告白
屋敷に戻ると先に戻っていたルーファスが馬車まで迎えに出ていた。
「おかえり、シア。」
美しい銀の髪が風に揺れて、ルーファスの綺麗な顔が夕日に照らされる。
優しいその笑顔に胸がキュウッと苦しくなる。
ようやく言える。
ただのアイシアとして、ずっと秘めていた私の気持ちを…。
馬車から降りて、ジッと見つめるアイシアに、不思議そうに見つめ返すルーファスの深いアメジストの瞳が心配そうに揺れる。
「シア?」
「お話があります、ルーファス様。」
「…っ…。」
硬い表情で頷くと、手を握ったまま、屋敷内に誘導すると、ルーファスは自室にアイシアを案内した。
「お茶を入れるよ。」
「いえ、今はいいです。」
入ったものの扉の前で立ったままのアイシアをソファーへ座るように手を引くと、1人分開けてルーファスは横に座った。
「話って…?」
不安定に揺れる瞳が、アイシアを見つめる。
一つ、息を吐くと、アイシアはルーファスに体を向けた。
「ヴァンシル殿下と、お会いして話をして来ました。」
「うん…。」
静かに色の消えた表情で続きを促すように頷く。
「婚約を解消しました。」
「うん…。え…?…かい…しょう…?」
「はい。私と婚約を解消して、ガルシア帝国のセラフィーヌ王女と婚約を結ぶとのことです。」
「…。」
呆けたようにぼんやりとアイシアを見ているルーファスにアイシアはフフッと笑う。
「なんて顔してるんですか。」
「いや…、だって…兄上は君の事…。」
「キスはされちゃいましたが…。」
「!!!」
今度は目と口を開いて言葉を失っているルーファスにアイシアはもう一度泣きそうな顔でフフッと笑う。
「ヴァンシル殿下は素晴らしい王となる方です。
私では役不足でしたし、…私にはずっと…お慕いしている方がいるので、よかったのです。」
「お慕いしている…方…?」
「はい。婚約者候補でなくなった、ただの私だから…やっと伝えられます…。」
心臓がありえないほど激しく鳴るのを、胸に手をあてて、深呼吸して落ち着かせる。
アイシアは真っ直ぐにルーファスを見つめた。
「ルーファス様、あなたが好きです。」
「…!」
アメジストの瞳を見開いたままアイシアを見つめるルーファスをまっすぐに見つめかえす。
「…ずっと…初めて会った時からあなたをお慕いしておりました。この気持ちがあなたの迷惑になるかもと、ずっと心にとどめておりましたが、どうしてもお伝えし…っ。」
気が付くとルーファスの腕の中にいた。
ギュウギュウに抱きしめられて息が出来ない。
「シア…シア…。」
息が出来なくて苦しいのに、ルーファス様を大好きな気持ちが溢れて胸がいっぱいになる。
「好きだ…。好きだ…。シアが大好きだ。」
その腕が震えていて、泣きそうになる。
でもそろそろ息が出来なくて死んじゃいそう。
トントンと腕をたたくと慌てて腕の力を緩められて、プハッと顔をあげる。
顔を上げられるくらいには緩めるのに離さないその力加減に愛おしさで一杯になる。
「苦しいです…。」
「ごめん…。」
困ったような笑顔でアイシアを見つめる紫の瞳に熱が籠ったのがわかった。
「すきだよ、アイシア…。」
至近距離で零れ落ちるように告げられる言葉に思いの深さが滲んでいる。
「私も…。」
そっとアイシアの唇に柔らかい熱が重なった。
すぐに離れたソレに、口づけされたと気づき、胸の鼓動がまた大きくなる。
恥ずかしくなって視線をさ迷わせていると、抱きしめる腕はそのままに、顔を上げられ、
角度を変えてもう一度重ねられた。
食べるみたいにハムッと下唇を食まれ、ビックリして思わず開いた唇に、ルーファスの熱い舌が入り込む。
「ふぁ…?!」
思わずでた声に、さらに引き寄せられ、逃げる舌を絡ませるようにすりすりと撫でられ、力が抜ける。
「ん…はぁ…、待っ…。」
くちゅくちゅと唾液が絡み合う音がして羞恥でおかしくなる…・
頭に靄がかかったように何も考えられなくなり、ただ、感じるキラキラの虹色の魔力と体温が気持ちいい。
縋るようにアイシアはルーファスのシャツを握りしめる。
「はぁ…は…。」
ようやく離れた唇に、荒く息を吐くと、ぼやけるくらい近くに熱を孕んだアメジストの瞳があった。
「…ごめん…、我慢できなかった…。」
ごめんというくせに、未だ囲われたままの腕に、困惑よりも嬉しさを感じてしまう自分に笑ってしまう。
力の抜けた体をそのままルーファスの胸にもたれかけるようにくっつくと、抱きしめる腕の力が強くなった。
「夢みたいだ…シア…。
正直、兄上はとても優秀で、有能で、正しくて…人としても敵わないと思った…。兄上ならシアを幸せに出来るだろうって…何度も自分を納得させようとした……っ…けど…ダメだ。
誰にも渡したくなくて…シアを守るのも、幸せにするのも、触れることも…僕以外嫌だ。諦めるなんて出来ない…。」
優しく髪をなでられ、心地良さに目を閉じる。
この方の魔力はなんて心地よいのだろう…。
まるでもともと一つだったみたいにピッタリと自分に馴染む。
「あのさ…、シア、兄上にキスされたのって…。」
「…ほっぺたです…。」
「ほ……」
顔を上げると、真っ赤になって拗ねるルーファスの顔に、アイシアはクスクス笑う。
もしかしていきなりキスしてきたのはやきもちを焼いたから…?
少し不貞腐れた顔でアイシアの両頬をこすってチュッチュッとキスをする。
なんて可愛い人だろう。一度好きだと口にしたら際限なく好きが溢れてくる。
愛しさの籠った目でルーファスを見つめていると、アメジストの瞳がアイシアを見て強く輝いた。
アイシアを抱きしめていた腕を解くと、ソファーの前に膝をつく。
「アイシア。約束、覚えてる?」
約束…?
「君に相応しい人になれたら、結婚してほしいって。」
覚えてる…
忘れるわけがない
何度も何度も繰り返しアイシアの心に浮かんでは支えてくれた言葉
アイシアは顔を上げると、ルーファスを見つめた。
愛おしさで溢れた優しい大好きな紫の瞳がまっすぐにアイシアを見つめている。
「アイシア・ジョゼット侯爵令嬢…、あなたを誰よりも愛しています。生涯、貴方を守り愛し続けると誓います。どうか僕と結婚してください。」
「はい。私もあなたを誰よりも愛しています。どうか私をあなたの妻にしてください。」
喜びに溢れた花が咲いたように輝く笑顔でアイシアは答えた。
いつもは感情があまり顔に出ないと言われるルーファスは、アイシアにだけ見せる愛おしさに溢れた優しい笑顔を見せた。
涙にぬれたアメジストの瞳は幸せで輝いている。
ようやく、たった一つ、臨んだものを手に入れられた。
生まれてから望んだのは、アイシア…ただ、君だけだ。




