クロエ
アイシアがマグノリア教会へ発った2日後
「ねえ、叔母様。ヴァンシル殿下は最近お忙しいのでしょうか…。」
小首を傾げて寂しそうなため息を吐くクロエに、紅茶を一口飲んだ後、微笑まし気に口角を上げた。
クロエは実家であるヘリオット公爵家の娘だ。
ヘリオット公爵家の一人娘として育ったエリザベートは、跡取りとして、婿を取る予定で婚約者もいた。
蝶よ花よと愛され育ったエリザベートは、絶世の美少女としての名を欲しいままに生きていた。
婚約者がいても、結婚の申し込みが絶えることなく家に届いた。
そして運命の出会いをしたのだ。
後の国王である、ランベルクに熱烈な思いを捧げられ、エリザベートもその精悍で美しい王太子に恋に落ちた。そのため、ヘリオット公爵家は父の弟の息子を養子に貰い、跡を継がせることになった。
義兄には息子が2人と娘が1人いる。
それがクロエだ。
とても可愛い娘で、慕ってくる様子を、実の娘のように可愛がった。
今は娘のローズとも仲良く、そして息子のヴァンシルに初めて逢った時から恋をしている。
幼い時からヴァンシルと結婚するのだと公言していた。
ヴァンシルも妹のように可愛がってはいるが、恋ではないとわかっている。
「そうねぇ…。新しく婚約者候補になった娘を聖魔法士として教会へ送ったのよ。
ヴァンシルは責任感が強い子だから、聖魔法士の行方不明が続いていることを心配して後を追ったようなの。きっとあの娘が余計なことを言ったのではないかしら。」
「まぁ…、図々しい!アイシア嬢ね。あの子、本当にいやらしいわ。
図々しくもヴァンシル殿下に色目を使って、いつも距離が近いんです。ご実家もただの侯爵家というのに、自分がヴァンシル殿下に相応しいとでも思っているのかしら!」
ピンクブラウンの瞳をキッと吊り上げ怒る様子に、エリザベートは困ったわ、といった風にため息をついた。
「本当に…。聖魔法が出来るからと言って、ヴァンシルの気を引きたかったのでしょうね。
私に、聖魔法士として教会へ行けるようにして欲しいと、お茶会で訴えてきたのよ。今はどこも
足りてないから、それほど言うのならと、許可を出したけど、まさかヴァンシルをそそのかすとは思わなかったわ。あの子に何かあっては大変だというのに…。」
「なんですって…。あの娘、ご自分から行くとおっしゃったのね。その心配をなぜ殿下がしないといけないの!?許せませんわ。ねえ、叔母様、あの娘、なんとか痛い目に遭わせたいわ。ヴァンシル殿下の婚約者候補の座も降りて頂かないと!」
フフッと笑いながらエリザベートはゆっくり頷く。
「そうね。あの娘はもともとヴァンシルの婚約者としては認めてないの。ただ、卑しい庶子の血が流れる第二王子から、ジョゼット侯爵家の後ろ盾をなくしたいだけなの。
もうそろそろ、ヴァンシルの婚約者を決めていい頃だわ。あの娘はもちろん論外よ。婚約の話が立ち消える代わりに新しい婚約者を用意するわ。でもその前に…失態をおかしてもらう必要があるの。」
「失態…ですか?」
「ええ。可愛い、クロエ。お前に娘になってもらうためにもお願いできるかしら?」
「ええ、もちろん!私に出来ることならなんだって!」
力いっぱい返事をするクロエを見つめながら
エリザベートは満足そうに微笑んだ。
可愛いクロエ…
私の思うとおりに動くお人形さん。
この先もずっと私のお人形さんとして、大事にしてあげるわ。




