解術
来てくれた…。
アイシアはホッとして。ルーファスの方へ足を踏み出すと、周りの男たちがアイシアへ剣を向けた。
「う、動くな!!」
アイシアの真後ろにいた男が一歩近づきアイシアの背中に剣先を近づけた。
「王弟陛下に触れるな。さもなくば、この女を殺す。」
男が叫んだ瞬間、アイシアの後ろで男が倒れる音がした。
「…え…?」
アイシアが振り返ると。男が泡を吹いて倒れている。
「僕が傍にいて、シアに何か出来るわけないだろう…。」
冷たく呟くと、ルーファスはそのまま呪文を唱えると、周りにいた男たちに火が付いた。
青白い炎は静かに男たちの肌を焼いていく。
「グアァァ!!あ、熱いっ!!」
悲鳴を上げる男たちに静かに冷たい目を向けるルーファスの後ろから、ゴーレムの拘束を終えたアーサーが、呆れたように声をかける。
「ルーファス様、これ以上は聞き取りできなくなります。お控えください。」
返事もなく、フンと、小さく息を吐くと、皮膚が焼けただれる一歩前まで焼いてから、火を消した。
地面でのたうちまわっている男達を避けるようにアイシアはルーファスの元へ走った。
「ルーファス様!」
笑顔でルーファスへ駆け寄ると、困ったように顔をくしゃりとして優しく笑った。
「シア…。遅くなってごめん。ゴーレムのやつ、ものすごい数のゲートを開いていたから、探すのに手間取った…。シアが光魔法で合図してくれただろう?このゲートから光を感じて向かうことが出来た。」
アイシアの頬に手を滑らせながら、怪我がないか、確かめるように触れる。
「闇魔法で作られたゲートは、作った本人しか通れないのではなかったのですか?」
「ああ…。そうなんだけど、ゲートも魔法の組み合わせで練り作られたものだから、解術出来れば使うこともできるかなって……。シア、額、少し切れてる。どいつにやられた?」
「解術出来たのですか!?」
「シア、こいつ?」
近くにいたうめく男の頭を左足で蹴る。
「ルーファス様、どうやって?解術って、闇魔法の属性ないと解術出来ませんか?私も出来ます?」
「ルーファス様!シア!落ち着きなさい。」
はぁ…とため息をつきながら、アーサーが声を上げる。
「あ…、お父様…。」
つい話が気になってその存在を忘れていたことに、アイシアは恥ずかしそうにする。
「ルーファス様も死んでしまうので蹴るのはやめてください。
シア、無事でよかった。話を聞けるかい?」
「あ…はい…。」
簡潔にアイシアはこれまでの事を説明すると、アーサーは難しい顔を見せた。
「クロエ嬢か…。王妃は何を考えているのだ…。まさか本当にこの国を売ったというのか…?」
「…わかりません…。でも、クロエ様は王妃の話を真に受けて、私が聖魔法士の事件に関わっていると思っていました。ヴァンシル殿下の為に邪魔な私を殺すつもりだったようです。」
「とにかく戻ろう。シア、ジョゼット侯爵、この男たちは拘束してこのままここに置いておこう。騎士団へ回収に来るよう手紙を送ってください。ゴーレムはこのまま連れて行く。目が覚めたら話を聞かないといけない。」
「闇魔法でまた人を操ったりしないでしょうか?」
アイシアが不安そうに呟くと、アーサーがニヤリと笑う。
「大丈夫だ。魔封じの拘束器具を付けた。」
さすが準備が良い…。
感心していると、フワッと浮遊感に襲われた。
ルーファスがアイシアを抱き上げたのだ。
「侯爵はゴーレムを。移動します。」
短く言うと、一瞬で空間に飲み込まれた。
光を感じて目を開けると、そこは、連れ去られた小屋の中で、目の前にはヴァンシルがいた。
「アイシア嬢!!」
アイシアを見た瞬間、焦ったように走りよると、顔を覗き込む。
「大丈夫か?怪我はないか?」
「はい。ルーファス様とお父様が来てくれたので…。」
安心させるように笑うと、ホウッと長く息を吐いた。
「よかった…。生きた心地がしなかったぞ。すまん。今回の事、私の落ち度だ。」
「いえっ!!私が…。私が闇魔法で操られたことが原因です…。
誠に申し訳ございませんでした。」
エリオットが必死に頭を下げている。
「あの…、とりあえず、無事に戻ってこれたので、ガルシア帝国へ急ぎましょう?」
アイシアが何でもないように言うと、周りにいた騎士たちも目を見開いた。
「ハハッ。シア嬢ちゃんは相変わらずだな。反省は後!とにかく急ぎましょう。」
ユージィン様の笑い声で場が和むと、急いでガルシア帝国への移動を始める。
話を聞くからと、一旦はルーファス様も一緒に馬車に乗ることになった。
ゴーレムはユージィンが馬に一緒に乗せている。
アイシアの顔を見ると、セラフィーヌ王女は涙を流した。
「ご無事でよかった…。」
「心配かけてしまい申し訳ございません。少し遅れてしまったので急ぎましょう。」
「クロエが…?」
ヴァンシル殿下は話を聞くと愕然としている。
ヘリオット公爵家の令嬢が、侯爵家の令嬢を誘拐し、殺そうとしたのだ。
それも協定を結んだ帝国への支援を妨害するようなやり方で。
「…戻ったら事実確認と処分を考えなければな…。それに…母上…王妃も関わっていたか…。」
冷静な顔をしていたが、ヴァンシルの頭の中はすさまじく混乱していた。
城の中で闇魔法にかけられ操られたエリオット。
王妃の甘言で罪を犯したクロエ。
この国にはない闇魔法の移動を誘拐に使用しているあたり、他国と関わっていたと疑われても仕方ない。
国家の危機を王妃自ら誘導するとは…。
これはさすがに看過出来ない。
城に残したジークフリートからはまだ、闇魔法使いの捜索の報告は来ていない。
城を出てからまだ数時間しかたっていないが…。
「ルーファス様、あのゲートは、いつ解術したのですか?」
「シアが連れ去られてから…だが、マグノリア教会でゲートを見た時から、解術出来そうだなと考えていたんだ。シアがいなくなってからはシアの痕跡をたどって必死だったから思ったよりも早く解術出来た。ゲートは色んな場所につながっているようで、ゴーレムが使用できないように、出来るだけ二度と使えないように細工はしてきたが、全部は出来ていない…。」
「この短い時間でそんなことが出来たの…?すごいわ、ルーファス様。」
やっぱりルーファス様は天才だわ…。
キラキラと目を輝かせてルーファスを見つめるアイシアにエリオットは唖然としている。
「アイシア嬢は…本当に魔法がお好きなのですね…。」
「ええ。だって、魔法は研究すればもっとたくさんの人たちの助けになる。もっとたくさんの素晴らしいことが出来るようになるのだもの。とくにルーファス様は魔力もキラキラ綺麗で、本当に素晴らしいんです。」
ニコニコと笑うアイシアにヴァンシルは優しい笑顔を向けた。
「あなたのその明るい笑顔を見ると、なんだか気が抜けるよ…。して、ルーファス、ゴーレムからは話は聞けたのか?」
「いえ、一言も話す前にねじ倒してしまったので…。」
「あの…私、ゴーレムと話しました。セラフィーヌ王女にも関わることなので、聞いて下さい。お話します。」
アイシアはゴーレムと話した内容を詳しく話した。




