんだけどね」


 ブチッ


 そう言って舌を出すディアは、後ろで縛られた縄をいとも容易く引き千切り、そのまま立ち上がった。

 凝りをほぐすように首と手首を回し、ユリの事を見据える。その身体に撃ち込まれたはずの弾丸の傷は、いつの間にかきれいさっぱり消えてなくなっていた。


「これで分かったかい、あんたじゃ私は倒せない。縄にも力を相当練り込んでたようだけど……それもほらこの通り、私には通用しない。口で説得するよりこっちの方が断然早い。これで私の要求、聞く気になったろ?」


「……貴様の要求とはなんだ?」


 ディアの問いかけに対し、ユリは仕方なく聞き返す。


 すると、ディアは満面の笑みで答えた。


「そこのソファで寝ている……戦哉だったか、そいつを私にくれ」


 ヒュッ   バゴォォン


 言ったと同時、ディアの顔めがけて緑色の閃光が飛んでくる。

 ディアはそれを首を傾ける最小限の動きで避けた。


 ディアの背後の天井が音を立て、崩れる。


「……家族をあけ渡せだと、そんな要求聞けるはずがないだろう‼」


 要求に対して声を荒げ、これを拒否するユリ。

 そんなユリの様子を見て、ディアはため息をつく。


「どうせ本物じゃないのに、よくもまぁそんな怖い顔して……仕方ない、じゃあより力づくでいくか」


 そう口にした途端、ディアの両腕が赤く光りだす。


 そして、それに呼応するように、相対するユリの両腕も緑色の光を放ち始めた。


 ガンッ


 ほぼ同時に発せられた床を蹴る鈍い音が家中を震わせる。


 その瞬間、2つの閃光が明かりの消えた暗い室内で激しくぶつかり合った。





































































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