重詠魔術
「戦うぞ」
(マジですか、このおじいさん!?)
ヴィンさんそう言い残して、ヴィンは崖から飛び降り、奇襲しに行ってしまった
「スゥーはぁー」
行こう。守るために。見ず知らずの人のためだが..な..!
「選ばれし地帯。その領域内の揺動を抹消するがよい。サイレント」
ジャーンップ!
− 不変の重量よ。周囲の領域を相互に、同等に歪ませよ。ゼロ・グラヴィティ
「ゼロ・グラヴィティ」
着地成功!...と言いたいが、なんだか手が冷たくなってきた。
実は着地を失敗して死んだりしてないよな..?
「来たのか。アフラ」
「えぇ。守るためですから」
「敵は5人じゃが、役割がしっかりとしておる。バランスの良いパーティーと言えるじゃろう」
なーんか落ち着いてるんだよな。慌ててないというか。
敵が目の前にいるっていうより、もう何度も同じ状況を経験しているような落ち着き方だ。
俺の魔力探知も、ヴィンさんと同じ結論を示していた。
問題は、実力だ。
「全員、初級Ⅱ、Cランクはあるでしょうね」
全員合わせれば、中級以上の戦力を叩き出してもおかしくない。
それほど、パーティーというのは重要なものだ。
「幸い、まだ感づかれておらぬようじゃ。行くぞ。ワシらの最大火力で」
「了解」
俺の最大火力。
まあ言ってしまえば俺の全魔力を注ぐ、制御できないほどのパルヴァ・ルーメン
何だが、仕留めきれなかったときに終わるので、リスクが高いと言えるだろう。
なので、程よいほどのパルヴァ・ルーメンを使おうと思う
パルヴァ・ルーメンは、本来プロストゥラーレで撃ち出して爆発させる。
だが、それでは詠唱に時間がかかる。
なら──撃たなければいい。
核だけを、限界まで圧縮する。
そうすれば...
「爆発となる」
...
バンッ!
爆発し、凍り、燃える。
欠点は、近づいて打たなきゃならないことだ。
その代わり、近くにいた人は生き残ったとしても凍り、動きが鈍くなる。
「生き残ったとしても、こっちが有利な戦いになる...」
はずだったのだが...
「防いだか。なかなか防御魔法が上手いようじゃの」
立ち上がる埃から出てきたのは...
ヒュ〜ン
攻撃魔術か。
魔力的に相当手練れ、おそらく魔法使いのものだな
「少しは怪我してくれてると嬉しいんだがな...」
俺はともかく、ヴィンさんの魔術はかなり強力なはず...
「冷光、滲出液、滋養、かの者に魔を分け与え、創傷治癒を助けんとする!サティオ・リカバリー!」
「身を隠せ。撹乱するぞ」
「はい!」
木に身を隠して気配を消したとはいえ、相手の陣形を崩さない限り、こちらも技を通す手段がない上、通したとしても決めきれず、回復されて振り出しに戻るのがオチだ。時間が経てば援軍が来る可能性すらある。できるだけ早めに決着を付けたいな... とはいえ相手はそう簡単に決着をつけれるほど弱くはない。
「「突風よ。衝突し、対象を重圧せよ。アクロ・レーザー!!」」
なるほど...な..
コレは確かに手強いぞ...
奇襲でもダメか
「力の源よ。かの者を吸引し、罰せんとする。サクション」
引き寄せる魔法か..!
「クソがよ」
おっと。口が悪くなってしまった。
いやー 疲労でイライラしてるんでね
−温め、逃げ、補い、循環せよ。
「「ゲイル・ブラスト」」
−外気の水胞を冷却せよ。ヴィス・ネブラ
「ありがとうございます」
ヴィンさんが俺の魔術と合わせてくれたことでなんとか逃れられたな。
仕掛けるときもそうだが、似た系統の魔術を合わせることで重詠魔術と化していた。ちなみに重詠魔術とは、魔術と魔術のかけ合わせだ。掛け合わせることで威力が上がったりする。
「印を結びて、小さき命。内部より突け。バースト」
視界が霞む。喉元まで競り上がってきた悍ましい鉄の味。
ドロドロとした液体が滴り落ちる。逃げなきゃ。
「ゲイル・ブラスト!」
「逃がすか!」
そう言ってパーティーの一人が逃げようとする俺に追撃を試みてきたが、回復役に静止され、なんとか逃げ切ることが出来た。
おそらくあれは数秒間、対象を睨み続けた相手にダメージを与える魔法だな。
技の欠点は相手の全身を数秒間映さないといけないこと。
遮蔽物がある限り、あの魔法は脅威じゃない。はずだったんだがな...
とにかくここが森で良かった。
開けた場所だったらもうすでに終わっていただろう
今のでなんとなく、あのパーティーの役職がわかった。
回復役、近接職、魔法使い2人、そして防御役
防御役が一歩前へ出る。
その背後から二つの魔術が飛んでくる。
──なるほど。
あいつが壁。
あの二人が火力。
なら、中央にいるヒーラーが司令塔か。
−選ばれし地帯。その領域内の揺動を抹消するがよい。サイレント
「回復魔術、お願いできますか?」
「もちろんじゃよ」
−レノヴァーション
「ありがとうございます」
「礼はいらぬ。それよりお主の残りの魔力量はいくつじゃ?」
「4割はあります」
「そうか... ワシはもう残り3割というところじゃ。次の奇襲が失敗すれば、ワシは戦力外となるじゃろう」
「そこか!」
魔力の塊が、飛んでくる。
津波のように。蝕んだ者を決して逃さない。
「ヴィンさん。あなたの、得意魔術の発動条件は、対象を見ることでしたよね?」
「あぁ。このような遮蔽物が多いところでは、発動できん」
そうなんだよなぁ
遮蔽物が多いこの森では、対象の全身を捉えるのが難しい。
バーストの対策が簡単な場所だが、ヴィンさんの対策も簡単。
全力を出せなくとも、俺よりかは強そうだが力を100%使える状態の方が良いに越したことはない
「じゃあ少し待ってくれますか?両手の魔陣を変更する時間をください」
「もちろんじゃ。わしも変更しておくとしよう。これからどうするのじゃ?」
「行きましょう。道は、俺が作ります」
− 光を抹消まっしょうし、その存在を遮断せよ。
「クジフィチャ」
残り時間:36秒
まずは遮蔽物を活かし、距離を縮める。
(ッチ魔力探知に一瞬引っかかったが消えた。十中八九透明化だろうな)
「そこか!」
透明化状態なので、被弾数を減らしながら近づくことができる。
音を立てないように慎重に、慎重に、魔力の欠片も出さないように近づく。
最後の奇襲を仕掛ける前に、あのパーティーの注意点をまとめておこう。
1.防御役の引き寄せの範囲には気をつけること
2.対象指定の魔法対策に定期的に全身を隠すこと
3.近接職には近づかないこと。
思いつく限りはコレくらいか?
−集め、削り固めよ。フォルムング
残り時間:24秒
フォルムングは防御用、そう思ってないか?
コレは壁を作るのではなく、塵などを集めて塊にする魔術だ
もしそれを発射すれば、どうなると思う?
「プロストゥラーレ」
「後ろだ!!守れ!」
パーティーの一員、回復役がそう叫ぶ。
「...」
流石だな。完璧に防御された。
「解除」
バレた。もう透明化を維持する必要もない。
今のパーティーの陣形は四角形に似てる陣形だ。
防御役が俺の正面――東。
その後ろ、北に近接職。南と西に魔法使い。
そして中央にヒーラー。
なのだが... 俺が少し動くたびに防御役がそれに合わせて動いてくる。
まるでお互いの縄張りの端で睨み合ってるライオンみたいだ。背後が取れない。
魔法使いもヴィンさんの攻撃を警戒してる。だがその距離は確実に縮み続けている。
硬直状態。その盤面が一気に動き出したのは、決め手は...
「っ!」
防御役が前進する。
それに合わせて盤面が動き出す
パーティーの陣形も四角からひし形へと変形する。
「力の源よ。かの者を吸引し、罰せんとする。サクション!」
防御役が魔法を発動する。それと同時に魔法使いも詠唱を始め、
俺が防御役一直線に引き寄せられる。
防御役の口角が上がる。
もらった!そう言いたげな表情だ。
その表情には安堵が見て取れた。
「俺もな!!」
− 温め、逃げ、補い、循環せよ。ゲイル・ブラスト
ゲイル・ブラストでサクションの軌道をずらし、空に投げ出された。
だがそのおかげでパーティーの中央に来れた。
空中。身体は真っ逆さま。
右手の魔陣。
左手の魔陣。
どちらも、俺が今まで一度も同時に使ったことのない魔陣だ。
でも──
やるしかない。
「右手、左手──」
二つの魔陣を、重ねる。
──重詠魔術。




