第二章 真実 その2 「やっと出会えた希望」
「……ほぉ、なんでそんなことを聴く?」
こちらを見て笑みを浮かべるディア。
その笑みを見て、戦哉は後ろに飛び、一気に距離を取った。
「……俺はな、人の感情が読み取れる特殊体質だ。見るだけでその人の感情が自然と俺の中に流れ込んでくる。なのに、あんたからはそれが一切感じない。あの病院の化け物と同じだ、つまりあんた……あの化け物と同一の存在ってことじゃないのか?」
戦哉は距離をとりつつ、いざとなったら地面へと飛び降りれるように横目で下を確認した。
(あの化け物の猛攻を受けても大丈夫だったんだ、ここから落ちても、死にはしない……はずだよな、たぶん)
警戒心丸出しにしてディアを見据える戦哉。
その様子を見てディアは、
「ぷッ‼」
思いっきり噴き出した。
「ぷっ、くくッ、くッアハハハハハハ、お前、間抜けだなぁ、急にマジになったと思ったら、そんな勘違いしてんのか、アハハハハハ!はぁ、おかしい」
そして、涙を目に溜めるほど大笑いし始めた。
「?」
そのままの姿勢で頭を捻る戦哉。
今のやり取りのどこに笑う要素があったのか分からない。
一通り笑った後、涙を拭いながらディアは説明を始める。
「そりゃぁ、だってお前。私の方が圧倒的に強いんだ。覚醒したばっかのお前の能力なんぞ通じるはずがない」
さも当然のように言うディアだが、戦哉にはまるで話が入ってこない。
そんな置いてけぼりの戦哉に気付かずディアは説明を続ける。
「でもそういや、この世界じゃ、力をまともに使える奴なんてほぼいないんだったな。それなら力の差なんて分からなくて当然か。能力のことも、力のことも今まで何も理解せずに過ごしていたならば、その使い方も分からず、駄々洩れの状態が普通だと認識していてもおかしくねえ。未熟なままの能力なんて力を纏っていれば簡単に防げる。おそらく病院の化け物とやらの感情が読めなかったのも、それが原因って……ん?、その顔、もしかしてお前、なにも通じてねぇな」
ようやく、戦哉が話についていけてないことに気付いたディアは、はぁ~っとため息をつき、じゃあもう、これでいいだろ、と手を前に伸ばし始めた。
「この腕、見とけよ、ほれッ」
言ったと同時、伸ばした腕の拳をぎゅっと握る。すると、腕全体が淡い赤色を放ち始めた。
「ッ⁉」
その光景に戦哉は目を見開く。
「……まぁ、つまりはだ、私もお前と同じ特殊側の人間てわけだ」
(俺と……同じ)
目に映る淡い光に、心の中に抱いていた不信感が一気に薄まっていくのを感じた。
初めて出会った、自分と同じ側の存在。
戦哉にとってその事実はとても計り知れぬものだった。
「この力の事に関して私は、お前より遥かに理解しているし、使えもする。だから、お前の能力は私には通じない。防いでいるからな。そして、他の奴に通じてなかったのも、それが相手が人間じゃなかったからではなく、単純に防がれていたか、お前が能力を使いこなせていないかのそれだけだ……これで分かったか?」
(この体質を制御することが出来る……この人に頼れば)
長い間求めていた答えへの手がかりをやっと見つけた気がした。
いつか誰かを取り返しもつかないほど傷つけてしまうという未来、他者の感情によって自分の自我がいつか呑まれてしまうのではないかという未来、近しい人に見捨てられいつかは本当の1人になってしまうのではという未来。そんな未来を戦哉は常に心の中で恐れていた。
一刻も早くこの体質を、手遅れになる前に克服したいと願っていた。
この瞬間、ディアの存在は戦哉の中で恐怖を上回り、”希望”となった。
「……それじゃあ、あんたはホントにあのテロリストの仲間とかじゃ……ないんだよな?」
最後の確認の言葉が口から発せられる。
聴いても意味はないだろうと分かっていても自然と零れ出てしまった。
「だから、ずっと言ってるだろ、私は味方。お前を保護しに来たの」
やれやれといった感じで肩を竦めるディアに戦哉は、それじゃあと、言葉を続ける。
「……俺にこの体質、あんたが言うには能力か。これの使い方、俺に教えてくれ、頼む‼」
戦哉は力強くそう言うと、勢いよく頭を下げた。
それを横目にディアは、鼻で、ふんッ、と笑うと。
「そんな勢いで頼まれなくたって、最初からそのつもりだ。私としては早くその能力を使いこなしてもらわねぇと、こっちが困るんだ。徹底的に教えてやるから安心しろ」
と、どこか嬉しそうに言った。
「……あ、ありがとうございます」
戦哉はそれを聞いて一度顔を上げると、もう一度深々と頭を下げた。
(よっしゃ……これで、念願の体質克服が叶う)
拳を握り、喜びをかみしめる戦哉。
と、そんな戦哉の様子を見て、ここでディアから1つ訂正が入った。
「あ、ちなみに言い忘れてたが、私は別に他人の感情を読み取るような能力は一切持ち合わせてねェからな」
「え?」
戦哉は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして固まった。




