アイシアの憂鬱
一室に集められた患者は。症状が出てから数日の者、1週間ほど経過した者、2週間程経過して呼吸困難の症状が出ている者、痣が下肢に発現した者、腹部辺りまで痣が発現した者、そして王妃と同じ、首まで痣が発現した者。
ガルシア帝国で常備されていたソレンタールから作られた薬を使い、ルーファスが闇魔法の解除の術式を施す。
その後、魔術師団の聖魔法士で解毒に特化したタンデムが聖魔法の解毒を重ね掛けする。
その薬を水に溶かし、彼らに与えると、痣が発現する前の者達はたちどころに完治した。
痣が発現している者は痣は薄くはなるが、二度、三度と重ねて与えると、回復していく。
首まで痣が発現している者はだけは痣は薄くなるものの、やはりアイシアやタンデムの治療が重ねて必要になる。
ガルシア帝国にも聖魔法士はいるため、帝国に捕らわれた聖魔法士達が解放され次第、ガルシア帝国に派遣することにし、基本的に薬さえ与え続けると、それ以上は進行しないため、時間稼ぎが出来ることがわかった。
「城内の者達の治療はほぼ終わりました。」
サイラス殿下の言葉にアイシアはホッとする。
良かった。
後は、砦に戻って、ヴァンシル殿下とエリオット様の水魔法で、ガルシア帝国全体に渡るよう、薬を生成してもらって、アーサー含む魔術師団の者達の風魔法で拡散すればいい。
「では、一度砦に戻り、準備をします。薬はありったけ用意してください。
また、ソレンタールの花はご用意できていますか?」
「はい。ここに。」
側近の者が花籠を差し出す。
「セラフィーヌから聞きましたが、この花の毒が使われていたのでしょうか?」
サイラスの言葉に、アイシアが首を傾ける。
「わかりません…。でも、ソレンタールの花はこの花が咲くまでは猛毒と聞きました。成長と共に自身の聖魔法の力で解毒し、聖魔法を纏ったまま花を咲かせるそうですね。
花の咲く前のものもありますか?」
「はい。触れるだけでも危険な為、結界魔法をかけたこの中に…。」
「ありがとうございます。一度王国に戻り調べさせていただきます。」
ユージィンが花籠と咲く前の毒のあるものを受け取る。
「へぇ…、紫色の綺麗な花ですね。」
似合わないユージィンの言葉に、思わずフッと笑いが漏れる。
「あ、なんだ、シア嬢ちゃん。俺が花を褒めたらダメなのか?」
「フフ、だってなんか似合わないんですもの…。」
クスクス笑うと、アーサーもブッと噴き出した。
失礼だなと言いながら、拗ねた様に頭を掻くユージィンに、サイラスもニコリと笑った。
「砦に向かうのは明日にして、今日はとりあえず休んでください。到着してから一度も休まれてないですよね。部屋を準備したのでこちらへどうぞ。」
お礼を言って、移動しようとしたところで、ザワッと声が響いた。
「サイラス。リリアーナの恩人を私にも紹介してくれ。」
威厳のある声が響き、振り向くと、護衛を引き連れたサイラスに似た男性が立っていた。
「父上…。目が覚めたのですね。」
「ああ。お前に全てを任せたままですまない…。数刻前に目覚め、慌ててリリアーナのところへ行けば、彼女は元気に回復していて、夢を見ているかと思った。聞けばフェイレイ王国より治療に足を運んで下さったと…。」
サイラスに似た赤銅色の髪には白いものが混じっているが、疲れが見える様子でありながらも強国の威厳を纏う国王は、視線をこちらに向ける。
「私は、ガルシア帝国国王、エルネスト。このような、状態の我が国に支援頂き誠に感謝致す。
情けないことに、最愛の妻が倒れた時に何も手につかなくなってしまった…。ご尽力頂いたというのに、一国の王である私が何のご対応も出来ず、申し訳なく思う。
混乱していた城内の患者が全て完治したと聞き、せめて顔を見てお礼を言いたかった。」
今は王妃の傍にはセラフィーヌがついているという。
アーサーがその場に残り、この後の対応を、細かくサイラスと打ち合わせすると言う事で、アイシア達は案内された客室で休むこととなった。
混乱中とはいえ、準備された食事は美味しく、侍女のいないアイシアにはセラフィーヌの侍女を付けてくれたため、ゆっくり休むことが出来た。
ルーファスはガルシア帝国の城内でものすごい人気だった。
フェイレイ王国では庶子の血をひく卑しい子だと言われ、不遇の幼少期を過ごしていたが、ガルシア帝国では王妃の働きかけもあり、アイリーン姫は帝国の為に身を捧げた妖精姫として、とても好意的に捉えられているようだ。
氷の様に不愛想な対応にも関わらず、美しい相貌のルーファスは歩くだけで周り女性が恍惚の表情となり羨望の的になっていた。
治療した中に、公爵がいて、その令嬢は父の命の恩人だと言ってお礼をしたいとルーファスにしつこく絡んでいた。
「確かに…ルーファス様は素敵な方だもの…。」
アイシアは一人、ベッドの上でぼんやりとしながら、いつかルーファスが誰かを妻とし、愛する未来が来るのかと想像した。
私は、ヴァンシル殿下と結婚する未来が来るかもしれない。
殿下は素晴しい方だわ。まっすぐで正義感に溢れ、優しく正しい。誰よりも尊敬できる方だわ。
王としての器を持ってらっしゃる。
そんな方が私を好きだと言ってくれた。
それはとても幸運な事だわ。殿下を支えたい。そう思う気持ちは本物だわ…。
共にいればいつか恋に落ちるかもしれない。
いつか彼が誰かを愛し、幸せになるのを見届けたら…。
ルーファスに頬を染めて可愛く笑っていたあの令嬢…
いつか同じように誰かに笑い返す彼を見る日が来るのだろうか…。
アイシアは心臓がギュウッと掴まれた様に息苦しくなった。
「私って性格悪かったのね…。」
ため息とともに呟いた声は夜の闇に溶けた…




