騎士ユージィンの妄想
ユージィンの乗る馬は、体の大きさにあった大きい黒毛の馬だ。
賢くいう事をよく聞く可愛い愛馬だが、今はすごぶる機嫌がわるいようだ。
「悪いな、バージ。この男が気に食わないのか?」
馬を走らせながら、バージを撫でる。
ブルル…と鳴きながらも、気に入らなさそうに少し乱雑な走りで進んいく。
アーサーに拘束器具で縛られて身動きできない、気絶したこの男は、聖魔法士の誘拐事件の犯人であり、ノルン帝国の王弟だという。
どれだけ強く攻撃を入れられたのか、ピクリとも動かない。
荷物のように運びながら、無事に戻ってきたアイシアの言葉を思い出した。
とりあえず無事に戻ってきたし、ガルシア帝国へ急ぎましょうって…。
とりあえず…って。
クク…。あのお嬢ちゃんは昔から本当に変わらない。
自分のやるべきことや、やりたいこと、興味のあるものを見つけると周りが見えなくなるほど邁進する。
自分が誘拐されて殺されかけたというのに、ちょっと散歩してましたみたいな何事もなかったようなノリで…。
アーサーも規格外の男だが、その男が育てるとああなるのか。
顔は亡くなった母親に似て大層美しいのに、性格はまっすぐで豪胆だ。
俺にとってもシア嬢ちゃんは可愛い妹のような存在で、何かあってはいけないと思い、
マグノリア教会へも、女性の一番信頼出来る部下を送り込んだが…。
まぁ、これ以上ないほどに、心底惚れて帰ってきた…。
妬けるほどに…。
もともとエレナはシア嬢ちゃんを尊敬していた。
いつか護衛出来ればと言っていたから、その願いをかなえる意味でも彼女に決めたのだが、専属の護衛になりたいなどと言うほど、報告という名の、のろけ話を聞かされた…。
まぁ…嬉しそうに話すエレナも可愛かったけれど…。
いや。
それは良しとして…。
シア嬢ちゃんが誘拐された時の、ルーの剣幕…。
思い出すだけでブルッと震える。
初めて逢った時は、どこか全てを諦めたような静かな感情のない目をしていたが、シア嬢ちゃんが傍にいる時だけは違う。
人と関わることなく育った孤独な少年が助けてくれた少女に恋をする。
ありきたりだがそれは仕方ないだろう。
なんといってもシア嬢ちゃんは可愛いし、性格も素直で優しく、そして明るい。
あんな根暗でひねくれた精神のルーには眩しさマックスだ。
ちょっと面倒な父親がいるが、あれほどの魔法の才に恵まれたルーなら、むしろそれはプラスだ。
不器用さが可愛くもある弟の様なルーが、あの時、信じられない程の集中力で、闇の空間魔法の解術を凄まじい速さでやってのけた時は、正直恐怖を覚えたくらいだ。
アーサーでさえ、ビックリしてたくらいだし、空間魔法の解術なんて、出来るようなもんでもないんだろう…。
ルーにとってシア嬢ちゃんがどれほど大事なのか…
きっとルーは命でさえ投げ出すんじゃないかと思うほど、いつでもどこにいても意識はシア嬢ちゃんに向いている。
兄貴分としては可愛い弟の恋を応援したいところだが、王太子殿下も相当シア嬢ちゃんを好きだよな…。
ルーの氷の様な剣幕と違って、冷静で理知的に見えるのに隠しきれない程の焦りがにじみ出ていたしな。
これから先、どうなることやら…だな。
「ユージィン副団長。」
隣で馬を走らせていた騎士団の部下が、しばらくこちらを見ていたが、声をかけてきた。
「なんだ?」
「気持ち悪いっす。」
「は?」
「ずっとニャニヤしたり、急に真面目な顔になったり、なんか気持ち悪いっす。」
「…出てたか…、顔に…。」
「そうっすね…。副団長、すぐに顔に出るんで、気を付けた方がいいっすよ。顔に似合わず、ロマンチストだし。」
「顔に似合わずってなんだ!?」
思わず声を上げた瞬間、縛り上げた男が目を開いた。
「あ、起きた。」
部下の声とユージィンの声が重なった。




