第一章 目覚め その1「いつもの朝、いつもの日常」
ピピピッ~ ピピピッ~ ピピピッ~
耳をつんざく甲高いアラーム音が部屋中に鳴り響く。
その音に反応し、ベッドの上に鎮座していた布団の塊がモゾモゾと動き出した。
「うぅぅぅぅ~」
うめき声と共に布団の塊からニョキッと腕が飛び出す。
飛び出た腕はベッドの脇に置かれていた音の発信源であるスマートフォンをひっつかんだ。
ピピピッ~ ピピピッ~ ピピッ…
鳴り続けていたアラ-ム音が鳴りやみ、部屋に静寂が訪れる。
モサッと布団の塊が開き、中から部屋の住人が顔を出した。
神崎 戦哉 17歳
パッと見ごくごく平凡な、どこにでもいる高校3年生である。
(はぁ~、あと3時間はねてぇ~なぁ~)
寝ぼけ眼を擦りながら絶対に叶わないであろう願いを虚空に願う戦哉。
彼は朝に弱かった。
朝日がカーテンの隙間から射し込む平和な朝。
戦哉は、ふぅ~、と一息吐き、キョロキョロとあたりを見回した。
(……いつもの俺の部屋だよな、あたりまえだけど)
彼は、自分の部屋に自分がいるという当たり前の状況を確認し、謎の安堵感を感じていた。
(最近多いなぁ、この感覚。......俺、ボケてきてんのか)
ポリポリと頭をかき、困り顔をつくる戦哉。
戦哉は寝起きに感じる、この安堵感に言いようのない違和感を抱いていた。
そして同時に、
(……ん~、畜生、また思い出せねぇな。夢を見てたのは確かなんだけど、内容が全く思い出せねぇ)
彼は、直前まで見ていたであろう夢の内容を必死に思い出そうとしていた。
(なんなんだこれ?毎朝、毎朝、なんか損したみたいでめっちゃ腹立つんだよなぁ~‼)
夢を見た感覚は確かにある、その印象も強く残っている、なのにその内容が一切思い出せない、そんな夢。
安堵感からのイラ立ち、これが彼のここ最近の、朝起きてからの流れになっていた。
(しかも、まぁいっか!で流せないぐらいに妙に気なってくるんだよなぁ〜これ)
いつものように頭を片手でかきながら、彼はなんとか思い出そうと頭の中の夢のかけらを探しだそうとする。
が、これっぽっちも思い出せる気配はない。
彼はこの思いだせないイライラを、このところ毎朝感じていた。
(ああああ~もうムカムカする‼最初のうちはさぁ、たまにはこんなこともあるよなぁ~って感じだったよ!でも、毎朝こうも繰り返してるとさぁ、さすがにいい加減イライラが収まらなくなってくるんだわ‼どわぁあああああああああああ~~~~~~、この気持ちの矛先はどこに‼どうやってこのイライラは発散すればいいんじゃぁ~~~~~~~!)
絶対に聴いたことのある良い曲のタイトルだけが思い出せない時の感覚と似ている。
その感覚に、彼の朝の内心はこのところ発狂寸前だった。
布団相手に八つ当たりの締め技を仕掛けてはその気持ちをどうにか発散しようとする。
しかし、そんなことをしていても単純に時間の無駄になるだけだと彼は知っている。
そのイライラをそのままに、彼は手元に放置していた自分のスマートフォンを、ふんッ、と鼻息荒く引っ掴んだ。
無理やりにでも気持ちを切り替えるしか方法がないのを、彼はこの数日を通して経験したのである。
(ふんっ‼……、今、何時じゃッ!)
スマホ画面には07:05と表示されていた。
(う~ん、今日の朝飯当番は姉貴だったはずだよな。……よしッ、なるべく早めに下りといたほうがよさそうだ)
戦哉はとりあえず夢について考えることはやめ、次に直面するであろう問題に対して向き合うことを決め、身支度をし始めた。




