優しい時間
結局、その日は再度集められることはなく、一旦は城の用意された部屋で一晩泊まることになった。
アイシアは帰りたいと伝えたが、ヴァンシルが認めなかった。
城の中の方が守りやすいというのが理由だが、ルーファス様の”城の中に闇魔法使いがいる”という言葉が気になる。
夕食は各自、部屋でとることになった。
アイシアが食事を終えた頃、部屋にルーファスが訪れた。
「ごめん、まだ食事中だった?」
「いえ、ちょうど食べ終えてアンの入れたお茶を飲んでいたところです。」
アンが手早くルーファスの分もお茶を用意すると、ルーファスは落ち着かなげに向かいの椅子に座る。
「アンがね、私の好きなお店のクッキーを持ってきてくれたんです。今日のお茶は、ルーファス様の好きな果物の香りのお茶だから、大丈夫ですよ。」
ルーファスの落ち着かない様子に、アンのお茶の中身が気になるのかと、クスクス笑って思わず伝えると、ルーファスはアイシアを見つめフワッと笑うと紅茶に口を付けた。
優しい笑顔…。
皆と話している時に感じる壁のようなものが、私の前ではなくなる。
安心したように、心を丸ごと預けてくれてるような…そんな緩む瞬間の表情に、胸がギュッとなる。
「さっき、侯爵が戻られたよ。今日は遅いから難しいけど、とても心配していたから、また顔を見せてあげて。
今はモルディール公爵に報告に行ってるようだ。」
「お父様が?なんだか久しぶりな気がするわ。小さい時はもっと長く離れていたこともあったのに…。
お父様は一度屋敷に戻るかしら?」
アイシアの言葉に、頷くと、「シア。」と、まっすぐにこちらを見つめた。
「シアは、ガルシア帝国に行くって言うと思ってた。自分の危険も考えずに…。」
真剣な表情のルーファスに、どこか不機嫌さを感じて、そっと伺うように見上げた。
「怒ってる…?」
その言葉に小さく息を吐くと、怒ってないよと答えた。
「ただ、もう少し、自分を大切にして欲しいなと思ってるだけ。
でも、わかってたからいい。僕が傍にいて守るし。だからシアは自分の思うようにしていいよ。」
カップの残りのお茶をグイッと飲み干すと、困ったような落ち込んだ顔のアイシアにフッと笑う。
「兄上から…なんか言われた…?」
「…え…?どうして…。」
「…。」
「うん…この件が片付いたら、正式に婚約を申し込むって…。」
「…そうか…。兄上は、素晴らしい王太子だ。シアを幸せにしてくれるだろう…。」
「…そう…ですよね…。」
沈黙になり、物思いに更けているルーファスに、アイシアは明るい声を出した。
「ルーファス様、久しぶりに魔法…かけます。」
「え?」
ハッと顔を上げたルーファスにアイシアは立ち上がり、目の前まで移動すると、ニッコリと笑う。
そっとルーファスの顔を抱きしめると癒しの魔法をかけた。
「ルーファス様、色々ありがとうございます。いつも私を助けてくれる。でも、ルーファス様が疲れたら私がいつでも魔法をかけます。」
ふんわり抱きしめたままのアイシアに、ルーファスはその細い腰に腕を伸ばすとギュッと抱きしめ返した。
「…ああ…、頼りにしてる…。だから、ちゃんと守られてて…。」
小さなつぶやきはアイシアの胸に優しく響いた。
「魔法の花?」
再度アンの入れたお茶のおかわりを飲みながら、ルーファス様が顔を上げた。
「はい、ガルシア帝国にも咲いているそうで、ちょっと調べてみたいんです。」
アイシアの話を、ルーファスは黙ったまま聞いていた。
そしてしばらく考えると、わかった。と、答えた。
「アイシアの考えは…概ね正しいと思う。それが確認出来たら、解決方法がある。ガルシア帝国にも聞かないとわからないが、うまくいくかもしれない…。」
「本当ですか?」
「ああ。そのためには、侯爵の魔法と、兄上、シアと僕が必要だ。でもまずは確認してからだな…。」
口元に手をあてたまま、思考を巡らせるように真剣な表情で方法を口にするルーファスの言葉に、アイシアは希望を感じた。




