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第二章 真実 その5 「念願の帰宅」

「帰ってきたぁぁぁぁあああ」


 戦哉は両手を上げ、最大限の喜びを叫んだ。

 場所は戦哉の自宅の玄関前。


 ディアに抱き枕にされ一晩。

 一睡も出来ず、精神を削りながらなんとか乗り切った。

 目を覚ましてからのディアの言葉が「なんだぁ、お前、私に惚れて夜這いでも仕掛けようとしたのか。このスケベ野郎め」だったのには、イカれた女に対する恐怖心などは一旦置いておいて流石に戦哉もキレそうになった。

 一発、本気で殴らせてくれと本気で思った。


 その後、抱えられたまま給水塔から飛び降りるという、人生初の絶叫体験を経験して。

「じゃあまたな、約束の日まで頑張れよ」と最後に言われ、ディアと別れた。


 そこから約30分、見慣れた道をなんとか探し出し、

 ようやく現在、自宅の玄関前までたどり着くことが出来た。


(……なッ、長かった。とんでもない1日だった)


 病院での化け物との死闘、ディアとの出会い、その他諸々の1日を振り返り、戦哉は玄関前で帰ってきた感動のあまり涙を流しそうになる。


(自宅というものが、ここまで心を浄化してくれる場所だったとは……これを機にもう家から出れなくなりそう)


 流れる涙を手で拭いながら、玄関のドアへ手をかける。

 と、そこで戦哉は自分が家の鍵を所持していない事を思い出した。

 家を出た時の手荷物は全て病院に置きっぱなしである。


(あ、ヤベッ、そういや俺、鍵持ってな――) 


 ガチャッ 


 音が鳴り、ドアが開いた


(お、開いてる!姉貴いるのかな?)


 普段、この時間帯は姉は仕事で戦哉は学校と、家は施錠されている。

 開いたことで戦哉は、姉の在宅を疑う。

 恐る恐る家の中を見る。

 見れば、家の中は静かで明かりが一切灯っておらず、誰かがいる気配が全くしない。


 お前みたいな特殊な奴はいろんな組織から狙われる。

 ディアの言葉を思い出し、戦哉は息を飲んだ。


(姉貴だったら、俺の声に反応するはず)


「ただい――」 ズドンッ


「ゲぼあッ!」


 声を発した瞬間、戦哉の身体に強烈な衝撃が走る。

 目にも止まらぬ速さで、何かが奥のリビングから飛び出してきた。


(あ、俺死んだ?)


 とてつもない衝撃に戦哉の脳裏に、死がよぎる。


 しかし、


「戦哉ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ‼」


 聞き馴染みのある声が聞こえ「あッ」と一瞬の内に安堵した。


 受けた衝撃に身を任せ、吹っ飛んだあとにそのまま家の前の道を転がる。

 動きが止まり、顔を挙げれば目に涙を溜めた姉、ユリの顔が視界に映った。


「よかったぁぁぁぁぁぁぁあああああ、帰ってきたぁぁぁぁああああ!」


 ユリは戦哉の顔を見た途端、顔をくっつけ頬ずりをする。


「痛い!痛いって姉貴!やめろ、顔が削れて無くなる!……ホントに‼マジで‼頬骨折れるって‼」


 頬ずりのあまりの強さと勢いに戦哉は道の真ん中で悲鳴を上げ、叫んだ。


「あんたは今まで何処にいってたんだ‼ 仕事から帰ってきて家にいないかと思えば、一晩帰ってこないなんて。本気で心配して姉ちゃん、死ぬ所だったんだからね‼」


 道端で顔を両掌で挟まれ、大声で問いただされる戦哉。

 掌の挟む力が強すぎて何も喋れない。


 ユリは今度は戦哉の全身へと視線を走らせる。

 戦哉の服装を見て、ユリは目を見開いた。


「それにこれ、どうした。全身、服がボロボロじゃないか⁉ 所々の赤黒い染みは、まさかあんたの血じゃないよな⁉」


 見るからに混乱するユリに戦哉はどう説明したものかと頭を悩ます。


「も、もしかして誰かに襲われたのか⁉どんな奴だ⁉教えな⁉すぐにでも姉ちゃんが見つけてぶっ殺してやるから」


 段々と心配から怒りへとシフトチェンジする姉を見て、戦哉は「あ、止めないとまずい」と思う。


「あ、姉貴、とりあえず詳しいことは中で話すから、まずは家に入ろう。ここじゃあ、近所にどんな目で見られるか分からん」


「んあ、近所……?あ、ああ近所ね、そうだな、中に入って話すか」


 ユリを説得し、2人はとりあえず家の中へと入った。


「わ、何これ⁉」


 戦哉はリビングに入り、驚愕する。

 家の中はめちゃくちゃに荒れ果てていた。

 誰かに襲われたのはこちらの方なんじゃないかと疑うくらいに。


「え、俺がいない間になんかあったのか?」


 戦哉は慌ててユリに問いかける。


「あ、それはだね。あんたが帰ってこないもんだから、姉ちゃん心配で、ちょっと荒れちまってね。八つ当たりに暴れたらこうなっちまった」


 頬をかきながら照れくさそうに言うユリに対し、戦哉は空いた口が塞がらない。


(俺、この後、家をしばらく空ける説得しなきゃいけないんだよな……なんか無理な気がしてきた)


 自分の姉のブラコンぶりに冷や汗をかく戦哉。


「ま、後片付けはおいおいやるとして……あんた、ホントに身体は大丈夫なのか?」


「え、あぁうん、身体は大丈夫――」


 ユリの問いかけに戦哉は答えようとするも止められた。

 答え終える前に再度ユリに抱き締められ、言葉を遮られた。


「本当に戻ってきて、良かった」


 耳元で聞こえる、姉の初めて聞く涙ぐんだ声に戦哉は戸惑う。


「ちょっ、え、泣いてんの。マジ!ちょっと大袈裟すぎやしません!」


「馬鹿ッ、あんたは私にとって、たった1人の家族なんだ。死ぬほど心配するに決まってんだろ」


 いつもの姉からは想像もつかない程の、弱々しい声に戦哉は、自分がどれほどの心労をかけていたのかを思い知る。


(姉貴のそば離れるの、やっぱ考え直した方が良いのか……)


 そんなことをつい思ってしまう戦哉。


「ご、ごめん、姉貴。もう心配かけないようにするから。俺はどこにも行かないからさ。大丈夫だって、な?」


 その言葉にこくりと頷くユリ。

 戦哉にはそれ以外に、自分を思って泣いてくれる姉に対して、かける言葉が思いつかなかった。

 全身に伝わってくる、ユリの温かみに戦哉は目を伏せる。自分の中でも安心感に包まれると同時に、罪悪感で胸が痛むのが分かった。


「……それに、私、怒ってもいるんだからな、お前に対して」


「うん、そうだったのか――って、え、今なんて?」


 唐突に弱々しい声音から変わり、不穏な言葉が聞こえる。戦哉を呼ぶ人称も変わっていた。


「私、書いてたよな。病院に行く必要ない、家から出ずに安静にしてろって、出たらお仕置きって手紙にさぁ」


 声質が変わり、ユリの纏っている雰囲気も変わる。いつの間にか戦哉を抱きしめていたユリの両手には物凄い力が籠められていた。


「ん?ああそういえば、書いてあった――って痛い、痛い、姉貴!絞まってる、絞まってるからぁ‼」


「お前、それを承知で家を出たってことは、覚悟は出来ているんだろうなぁ、ああ!」


「ごめんなさい、ごめんなさい、もう2度と心配はおかけしませんので許してくださいぃぃぃ」


 その後、約3分間ほど超絶的な力で絞められた。




「はぁ、はぁ、はぁ」


「ほら、そこに正座しろ。なんで家を出たか、家を出て何があったのか、納得に行く説明があるまで私は許さないからな」


 ようやく解放された戦哉の目の前に、椅子を置いて見下ろすように座るユリ。

 その顔は抱き締める前とは違って怒りに染まっていた。


(あ、ごめんなさいディア、俺、姉貴を説得できる気がもうしないです)


 目の前のユリを見上げ、戦哉は心の中でディアに謝罪を述べた。


 その時、


 ピンポーンと、


 突如として家のインターホンが鳴り響く。


 ユリと戦哉の間に落ちる、一瞬の沈黙。

 来客のほとんどないこの家のインターホンが鳴るなど珍しいことだった。

 2人そろって不審げに玄関を見る。


「あぁ、誰だ⁉こんな時に」


 ユリが苛立ちながらスタスタと玄関に向かう。

 戦哉も気になりリビングの扉の影から玄関を見つめた。


 玄関スコープを覗いたユリが首を傾げる。


「あ?誰もいないじゃん」


 そしてガチャリと、そのままドアを開けてしまった。


 カチャッ


「はい、動かないでねぇ、お姉さーん」


 ドアを開けた姿勢のままユリの動きが止まる。


 聞こえてきた声に、戦哉は驚き玄関まで走った。


「おう、お前!さっきぶりだな」


 走ってきた戦哉に笑いかける来訪者。


「な、なんで今ここに⁉」


 そこにはユリに向けて銃を持ち、こちらに笑いかけるディアの姿があった。












































































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