逃亡
ゆっくり近づいてくる男たちはそれぞれが剣やナイフを持っている。
「こんな美人を好きにしていいなんてな。」
ニヤニヤと下品に笑うその表情に悪寒が知る。
「まだ少女だ。まっさらの女を調教するのも楽しそうだな…。」
男は4名。
アイシアは素早く観察する。
シュカもミリーもそれほど魔力は持っていなかった。
だから油断してしまった。
この男たちは一人は魔力がそこそこ…
それ以外は全く魔力がないものと、わずかの魔力持ちだけ。
魔力のある男は一番後ろで観察するようにこちらの様子を見ている。
警戒すべきはこの男ね…。
魔力のないナイフを持った男がそのナイフをアイシアの顔に近づけた瞬間、アイシアは縛られたふりをしていた手を前に翳すと、魔法を使った。
眩しい光が部屋全体を包み、そこにいた者は皆、その眩しさに目を眩ませた。
「ウワッ、なんだ、眩しいっ!!目が…!!」
アイシアの使える魔法は聖魔法。攻撃には特化していないため、使える種類が少ない。
だた、強い光をあてただけだけど、逃げることが出来た!
アイシアは皆が目を覆っている間に素早くドアから外に出ると、近くの階段を駆け上がった。
とにかく外へ!!
階段の上には扉がある。
外にはきっと護衛がいるはずっ!
あぁ、剣でも習っていればよかった。
でもルーファス様がいつも危ないから触るなというから…
ルーファス様…
きっと心配してる…
走りながらアイシアは身につけているルーファスに貰った竜の魔石を思う。
大丈夫。
ルーファス様はきっと私のいる場所に気付いてくれる。
それまで私はただ、無事でいたらいいのだ。
階段を上り切り、扉に手をあて、思いっきり強く押した。
後ろから視界が戻った男たちが追いかけてくる。
「逃がさないで!!あの女が逃げたらお前たちも終わりよ!!」
クロエの叫ぶような声が聞こえる。
扉が開かない!!
カギはない。こちらにないだけで向こうからはカギがかかっているの?!
「舐めた真似してくれたな…。どうやって拘束を解いた?」
もう逃げられないとわかったのか、男たちが追い詰めるようにゆっくりと足を進めてくる。
「あのお嬢様が私の為にカップの破片をくれたからかしら。」
ニッコリと笑う。
怯えているなんて思わせてはいけない。
背中に扉をつけたままアイシアは素早く周りを観察する。
出口はここしかない。
あるのは換気用の小さな窓だけ…
窓…
出ることは出来ない小さな窓だけど、合図を送るくらいは出来るかも…
近くにいてくれたら…だけど…。
「おい、お前、この女を動けないよう、魔法かけろ!」
先頭の男が魔法を使える男に指示を出す。
男は言われるがままにアイシアに向かって手を翳し呪文を唱えた。
みるみる間に空気が練り上げられて見えない縄の様な魔力の塊がアイシアに向かってくる。
アイシアに触れる瞬間、バチンをはじけた。
「え…?」
「は…??」
アイシアの前で魔法が弾かれるように消えたのを笑った口の形のまま、男が呆然とする。
魔法はルーファス様の保護魔法が効いてるわ。
物理攻撃はアメジストの宝石がついたネックレスには付与されていた。
きっと今回の魔石にも付与されているはずだ。
魔石が割れない限りはきっと攻撃は回避できる。
今のうちに…
アイシアは換気用の窓に向かって先ほどと同じ光魔法を勢いよく飛ばした。
光の塊はそのまま窓から外に飛び出すと高く高く上がってはじけた。
お願い、誰か気付いて。
「クソッ。なんで魔法が効かないんだ?」
魔法を跳ね返された男が呆然としている。
この男たちは一般的な騎士などではなく、平民のゴロツキだろう。
私の為だけに雇った男たちだ。
だから、魔法は知っていても保護魔法や付与された魔石の知識などないのだろう。
「妙な魔法を使いやがる。だったらこれはどうだ?!」
持っていたナイフを振り上げ、男が飛び掛かってくる。
きっと防いでくれると信じていても恐怖で足がすくむ。
アイシアは振り上げられたナイフを防ぐように両手で頭を覆う。
「ウワッ!!」
弾かれた衝撃で階段から男が落ちていく。
落ちてきた男を避けた後ろの男たちが怯えたような顔を向ける。
「私には何も効かないわよ。」
微笑みながら、下を見下ろす。
うまく笑えているといいい…。
手が震えるが、必死でアイシアは体に力を入れた。
せめて魔法を回避するシールドだけはと自分にかける。
「な…何をしているの!?早く行きなさいよ!!」
クロエが後ろから怒鳴るように声を上げた。
「でも…この女…。」
「大方、付与された魔石でも身につけているのよ!何度も攻撃すればいずれ効くわ!早くやって!!」
その言葉を聞くと、再度男たちが向かってくる。
アイシアは何とか扉を開けようと、ドアを叩くが、しっかりとはめこまれているのか、少しも動く気配がない。
ダメだわ…。ここしか出口がないのに…。
いえ、地下室があるところは、何かあった時の逃げ道に作られていることが多いはず。
だったら外に出る出口もあるはずだわ!!
この地下室に部屋は3つ。
アイシアが閉じ込められていた部屋と、奥にもう2つ。
私がいた部屋には他に扉はなかった。
いえ、どちらかは部屋でもう一つが出口へつながる可能性がある。
まずはこの階段へ向かってくるこの男たちをかわして奥へ向かわないと。
アイシアはドレスの裾を思い切り引き裂くとギュッと結んだ。
ヒューと下品な笑い方で男たちが口笛を吹いた。
動きが止まった瞬間を狙って、アイシアは飛んだ。
もちろん男の方に向かって。
「グエッ!!」
「ウワッ!」
ニヤニヤ顔から一転して目を見開いた男たちの顔めがけて両足を揃えて飛び降りると、そのまま男たちが連なって階段から転げ落ちていく。
滑るようにアイシアは落ちると、急いで男の上から跳ね退いた。
クロエが目を丸くしたまま見つめている横を通り過ぎ、奥の扉に走ると、そのまま勢いよく開く。
カギはかかっていなかったようで難なく開いた扉の前には長い階段が続いていた。
やっぱり!!
「ま、待ちなさいよ!!あなた達、捕まえて!!」
シュカとミレーの背中を押して、クロエが声を上げる。
慌てた様に追ってくる3人から必死で逃げると、階段を駆け上がった先の明るい光の漏れた木のドアに体当たりした。
そこは木々の茂る森の中にある小屋の中だった。
地下室から外の小屋につながっているという事…。
早く逃げなきゃ。
アイシアが、木の扉を塞ぐように、近くにあった木のテーブルを押して移動する。
扉の向こうからドンドンと叩きながら開けなさい!と怒鳴る声がする。
誰が開けるものですか…。
とにかく私は早くガルシア帝国へ行かないといけないのに…!
きっとセラフィーヌ王女が不安になっているはずだわ…。
小屋から出ると、そのまま森の中へ入る。小屋の向こうに見える屋敷からは離れないと。
必死で何度も転びながら走っていると、目の前に黒い空間が浮かび上がった。
その空間から人がゆっくり出てきた。
「またお会いしましたね…。アイシア様。」
「ゴーレム…!!」




