セラフィーヌ王女
セラフィーヌは強国、ガルシア帝国の長女として生まれた。
父王は、代々のガルシア帝国の王とは少し異質な、戦を好まない穏やかな王で、妻である王妃をとても愛して大切にしている。
そのお母さまが倒れてから、何もかも変わってしまった。
父である王は、最愛の妻が倒れて憔悴し、王太子である兄が父に代わって政務を取り仕切ることになった。
王妃である母はとても優しくて、民を思い慕われる王妃で、父はそんな母を溺愛していた。
前国王が女性が好きで、数多の令嬢や気に入った侍女を寝所に引き込み、子をもうけたことにより、後継者争いが激しかったそうだ。
父は正妻の子ではあったが、王の子としては3番目で、側妃が生んだ第一王子と、別の側妃が生んだ第二王子、ほかに侍女が生んだ王女が1人。正妻には父と妹王女がいた。
祖父の子は全員で5人だったが、ウイルスが蔓延した時に長男と次男が立て続けに亡くなったことにより、王太子となった。
ウイルスで第一王子、第二王子が亡くなるまでは誰を次代の王にするかと、激しい後継者争いがあったそうで、そのことを教訓に、父は当時侯爵家の令嬢であり、幼馴染でもあった母一人を唯一の妻として迎え、誰よりも大切にしていた。
私はそんな二人の長女として生まれた。
私には王太子である兄が1人、そして下に妹が1人いる。
帝国の西の辺境の村から、以前、帝国を壊滅の危機に陥らせた謎のウイルスが拡がった。
前回ことを踏まえて準備していた薬は全く効果を出すことがなく、瞬く間に村全体へと広がった。
吐血した血液に触れたものは皆、同じように発症し、村で発症した患者すべての人が亡くなった頃、王都の孤児院を併設した教会を訪れていた母が吐血した人の血液に触れてしまった。
辺境から離れていた他の村でも患者が現れ、状況を確認している最中に帝国中に拡がった。
そのうち母が発症し、高熱と呼吸不全で寝たきりになってしまった。
心配でおかしくなりそうな父は母の傍から離れられず、王太子である兄が奔走することとなった。
日に日に弱っていく母に、不安と、父まで感染したらという恐怖で、いてもたってもいられず、礼を欠くとはわかってはいたが、フェイレイ王国まで聖魔法士の派遣をお願いしようと急いで向かった。
到着してもフェイレイ王国の王は他国との会合で会えず、エリザベート王妃は礼を欠いた訪問に激怒し、案内された応接室で放置された。
途方に暮れていたところ、王太子の側近である、モルディール公爵家の嫡男であるジュリアス様が、宰相補佐官と共に、話を聞きに来てくれて、間もなく戻る王太子であるヴァンシル王子に会う時間を作ってくれた。
遠方から戻ったその足で会って下さったヴァンシル王子は、とても真摯に話を聞いて下さった。
そこで、聖魔法士が攫われるという事件が発生していて、聖魔法の遣い手が不足していること、また、似た症状の患者がこの国にも見つかり、強い聖魔法士の回復魔法が効かなかった事を聞いて、目の前が真っ暗になった。
その後、王城に客室を準備され、数日で戻る第二王子を待ってから、再度話し合いとなった。
母国の様子や、母の容態も気になる中不安でいっぱいの私に、とても優しく寄り添ってくれるヴァンシル王子に、急速に惹かれていくのを止められなかった。
以前、親交パーティでお会いした時から素敵な方だと思っていたのに、これほど弱っている時に、優しく寄り添われると、どうしても思いを止めることなど出来なかった。
その後ほどなくして、第二王子が戻ったと聞き、急遽、応接室へ通された。
祖父が侍女に産ませた王女は隣国のフェイレイ王国に側妃として嫁いで王子を産んで亡くなったと聞いていたが、その子供が、目の前に現れた、月の光の様な銀髪に深いアメジストの瞳をしたとても美しいルーファス第二王子だった。
私にとっては従兄にあたるのだが、お会いしたのは初めてだった。
城に飾られた肖像画のアイリーン姫とよく似た面差しで、
ヴァンシル王子とは違い、ニコリとも笑わず、少し冷たい印象を持った。
そして母と同じ症状であろう患者を完治させたという令嬢の話が出た。
その令嬢の話をしている時の二人の王子の様子が明らかに変わった。
一体、どのような方なのだろう。
母を治すことが出来るかもしれない。
心に希望が灯った時、その令嬢が入室した。
瞬間、ヴァンシル王子がすぐに立ち上がり、扉まで迎えに出たのだ。
ルーファス第二王子が出て行った時も、追う事さえしなかったのに、その令嬢の声がした途端、急に態度が変わった。
ルーファス第二王子と共に入室した令嬢は、淡い金髪にハッとするほど美しい、エメラルドの宝石のような瞳を持つ、小柄なとてつもない美少女で、一瞬でヴァンシル王子がその令嬢を特別に思っていることがわかった。
挨拶を交わすと、丁寧に頭を下げ、親しみのある笑顔でアイシアと名乗った少女は、大事そうにヴァンシル王子に促され、その隣に座った。
母を治せるかもしない力を持ち、明らかにヴァンシル王子に大切に思われているであろうその少女に、何とも言えない気持ちになる。
さっきまで冷たい印象しかなかった第二王子も、彼女にむける瞳には気遣いのようなものが滲んでいる。
「さて、改めて、顔を揃えたところで今後の話をしよう。」
ヴァンシル王子の言葉に、皆がアイシア嬢を見つめた。
「では、私から、神父様の病についてお話します。」
強い光を放つその瞳をまっすぐにヴァンシル王子に向けると、王子が頷く。
「エリオットに気付いたことがあると言っていたことだね。聞こう。」
それからアイシア嬢の話は衝撃の内容だった。
母を、ガルシア帝国を今、苦しめているウィルスは、人為的に作られたものだろうと聞いていたが、まさか、毒だとは思わなかった…。




