ウイルスの正体
「毒?」
ルーファスの言葉に、アイシアは神妙に頷いた。
「私の聖魔法は普段は制限があります。病に対しては、抵抗力がなくならないよう、法でここまでは癒してよいと、上限があるのです。マグノリア教会で神父様を診た時は、その制限ギリギリまでの聖魔法を使いました。でも、まるで回復しなかった。
先ほども同じように聖魔法で病を癒す魔法をかけましたが、前回と同じだったので、浄化魔法をかけたのです。」
「浄化魔法…。負の闇魔法というのは、呪いのような闇魔法がかかっていたという事か?」
ルーファスが辺境で精神に関与する魔法をかけられた男たちを思い出す。
ある言葉で発症するような、闇魔法がかけられていた。
聖魔法が効かないという闇魔法がかけられていたということか…?
「おそらく…。まず、浄化魔法を最大限までかけると、神父様の濁った魔力が本来の
色に戻りました。そのあと、癒しの魔法をかけましたが、痣は消えなかったため、解毒の魔法をかけました。すると痣が消えて呼吸が通常に戻り、そのあともう一度、癒しの魔法で衰弱した体を癒したら、回復しました。」
「闇魔法の効果を消すには、同じ闇魔法で、かけたものより強い力で消すか、闇を払うほどの
大きな聖魔法で浄化するしか方法がない…。辺境で僕が解いた闇魔法は、相当な使い手がかけたものだったから、解術に僕でも少し時間がかかった。属性の違う聖魔法の浄化なら、相当な魔力が必要だったはず…。それで魔力枯渇したのか…。」
納得するようにルーファスはため息をついた。
それにしても無理をしすぎだ。自分のことなどすぐに後にまわしてしまう…。
これでガルシア帝国などに行ったら、きっとアイシアは一人一人を見捨てられず、すぐに魔力を使い果たして命にかかわる可能性がある…。
どうしたものか…。
それより、このウイルス…人為的に作られたであろうこの”闇魔法のかかった毒”をなんとかするのが先だな。
いくら癒しても増えれば際限がない。
シアはきっと断らない。断れない。
シアには危険なことなどさせたくない。何があっても…。
でも、シアは絶対に誰も見捨てられない。助けないという選択肢を選ばない。
それなら、僕が何とかするしかない。
「ルーファス様、ヴァンシル殿下に会えますか?このことを早くお伝えしようと思います。」
「…わかった…。動けるか?」
「はい、大丈夫です。」
フワリと笑顔を見せたアイシアに胸がぎゅっとなる。
会わせたくない…。
兄上は…心からシアを思っている。
今までは婚約者候補だった。
ただの候補でいつか解消するものだと思っていたからまだ、我慢出来た。
でも、きっとこれからは…。
「ルーファス様?」
心配そうに見上げるアイシアの澄んだエメラルドの瞳に小さく笑みを返すと柔らかな淡い金髪の髪を整える。
初めて逢った時は、僕の方が小さかった。
少し見上げたその愛らしい顔は、今はずっと低い位置にある。
令嬢の中でも小柄な方で、華奢なのに、なぜか弱々しい印象を感じさせない。
アイシアは光だ。
この光を、何があっても守り続ける。
たとえ、兄上の傍にあったとしても…。
応接室に戻ると、ジュリアスを押しのけてヴァンシルが出て迎えた。
「アイシア嬢、よかった…。倒れたと聞いて心配した。」
ホッとしたように優しく笑うと、アイシアの頬をそっと撫でる。
「ご心配おかけして申しわけございません。ルーファス様が魔力を分けて下さったんです。
もう、大丈夫です。」
ニッコリと見上げる血色の戻ったアイシアの顔に、横に控えていたエリオットもホッとしたように息を吐いた。
「殿下、ほら、ジョゼット侯爵令嬢を座らせてあげてくださいよ。」
急に甘くなったヴァンシルの様子に、驚いたように見つめているガルシア帝国の使者たちの横で、和ませるようにジュリアスが声をかける。
「そうだな、アイシア嬢、こちらに座って。」
「あ…、あの…。」
驚いたようにこちらを見つめていたセラフィーヌ王女が戸惑ったように声をあげた。
「あぁ、申し訳ない。セラフィーヌ王女、こちら、ジョゼット侯爵令嬢だ。アイシア嬢、ガルシア帝国のセラフィーヌ王女だ。」
セラフィーヌの戸惑いに気づき、ヴァンシルが簡単に紹介をする。
「もしや、あなたが…。あ、申し遅れました。私はガルシア帝国の使者として参りましたセラフィーヌ・フォン・ガルシアでございます。」
「アイシア・ジョゼットでございます。帝国の可憐な華と謳われる王女殿下ですね。お会いできて光栄です。」
お互いに挨拶を済ませた後、アイシアはヴァンシルの一人分離れて隣に座り、ルーファスはその斜め前に座る。
「まずは、無事に戻ってきてくれてありがとう、アイシア嬢。
戻って直ぐに申し訳なかった。神父の状況が一刻を争うものだったのでな…。」
ヴァンシルの言葉に、アイシアは微笑んで小さく首を振った。
「さて、改めて、顔を揃えたところで今後の話をしよう。」




