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捨て置かれた第二王子を助けたら王太子が婚約者になりました  作者: とぅーのすけ


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王妃との謁見

今、何時かしら…。


目を覚ましたアイシアは、カーテンを開けて窓の外を見る。

まだ、太陽は低く、朝早い時間だろう…。


ふと違和感を感じて何気に辺りを見回すと、この部屋に結界が張られていることに気付いた。

ルーファス様ね…。

心配をしてくれていることに、温かい気持ちになる。

まだ、寝ているかしら…。

ベッド脇の水差しから水を汲んで飲むと、アイシアはエリザベートの事を考えた。


尋問をしたとおっしゃっていた。

自分の愛する息子から尋問された王妃はどんな心境だったのだろう。

今回倒れたのは、病気などではなかったようだが、今もベッドから起き上がることが出来ないようだ。

ローズベリー王女がいつも付きっきりだと聞いている。

きっと今回の事が公になればローズベリー王女殿下はとても傷つくのではないかしら…。


「お母さまを尊敬しているの。」

そういって嬉しそうに笑った顔を思う。

あの笑顔を守りたいと思っていたのに…。

ローズベリー王女の澄んだ魔力と素直で優しい性格は、きっと本人のもともとの資質もあるが、きっと育ってきた環境が導いたものだろう。

ローズベリー王女から聞く王妃はとても誇り高く清廉で聡明な方だった。


でも、このままにしてはいられない。

幼いルーファス様を監禁し毒を盛った事も、私の命を狙ったことも、聖魔法士の誘拐事件も。そしてノルン帝国の侵略に何かしら関与しているのなら、無傷ではいられないはずだ。


何があっても私は私の思う正義を貫く。

アイシアは胸に手をあてて、深く息を吸った。


その時ノックがして、外から侍女の声がする。

騎士と何やら話しているようで、騎士が先に隣のルーファスの部屋へ彼を呼びに行ったようだ。

ルーファス様に解いてもらわないと、この部屋に誰も入れないからだ。


しばらくして、結界が解除され、ルーファスと侍女が一緒に入室する。


「おはよう、シア。」

「おはようございます。私が寝てる間に結界を張って下さったのですね。」

すでにソファーに座っていたアイシアの傍に来ると、ルーファスは耳元でアイシアに囁いた。


「シア。闇魔法の気配がする。逃げた侍女はこの城にいる。」

コソッと耳打ちされた内容に、アイシアは目を見開いた。

まだ、この城の中にいるのね。

カミラは…何のためにここに残ったのだろう。

ゴーレムを逃がすため?

でも、ゴーレムはこの城の中に間者を送り込んだことは話したが、誰だとは知らないようだった。

ノルン帝国の国王の命令で動いていたのだろうとヴァンシル殿下はおっしゃっていた。

まだ何か仕掛けてくる気かもしれない。


「シア、とにかく気を付けてくれ。シアは顔を知っているようだけど、どこにいるかわからない以上、周りには警戒してくれ。出来る限り僕も傍にいる。」

「ありがとう、ルーファス様。」

ルーファスに笑いかけると、両手でそっとルーファスの手を握って癒しの魔法をかける。


どうか今日もルーファス様が無事で過ごせますよう…。


「…ありがとう、シア…。」


優しい顔で少し寂しそうに呟くルーファスに、アイシアは顔を上げて見つめた。

「ルーファス様…?」

「いや、出会ってからこうしてシアに毎朝癒しの魔法をかけてもらったなと思い出していた。この件が解決したら、兄上はシアを正式な婚約者に指名するはずだ。そしたら、、もうこうしてシアの手に触れることも難しくなるだろうな。」

困った様な笑顔に、アイシアの胸がキュッとなる。

「そう…ですね。でも、私に王太子妃は務まらないと思いますけど…。ヴァンシル殿下も考え直すかもしれませんよ。」

フフッと笑うアイシアの笑顔を眩しそうに見つめると、ルーファスはごめん、準備があるよね、と言って部屋を出て行った。


入れ替わりに数名のメイドと侍女が入室し、アイシアは王妃に会う準備をすることとなった。



「案内します。」

高齢の侍女に案内されて、アイシアは王妃の私室へ向かう。

案内する侍女の背中を見つめながら、どこか既視感を感じていた。

前にもこうして王妃のお茶会に、カミラに案内されたな。

あの時は濃紺の髪が美しくて思わず声をかけてしまった。

淑女教育を幼い時から施されてきたというのに、アイシアは気になったらどんな相手にも躊躇なく話しかける傾向があった。


家族の者が隣国の出だと言っていたカミラ。

闇魔法使いのカミラはこの国に王妃の輿入れ時から潜入していたという。

20年近い時間、故郷から離れてこの国で諜報活動をしていたというが、家族には一度でも会えたのかしら…。

純粋に侍女として働くならまだしも、間者として仕える人を裏切らないといけない日々。

それはとても寂しい気がする。

この長い時間何を思って過ごしていたのかしら…。


「こちらです。」

扉の前で足を止めた侍女に案内の礼を言う。

護衛の近衛騎士が中に確認すると、すでにヴァンシルもルーファスも中に居ると言う。


「どうぞ。」

扉を開いて中に通されたアイシアは、ベッドに座ったままの王妃と目が合った。

思わずカーテシーで挨拶をすると、ヴァンシルが立ち上がりアイシアの手をエスコートする。


「アイシア嬢、時間をくれてありがとう。母上、二人を呼びましたよ。お話頂けますよね。」

ヴァンシルがアイシアをベッド脇に用意された椅子へ座らせるとエリザベートは小さく笑った。


「久しいわね、アイシア嬢。ご機嫌いかが?」

じっと見つめる琥珀の瞳は澄んでいてとても美しい。

少しやせたのかしら…。それが一層妖艶な美しさを醸し出している。

「はい。恙なく過ごしております…。」

短く差しさわりのない返答をすると、興味なさそうに王妃はフッと視線をルーファスへ移した。


「お前も久しいわね。本当に…あの女にソックリな容貌ね。私に何か言いたいことはあるかしら。」

何か言いたい事…

急にルーファスにかけた言葉の内容に、アイシアは眉を寄せた。

「…。」

ルーファスは答えない。ただ、じっと王妃を熱のこもらない目で見つめている。


「私はお前の母親が気に入らなかった。いつか殺してやりたいと思っていたわ。」

「母上!?」

急に話し出した内容にヴァンシルが声をあげた。


室内にはヴァンシルとエリオット、ジュリアス、ルーファスとアイシア、そして壁に侍女が2人立っている。

「でも、あの女はお前を産んで直ぐ、産後の肥立ちが悪く亡くなったわ。清々したわ。お前が魔力操作が出来ず、隔離するしかなかった時も歓喜したわ。これで正当にお前を排除出来るとね。でも、毒?私は知らないわ。確かに隔離して閉じ込めたけれど私は何もしていない。」


薄く笑顔を張り付けたまま話す王妃に底知れない気持ち悪さを感じる。


「世話を任せていた魔術師達はあなたの指示であの瓶の中身を食事に混ぜていたようだと、図書館の管理人は言っていた。

貴方が毒を準備したんですよね。」

ヴァンシルの追及に、王妃は息を吐いた。

「いいえ。」


「そんなわけないでしょう。ノルン帝国のあの毒の入手経路は?」

「知らないわ。私は何もしておりませんもの。」


フフッと笑う王妃は堂々としていて、まるで真実のように話している。

「私の名前を語って誰かが…そうね、私の侍女に扮していたノルン帝国の間者が唆したんでしょう。」

「何のために?」

「そんなこと知らないわ。ただ私はあの女もルーファスも嫌いだった。嫌いになることが罪であるはずがないわ。」


「幼いルーファスを閉じ込めて世話もしなかったのに?」

「食事は与えていたわ。今はこうして生きているんだからいいでしょう。」

「その食事に毒が含まれていたのに?」


ヴァンシルと王妃の言い合いの中、アイシアはふと声を上げた。


「あの…、クロエ様は王妃殿下から私のせいでヴァンシル殿下が危険にさらされていると聞いたとおっしゃっておりました。マグノリア教会への聖魔法士の派遣も、私自ら行きたいと王妃殿下にお願いしたと。でも、実際は私は王妃殿下に行って欲しいと言われました。あの二人の侍女も王妃殿下がクロエに与えたと聞いてます。新しい移動魔法の事も王妃殿下に教えてもらったと。あの移動魔法は闇魔法です。この国にないはずの闇魔法について知っているのなら、王妃殿下はノルン帝国の事を知っていたことになりますよね。」


「…それなら、私はカミラに精神操作でもされていたのでしょうね。」

「いいえ…。私にマグノリア教会へ行くようおっしゃったとき、王妃殿下の魔力には他者の魔力が混じっていませんでした。あの時の王妃殿下は、誰かに操られてたわけではなくあなた様自身でした。」


アイシアの言葉にエリザベートはアイシアを睨みつけた。

「王妃殿下の魔力は、確かに闇魔法が混じった様な色合いです。でも、普通は闇魔法に操られている人はその時だけ色合いが変わるので、もとの色に戻る瞬間があるのです。でも、あなたは終始闇魔法の色合いが混じっています。」


ジュリアスがそれを聞いて、疑問を口に出した。

「長い時間闇魔法で精神操作されていいたために終始かかっている状態になったということはないのですか?」。

「それはない。」


きっぱりと言ったルーファスの言葉にジュリアスが目を瞬かせる。

「闇魔法の精神操作はかかっている時だけ、その魔力に術者の魔力が混じる。魔力を目視できるアイシアが終始同じ色だと言うのなら、それは本人の魔力という事だ。闇魔法はまだ不確かなことが多いが、長時間かけて王妃の魔力が変化した可能性がある。」


「では、王妃殿下は闇魔法使いだと言う事ですか?」

エリオットの言葉に、王妃自身が目を見開いた。


「私は闇魔法等使えません。」


「ええ。魔力の色にそれぞれの属性は関係ありません。そのことにそれほど意味はないでしょうが、ただ、生まれ持った魔力の質、心の持ちようで王妃の魔力に変化が起きた。」


淡々と話すルーファスを憎らし気に目を細め、エリザベートは爪が食い込むほど手を握りしめた。


「王妃殿下。私はあなたはとても聡明で正しい王妃だったのだと思います。今まで誰も成さなかった聖魔法士の保護や派遣を行い、法律を整えた。医療の現場を国全体に行き渡らせ、慈善活動にも力を入れておられた。でも、魔力の色を…生まれ持った魔力を変化させるような何かがあったのですよね…。清廉で正しくあろうとするあなたの心を壊す何か…。」


アイシアは心の中で続けた。


それは国王の裏切り…


「うるさい!!うるさい!!うるさい!!!」


突然叫び出した王妃を痛ましい目でアイシアは見つめた。


「私は悪くないわ。なんの罪があると言うの!?私はこの国の王妃として正しく行動してきたわ。ノルン帝国の侵略に手を貸すことなどしていない。私はただ、信頼する侍女に、慈善活動の手伝いをしてもらうために聖魔法士のリストを渡しただけ。

クロエに侍女を与えたのも彼女を心配したからよ。あの子はずっとヴァンシルの妃になることを夢見ていたから、危険がないよう手練れの侍女を紹介しただけ。それもカミラの紹介よ。

彼女がノルン帝国の闇魔法使いで間者だなんて知らなかったもの。」


ヴァンシルは母のその必死の訴えを聞くと、真実がわからなくなった。


母は本当に知らなかったのではないのか。


胸に溢れる不確かなものに、気持ちが揺れる。


「信じてくれるわよね…ヴァン…。私はお前の母親だもの。あなたや愛する子供たちの為にこの国に害を為すようなことはしないわ…。」

涙で潤んだ琥珀の瞳を向けられ、ヴァンシルは目を瞑った。


あれほど母の関与を疑っていた気持ちが揺らぐ。

母の言っていることは筋が通っている。

カミラは20年近く母の傍で専属侍女としていたのだから、信頼するのは当たり前だ。


「兄上。しっかりしてください。」

鋭いルーファスの声が耳に入り、ハッとなる。

顔を上げて振り返るとヴァンシルをアメジストの瞳が強く見つめていた。



はぁと疲れた様な息を吐く王妃に、控えていた侍女が心配げに近づく。

「王妃殿下…。」

「悪いわね、お前、お茶を入れてくれる?」

「かしこまりました。」


すぐにお茶が用意され、徐に侍女が王妃近付いた時…



「シア!!!」


ルーファスの叫び声と共に床に赤い血がポタポタトと落ちた。

アイシアの胸に…深くナイフが刺さっていた。









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