第二章 真実 その6 「平穏の崩壊」
カチャッ
「はい、動かないでねぇ、お姉さーん」
銃を片手に、にっこりと笑う赤い髪の女性、ディア。
そんなディアに対し、銃を向けられながらも全く動じる様子はなくユリはその目で睨みつけていた。
「戦哉、この女、知り合いか?」
ユリが、後ろで驚愕し、動けない状態の戦哉に尋ねる。
「し、知り合いというか、なんというか……おい、ディア‼話が違うじゃねぇか。俺が姉貴を説得するまで、3日は待ってくれるんじゃなかったのかよ‼」
尋ねられた質問に対し、なんと答えて良いのか分からない戦哉は逆にディアに対し尋ねた。
「あぁ~~、あんなの嘘に決まってんじゃん、そんな長い間待ってられるかよ。お前を一度家に帰せば、その姉とやらの居場所に案内してくれると思ってよ」
「なッ‼」
自分がまんまと騙されたことに気付き、言葉が詰まる。
「いや~にしても、あまりに簡単すぎて笑うどころか心配になっちまったよ。私はお前の気配を追えるって言ってんのに、そのまま真っ直ぐ家に帰っちまうとは……あんたの弟さん、ちょっとは他人を疑うこと、学ばせておいた方が良いと思うぜ」
その言葉を聞き、羞恥と悔しさが同時に込みあげてくる。
それを横目にディアはため息を吐いた。
「まぁ、それは確かにそうだな。素直なこいつが可愛いと、そこら辺を教えなかったのは私の落ち度だ……でも、それはあんたも同じだぞ、こんな住宅街の真ん中で銃なんか突きつけて。少しは考えなかったのか、私ら以外のご近所さんの目なんかをさぁ」
「なに?」
ユリがディアの後ろ側に視線を飛ばし、笑う。
言われ背後をを確認しようと、ディアが一瞬ユリから目を逸らた。
その瞬間だった。
目にも止まらぬ速さで銃を持ったディアの手を掴み、もう片方の手で銃を捻る。
気付けば、ディアの持っていた銃はユリの手に奪われていた、そして
バンッ
住宅街に銃声が響き渡る。
銃を奪ったユリは、そのままディアの頭めがけて銃を放った。
「あ、姉貴?」
あまりの事態に戦哉はその身を固め、目を見開く。
その姉の横顔は、今まで見たことがないほど冷たい目をしていた。
「ヒュ~~~、危ない危ない。お前の姉さん、怖すぎるだろ」
間一髪で頭を後ろに逸らし、銃弾を回避したディアは軽々しくそう言った。
「ほら、あんたも簡単に騙される、家の弟のことは言えないよ」
カチャッ
正面を向き直したディアの額に今度はユリが銃を突きつける。
ディアは「アハハ~」と笑いながら両手を挙げた。
「あんたは何者だ?家の弟に何の用がある」
銃を突きつけながらユリが尋ねる。
「あんたの弟さんの能力に関して全部知ってる者って感じかな~~、それ以外も全部知ってるよ、言っちゃっていいの、ここで?」
それに対し、ディアは横目で戦哉を見ながらそう言った。
銃を突きつけられているというのにその顔はとても楽しそうな満面の笑みだった。
「チッ、家に入れッ、話はそれからだ」
ユリが銃を向けたまま顎で家の中を指す。
「戦哉‼リビングの棚の引き出しに縄がある。それでこの女の手を縛れ」
「え⁉縄、なんでそんなも――」
「いいから、言う通りにしろ‼」
「わ、分かった」
いつもとは尋常じゃない程の怒声に、戦哉は急いでリビング駆けていった。
ユリはディアから一切目を離さず、リビングまで誘導した。
「へぇ~~~、これまた大層な縄なこって~~」
ディアは椅子に座らされ、縄で手を後ろに回すように縛られていた。
縛っているのは戦哉。
ユリはディアの目の前で決して目を逸らさず銃を向け続けていた。
ユリの今にも殺してやる、という殺気立った目を見てディアはニヤリと笑みを作る。
「なぁお前、戦哉って名前だったんだな」
そして後ろで手を縛る戦哉に話しかけた。
「あれ、言ってなかったけ」
「ああ、初めて聞いた、まぁどうでも――」
「おい、口を開くな‼」
ユリの怒号がディアの話を遮る。
聞いたことのないほどの声の圧に戦哉の肩がビクッとなる。
椅子の影からユリの顔を見ると、その顔は今まで見たこともないほどに怒りに染まっていた。
(姉貴はディアのこと、知っているのか?)
戦哉の脳裏に疑問が湧く。
「お前が喋っていいのは、お前が何者で、どこから来たのか、そしてその目的、それだけだ‼」
温度のない冷徹なユリの声がリビングに響く。
当のディアはその声を聞いてさらに笑みを深めた。
「なぁ戦哉、お前気になったことはないか?」
「黙れと言っているだろう‼」
ディアはわざとらしく大声で戦哉に尋ね、そしてそれをかき消すようにユリがまた大声で怒声を放つ。
そんな状況下、戦哉はディアの話には耳を貸さず、「ひぃぃぃッ、本気で怒った姉貴怖えぇぇぇ」なんて思いながら縄をほどけないようきつく縛っていると。
「なぁ、どうして、自分には親がいないのだろうなんて?」
どうしても聞かざる負えない言葉が聞こえてきた
「こいつッ!!」
バンッ、バンッ
遮るように銃声が2つ、ディアの身体に撃ち込まれる。
しかし、その問いは確かに戦哉の耳に届いた。
(なんでって、俺に親がいないのなんて.......あたりまえで――)
(――あれ?でもなんで?)
当たり前だったはずの認識に急に疑問が湧きだす。
その時、
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
頭の中に閃光のようなものが走り、真っ白になった。そして同時に電気が走ったように頭に激痛が走る。
「戦哉ッ!!」
痛みに蹲る戦哉にユリは銃を投げ捨て駆け寄る。
その光景を見て、身体に銃弾を2発の受けたはずのディアはそんなこと気にも留めぬようにさらに口を動かす。
「それともう1つ」
「おい、貴様もうやめろ!!黙れ!!その口を閉じろ!!」
ユリは戦哉の頭を抱きかかえたまま、ディアに声を挙げる。
しかし、当のディアに辞めるつもりは微塵もない。
「確か、お前の能力、感情が読める能力だったか。なぜそれが姉には通じてないんだろうな」
それを聞いた戦哉の頭に、激痛の隙間を縫うように疑問が湧く。
(そういえば、確かに姉貴の感情は読めたことがない。何故?何故読めない?そして何故――
――俺は一度もそれに気づかなかった?)
「ぐうううううぅぅぅぅぅ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
頭に走る痛みがさらに増す。
思考が無理やり遮られるように、頭の中が強い閃光に包まれる。
「戦哉!戦哉‼」
ユリの声が微かに戦哉の耳に届く。
その声に反応してかすかに目を開けた。
「あね……き?」
「大丈夫、大丈夫だからな、何があってもあんたは私が守るから」
優しいまなざしを向けたユリの顔が霞む視界に映った。
ユリが手を戦哉の頭にかざす。
「リセット」
ユリがそう呟いた瞬間、その手が淡く緑色に光った。
そして、戦哉の呻き声が鳴りやみ、そのまま意識を失うように眠りについた。
ユリは戦哉の身体をそのまま抱き上げ、リビングの中央のソファに寝かせる。
「ひぃぃぃ、弟にも容赦ないね、お姉さん」
その光景を見ていたディアが、からかうように笑いかける。
そして笑いを引っ込めると再度言い直した。
「いや、偽物お姉さんの方が正しいか。なぁ?」
「――覚醒者討伐隊の戦闘隊長さんよぉ」
その声にユリは振り返る。
その目には、殺意以外の光は一切宿ってはいなかった。




