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第一章  目覚め  その16「異能と蹂躙」

 (嘘......だろ⁉)


 金髪の男は、自分の目を疑った。


 血だらけの青年が1人、こちらを睨んで佇んでいる。


 とっくのとうに死んでいなきゃおかしい人間。


 銃弾を十発以上受けて、立ち上がれる人間などいて良いはずない。

 何度、頭の中で否定しようと、それでも確かに青年はそこに立っていた。


「......アハハッ、まじかよ⁉どんな運の良さだよテメェ、あれだけの銃弾が一発も致命傷にならなかったていうのか⁉ハッハッハッハ~~......それじゃあ、こんどこそくたばりやがれ!!死にぞこないが!!」


 男は笑うしかなかった。何かの間違いだと。


 再び青年に銃を向け、弾丸を撃ち込む。


 バンッ バンッ


 2発の銃声が響く。

 今度は青年の心臓、眉間をしっかりと狙って撃ち込んだ。

 弾は命中し、青年の身体が後ろにのけ反る。

 人間の急所。確実に生きているはずがない。


(……これで、確実に死んだはずッ......はッ?)


 金髪の男の表情が固まる。銃弾は意味をなさなかった。

 青年の身体は後ろにのけ反るのみで、床に倒れることすらない。


「……潰す!壊す!殺す!......」


 繰り返し唱えられる青年の呟きが男の耳に届く。

 後ろにのけ反った青年の身体がゆっくりと元に戻りはじめた。

 青年の顔が再び、男の方へと向いた。

 その血走った目には、しっかりと男の姿が映っていた。


「......潰す‼壊す‼殺す‼」


「......な、なんなんだよ、テメェは‼」


 そこで、ようやく男の顔から笑顔が消え、変わりに恐怖の色が浮かんだ。

 残りの弾丸が全て青年に向けて放たれる。

 再び響く、連続する銃声音。

 しかし、放った弾は1発として青年の身体には当たらない。


 1発目が届く寸前で青年の身体が目の前から消えた。

 外れた弾は青年の後ろにあった壁に全て撃ち込まれる。


(......ど、どこにいきやーーゲハッ!)


 消えた青年の姿を探そうと視線を動かそうとしたその時、男の視覚が揺らいだ。

 それが殴られたのだと気づくのには、数秒かかった。


 いきなり距離を詰めて現れた青年の拳。


 その攻撃は1撃じゃ終わらない。


「ガハッ! グハッ! ゲハッ!ーーも、もうやめッ‼ーーギッ、ガッ‼」


 2撃、3撃、4撃と、顔面に向けて放たれる拳。それは反応する隙すら与えず、ノータイムで繰り出され続ける。後ろに下がり逃げようとするもその距離感は決して離れることなく、その攻撃は獲物を逃がさない。


 男の鼻や口から血が吹き出す。


 そして、繰り出される5撃目。それは拳ではなく、開かれた手のひらだった。

 繰り出された手のひらはそのまま男の顔を鷲掴みにして引き込む。

 掴んだまま体を回転させ3メートルほど後方へと男を投げ飛ばした。


「――ガハッ‼」



 投げ出された男は、思いっきり地面に背中を打ち付け肺の空気を全て外へ吐き出してしまう。


「……ぐっ!......ガッ!」


 立ち上がろうにも、あまりの痛みに悶え、その場からは動けない。

 そしてそこにさらに追撃が加わる。

 青年は見えない速度で距離を詰め、そのままの勢いで男の腹を蹴り上げた。

 男の体が、さらに5メートルほど飛ぶ。


 息をすべて吐き出し、声も出せない男は、動きの止まった床の上で蹴られた腹を抑え苦しんだ。


 そんな男にも青年は次の攻撃を加えんと、動けなくなったことを見越してじんわりと恐怖を与えるためか、ゆっくりと歩み寄ってくる。

 男の目にはそれが青年などではなく、確かに翼の生えた血まみれの悪魔に見えた。

 あの背中に生えた翼は果たして恐怖からくる幻か、はたまた本当の現実か男には分からなかった。


「……て、てめぇら、時間を稼げ‼」


 男は何とか息を吸い、声を上げる。

 周りにいた男の仲間たちもそれを聞いて、何とか我に返った。


「う、動くな‼」


 仲間の1人が声を張り上げ、銃を青年に向けた。


 ゆっくりと首を動かし、銃の方向を見る青年。


(……あいつらにも、恐怖を……)


 青年は次に、集められた怯える人々へと視線を移動させた。

 そもまま視線の先に手を伸ばす。


 その謎の行動に銃を握る男も、視線を向けられる人々も頭の中に疑問の2文字が浮かんだ。


(……与えられたものを……今から返してやる)


 青年は突如、伸ばした腕の手のひらを握り。

 それを銃を持つ男へと振りかぶった。


 まるで何かを投げ込んだかのような行動。


 銃を握りこんだ男の頭は困惑していた。


 しかし、次の瞬間、異様なことが起こる。


「……ガッ……アッ……」


 銃を握った男の体が震えだし、その目から涙を流しながら地面へと膝から崩れ落ちた。

 口はガチガチと動き、目は白目を向いている。

 崩れ落ちた男はそのまま意識を失い、地面へと倒れた。


 外傷は何もない、まるでその人格自体が崩壊したかのように倒れた。


 青年は再び、集めれた人々へと手を伸ばす。





 その時、柴崎は見ていた。青年の、神崎の手が、男に向かい振りかぶられるその瞬間、神崎の掌が淡く紫色の帯びていたことに。


「なッ!!、おい、どうした⁉」


 密集する人々の中で突如、ざわめきが起きた。柴崎はざわめきが起きた方へ視線を向ける。

 その視界に、意識を失い倒れた人々が数名映る。

 その顔は、白目を向いて倒れた男とは違い、とても穏やかで眠っているようだった。


(一体何をしたんだ神崎⁉……お前はいったい?)





(……いつもと違う......)


 戦哉は自分の手のひらを見つめながらそう思った。

 自分の内側では襲撃者たちへの怒りと憎しみが荒れ狂う程に渦巻いている、それはいつもと変わらない。

 いつもと同じ感情に呑まれた時の感覚だ。


 しかし、何故か、頭の中は風が凪いだように静かで、すっきりしていた。


 いつもなら怒りで、そのまま何も考えられなくなる。だけど今は冷静に頭を動かせる。相手に向かい、どのように攻撃していくかの選択肢が選べた。


 掌から視線をはずし、まだ立ち上がっており銃を向ける残り2名の男たちに視線を向けた。


(そんなに怯えるのであれば最初からこんなこと、しなければいいのに)


 戦哉は震えて銃を持つ男たちを見てそう思った。

 ホントに許せないと思ったのはあの金髪の男で、それ以外の彼らには憐れという感情の方が大きい。そこまでぐちゃぐちゃにしたいという思いはない。


 しかし、彼らに恐怖を与えられたこともまた事実、与えられたものは全て返さなければ。


 戦哉は再び、怯えた人々の方へ手を伸ばした。

 戦哉の目には不思議なものが見えていた。怯えた人々の中に光る紫色の光。それはその人の恐怖の塊だと戦哉にはなぜか理解できた。


(……今までも恐怖の感情自体は見えていたけど、こんな風に光る玉みたいに見えたのは初めてだ……それにこんな風に使えることも)


 戦哉は伸ばした手のひらに力を込める。

 すると、人々の内側で光っていた紫色の光が戦哉の手に集まり始める。光は1つの光の塊へと収縮されていった。


 光を吸収された人々は一様に気を失っていくのが見えた。


(……このやり方も、倒れた人たちが無事だってこともなぜか分かる……自分の身体の動かし方を知っているように、あたりまえに理解できてしまう)


 紫色の光が集まり、収縮され、戦哉の手のひらに野球ボールサイズの光の玉が出来る。

 戦哉は視線を光の玉から銃を向ける2人へ移した。


(集めたこれを……こう!!)


 思いっきり、光の玉を2人に向かって振りかぶる。


 投げ出された光の玉は途中で2つに分かれ、それぞれ銃を持つ男達の中へと吸収される。


 すると、銃を持っていた2人の身体の内側から紫色の炎が燃え出した。

 2人ともガクガクと身体を痙攣させ、白目を向いて倒れる。

 紫色の炎は2人の肉体を焼くことはなく、その内面だけを壊すように揺らめき、2人が気を失うと同時に霜のようになってかき消えた。


(……あとは、あの金髪野郎にとことん絶望を味合わせるだけだ、あの野郎どこに行きやがった)


 倒れた2人を見届け戦哉は内側に渦巻く怒りの標的を探す。


(……あ、いた)


 男は、受付台にすがるようにしがみついていた。

 その上に置いてあった、彼らが持ち込んだ鞄を漁り、必死に何かを探している。

 そして見つけたのだろう、何かを力強く引っ掴んで取り出し、鞄を横へと投げ捨てた。


「......はぁ、はぁ......これで、テメェも終わりだ、化け物野郎!!......今からテメェをぐちゃぐちゃに捻りつぶしてやる」


 男は受付台にもたれながら手に持ったものを掲げ、大声でそう宣言した。


(……なんだ?)


 戦哉は男がその手に掲げているものを見る。

 それは緑色の液体の入った、1本の注射器だった。

































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