エリオットへの違和感
「つまり、回復の魔法が効かないように、闇魔法で包まれている毒、という解釈であっていますか?」
ジュリアスの言葉に、ルーファスが頷いた。
「聖魔法士の誘拐事件に関与していた辺境の自警団の者達は、闇魔法によって精神を操られていた。解除するにはかけたものか、それ以上の強い闇魔法による解術、または高魔力の聖魔法による浄化魔法しか方法がなかった。今回、治癒魔法が効かなかったこと、発症した者が吐いた血液を、皮膚から摂取した者が発症することを考えると、病気ではなく、毒で間違いないでしょう…。」
「そんな…。では、聖魔法士達は何のために誘拐されたのだ?回復出来ないなら、誘拐する必要はないだろう。」
ヴァンシルの疑問に、アイシアは考えるように俯いて口元にその細い指をあてた。
「おそらく、試すためでしょう…。」
「試す?」
アイシアは顔をあげると、その瞳に強い光を湛えて、ヴァンシルを見やった。
「はい。聖魔法士は個々の力によって出来ることは様々です。解毒を得意とする者。怪我の治療に長けたもの。治癒魔法においても同じです。その個々の力の強さによって回復力も変わります。おそらく、どこまでの治癒魔法が効かないのか、またはどこからが効くのかを試すために、そしてこの国の聖魔法士の力を確認するために攫ったのではないでしょうか…。
今回、私はマグノリア教会で、私の聖魔法の力を闇魔法使いに見られ、殺されそうになりました。それは、きっと、私の力は危険だと判断されたのだと思います。」
「つまり、アイシア嬢の聖魔法の力があれば、この”謎のウィルス”は回復されるであろう…と?」
アイシアは頷く。
「確かに…。実際、アイシア嬢程の力を持った聖魔法士はこの国にはいない。だからこそ神父は完治出来た。もし、このウイルス…いや、闇魔法で覆われた毒を作った者がアイシア嬢の力をみれば危険と判断するでしょうね。」
ジュリアスが納得するようにつぶやく。
その時、ルーファスが睨むように冷たい瞳でヴァンシルを見つめた。
「今回、アイシアにマグノリア教会へ行くよう命じたのは王妃だ。ノルン帝国との国交の話も考えると今回の件に、王妃が関わっている可能性が高いのでは?」
その言葉に、まさかという様に、ジークフリートが声を上げた。
「この国の医療を考え、聖魔法士を保護し、環境を整えた立役者が王妃ですぞ。そんな、この国にも危険が及ぶような真似、なさるはずがない。」
「そうだ。母上は聖魔法士の重要性をわかったうえで、この法をまとめ上げたのだ。そんな馬鹿なことをするはずが…。」
「ではなぜ、誘拐した者は、聖魔法士の所在地がわかったのでしょう?
この国の聖魔法士のリストは国家機密でしょう。どこから漏れたとお思いですか?まさか、兄上は親子の情を優先して、真実を有耶無耶になさるおつもりですか?」
挑戦的な顔でヴァンシルを睨みつけるルーファスに、エリオットが激高するように声を上げた。
「王太子であるヴァンシル殿下になんて口の利き方だ!王子としての責務を放棄し、好き放題、無責任に生きてるあなたには、高貴な方のお心は理解できないと見える。そもそも、闇魔法使いが関わっているというなら、あなたも容疑者の一人ではないのかっ!」
その言葉に、ルーファスが皮肉気に口元を歪めた。
「僕が?いったい何のために?」
「控えろ、エリオット。ルーファスは私の弟で第二王子だ。不敬だぞ!」
ヴァンシルの声にエリオットは口を閉じた。
「皆さん、落ち着いて下さい。今はそんなこと話してる場合ではないでしょう。確かに、今回、王妃殿下の指示で、アイシア嬢がマグノリア教会へ行き、危険な目に遭ったのは事実です。ですが、それだけです。それよりもわかっていることをまず確認しましょう。」
ジュリアスの言葉に、ガルシア帝国の使者たちも切実な表情を浮かべ、頷いた。
「そうですね…。間違いなく言えることは、これは”治る”という事です。セラフィーヌ王女殿下、ガルシア帝国の王妃殿下は、きっと回復されます。」
アイシアが安心させるように、セラフィーヌ王女に笑いかける。
途端に、セラフィーヌ王女の瞳に涙の膜が張る。
「…はい…!ありがとうございます…!!アイシア様、母を治してくださいますか?」
「もちろんです。」
力強く頷くアイシアに、ルーファスはため息をついた。
シアは…頼まれなくても、そうするだろうとわかっていた。
だが、危険であることは間違いない。
シアがガルシア帝国に行って王妃を回復できても、患者はどんどん増えるのだ。
どれほど患者を隔離しようと、それをバラまいているだろう根本をつぶさない事には解決しない。
それに、たった一人、治療するのに、シア程の魔力量を持つものが、魔力枯渇を起したのだ。
「では、僕も一緒に行く。」
ルーファスが当たり前のように言うと、アイシアがルーファスをじっと見つめた。
ルーファスの瞳に迷いはなく、静かな光を放っている。
しばらく黙ったまま見つめあっていると、エリオットが声を荒げた。
「何を…!容疑者でもあるあなたが行けばますます帝国が混乱するでしょう!もしや、ルーファス殿下はガルシア帝国を手に入れるために、今回のようなことを…。その可能性もあるのでは?」
「いいかげんにしろ、エリオット!」
ヴァンシルはエリオットを睨みつける。
ふと、ルーファスはエリオットからアイシアに視線を移した。
アイシアがエリオットを怪訝な顔で見つめている。
その表情はエリオットのその言葉にではなく…違うところを見ている…?
「シア…?どうした?」
小さくアイシアにだけ聞こえる声で声をかけると、アイシアはゆっくりと、口を開いた。
「エリオット様、あなたは…、あなたには闇魔法がかけられています…。」
「…は……?」
その言葉にエリオットがポカンとアイシアを見た。




