王妃の尋問
「ジュリアス、エリオット。母上の尋問を行う。」
「は…。」
目が覚めたという母上の私室へ行くと、医師とローズマリーが傍についていた。
「お兄様!いつ、戻られたのですか?」
かけ寄る妹の笑顔に、なんとも言えず、無言でやり過ごす。
「お兄様…?」
怪訝そうに首を傾げたローズマリーにベッドに背を預けたエリザベートが声をかけた。
「ローズ、母はヴァンシルと話があります。しばらく外へ出てなさい。」
目覚めたばかりと聞いていたが、髪も整えた様子のいつも通りの母に、ローズマリーはわかりました、と素直に部屋を出て行った。
「そろそろ来る頃だと思っておりました。ヴァンシル。」
いつも通りのエリザベートの気高い様子に、気持ちが揺れるが、ヴァンシルはベッドの脇に立った。
「ガルシア帝国のウイルスの件は片が付きました。それで、母上、聞きたいことがあります。」
「母親が倒れたというのに、体調を伺うこともなく、何です?」
小さくため息をつくと、エリザベートは冷めた目をヴァンシルに向けた。
「あなたの侍女が、ノルン帝国の間者だとわかりました。一度は捕らえましたが逃げられました。
あなたは彼女がノルン帝国の間者だと知っていましたね?」
直接的な問いに、後ろで控えていたジュリアスとエリオットが息を飲んだ。
「カミラの事ね…。私も聞いて驚いたのよ。あの子は私が王家に輿入れした時に侍女についてくれた者でしたから、共に過ごした時間は長かったわ。信頼もしていた。ですがそれだけです。
カミラがノルン帝国と繋がっているなど、知るわけがないでしょう。」
強い瞳でヴァンシルを睨みつけるエリザベートの言葉に嘘など見えない。
「あなたは王太子、いずれ国王となるのです。判断を間違えないで。何を根拠に私を疑っているのか知らないけれど…。」
「根拠はあります。カミラは闇魔法使いでした。そして、私たちがガルシア帝国に向かう前に、母上はエリオットを呼び出しましたね。」
「それが何?母として病が蔓延する他国へ向かう息子の心配をするのは当たり前でしょう。あなたが言う事を聞かないのはわかっていたから、代わりに側近を呼んだまで。」
「ではなぜ、エリオットは母上との会話を覚えていないのですか?…エリオットを闇魔法で操作してアイシア嬢の侍女を変更しましたね。クロエに確認しましたが、あの侍女はあなたがクロエに与えたとか。新しい移動魔法があると説明もしたそうですね。」
「確かに侍女は与えました。でも、それは信頼するカミラの推薦に従ったまで。私が選んだわけではないわ。私は王妃として日々忙しくしているの。侍女の選別くらいは侍女に任せるでしょう。」
「ではなぜ、幼いルーファスを隔離し、時間をかけて毒を与え続けたのですか?」
一瞬エリザベートの体がピクリと揺れたことに、ヴァンシルは気付いた。
「いきなり何です?そんな昔の話…。あの子は魔力が制御出来ず、周りを傷つけるから、制御出来るまでは隔離していただけの事。今は健康に生きているじゃない。」
「ええ。アイシアが解毒で治療しましたからね…。」
「!!お前は…あの女の言葉を信じて母を疑うの!?」
カッと目を見開いた母の琥珀の瞳が、ヴァンシルをまっすぐに睨みつける。
「…調べました…。ルーファスは魔力量が桁外れに多いから城に常駐していた魔術師に世話を任せていたそうですね…。アイリーン姫と共に来た侍女や護衛は行方不明。顔のつぶされた死体が町の外れで見つかったそうですが、身体的特徴から、その二人で間違いないだろうとのことでした。でも、誰も声を上げなかった。当たり前ですよね。だってこの国の王妃の指示なのですから…。一人になって守ってくれる者もいない幼いルーファスには毎日魔術師が運ぶ一日2回の食事に、王妃の指示で薬を交えた食事を与えていたそうです。なぜわかったかわかりますか?その時の魔術師は口封じに殺したはずなのに…?」
無言でヴァンシルを見つめるエリザベートに、悲し気にヴァンシルは言った。
「図書館の管理人です。昔からあの塔の図書館の管理をしていた年配の管理人は、何度か魔術師に頼まれて代わりに食事を運んだことがあったそうです。その時に、説明されたと。そして、その薬の残り瓶は捨てられずに残っていたんです。研究塔で調べたところ、ガルシア帝国で広がった今回の毒に類似していたそうです。」
「…。」
「ルーファスは死ななかった。アイシアと出会った時はすでにかなり衰弱していたようですが、きっと痣が出ると毒殺が疑われるので、痣が出ないよう調整されていたのでしょう。それに魔力の強いルーファスは無意識に少しの解毒を行っていたようです。普通なら聖魔法でしか解毒は出来ないはずですが、彼は闇魔法が使える。闇魔法には毒の精製と解毒の魔法があるそうです。」
ノルン帝国の毒を、王妃であるエリザベートが使ったという事。
それ自体がノルン帝国とのつながりを意味する。
「…。私のところに来たということは、王には既に話しているの…?あの人は何て?」
「許可をくださりました。」
「そう…。」
静かになったエリザベートを、ヴァンシルは無言で見つめた。
尊敬していた。
誰よりも清廉で、正しいと思っていた。
一縷の望みをかけてヴァンシルが問う。
「エリザベート王妃、あなたは…カミラに闇魔法で洗脳されていただけですよね…?」
「…。ヴァンシル…、私に話をさせたいなら、ルーファスとアイシア嬢、二人を連れてきなさい。」
静かに発したエリザベートの言葉にヴァンシルは眉を寄せた。
「なぜ?」
「これ以上は私は何も答えません。二人を連れてきなさい。」
そういうと、エリザベートはベッドに横になった。




