恋心とは
2日間かけて行った治療も終わり、無事に帰路につくことが出来そうだ。
アイシアの治療中は、ルーファスがほとんどつきっきりで警護していて、その間エレナとシーザーはマグノリア教会横に併設されている孤児院や周辺を調査していた。
わかったことは神父がいなくなったのは少なくとも2週間以上前。
そしてゴーレムはなんと半年以上前から居たという。
城からの依頼で、辺境や王都から離れた教会を手伝いに来たのだと言って、そのままマグノリア教会で神父の補佐や聖魔法士の治療の際も傍で補助していたというのだ。
ゴート伯のところで会った自警団の者達に術をかけたのは、ゴーレムだろう。
アイシアは相当な魔力を有していたと言っていた。
空間移動の魔法を使うことが出来て、精神干渉も出来る。
ルーファスは自分に闇魔法の属性があるとわかった時から空間移動の魔法を使う訓練を何度も重ねていた。
実際に、試したのは師団本部と、ジョゼット侯爵家の屋敷の自室間の移動。屋敷内であれば、基本的に自分の魔力の印だらけの為、基本的にどこへでも移動は出来る。
だが、あふれ出る程の魔力を有するルーファスでさえ、空間移動の魔法は続けてするには3回が限度だ。
ルーファスは魔力回復が早いため、連続で使わなければ使えるが、アイシアの癒しの魔法があればきっとずっと連続使用することも可能だろう。
距離はまだ、どこまで出来るのか確認出来ていないが、一度地点に自分の魔力の印をつけさえすれば、国家間の移動も可能だと思われる。
そう、今回の件には、ノルン帝国が関わっている可能性がある。
南の大国で、閉鎖的な研究大国。
一度つけた印は他者では消すことも出来ないため、ノルンからゴーレムが移動するのはいつでも可能だろう。
聖魔法士の誘拐も、目的がわからない。
だが、優秀な聖魔法士のアイシアの事は害そうとした。誘拐よりも、殺すことを優先した理由はなんだ…?
クソ…王妃だけでなくノルン帝国まで警戒しないといけないのか。
アイシアは感謝で見送る村人達に手を振りながら思考に没頭しているルーファスを、心配そうに見つめた。
「ルーファス様…?何か心配事ですか…?」
「…うん…。早く王都に戻った方がいいかもしれない。風魔法で補助するから、少し急ぐよ。」
帰路につく馬車の中にはアイシアとエレナがいた。
「エレナ、守ってくれてありがとう。あなたを選んでつけてくれたユージィン様にも戻ったらお礼を伝えなきゃだわ。」
「いえ、そんな…。私だけでは、とても守り切れませんでした…。王太子殿下が間に合ってよかったです。何度か王太子殿下を近くで見かけたことがありましたが、いつも飄々と自信に満ち溢れた方に見えておりましたが、あれほど必死な顔もなさるのですね…。アイシア様、戻ったら結婚の申しこみが待ってますね。」
フフッと笑うエレナに思わず顔が熱くなる。
ヴァンシル殿下には私よりもっと相応しい方がいらっしゃるわ…。
なぜ、あのような優しさを向けてくださるのか、わからない。
ここにも…こんな遠いところまで、私を心配して来て下さった。
助けてくれた時の逞しい背中に、とてつもない安心感を覚えた。
「ねえ…。エレナは…ユージィン様のどこに惹かれたの?」
「へ…?え…っ!?え!!どうしてそれを…!!」
一気に真っ赤に顔だけでなく耳まで染めたエレナがワタワタと慌てる様子に、知らないふりして応援しようと思ってた行きの道中の決意を忘れたことに気付いて、しまった、と思う。
でも、口に出した言葉は消せないので、そのまま見つめていると観念したように脱力したエレナがため息を吐いた。
「…お察しの通りです…。私はユージィン様に惹かれております。でも、恋というか…尊敬と憧れに近いかもしれません。色々混じった感情なので何とも言えないのですが…。ユージィン様は相手の立場や爵位も関係なく誰にでも同じように接してくれます。まぁ、陛下相手でさえグイグイいく様子はちょっと…とは思いますが、裏表のない方なので…。誰からも愛されてます。普段あんななくせに…肝心な時はとても頼りになるのです。あの方が居たらみんな大丈夫だと信じさせてくれる安心感というか…。そうですね、そんなところが好きなのだと思います。」
最後は少し、やけっぱちの様な、開き直った様子で話すエレナに、そうなのね、と微笑ましく思う。
「ユージィン様を選べる人は、本当に見る目のある方だと私は思うわ。とても素晴らしい方だし、素敵な騎士様だもの。私は兄のように彼の事は慕っているの。」
ふんわりと笑顔で語るアイシアの可愛さに、エレナはあなたの事も大好きですと、心から思う。
立場や爵位関係なく、人と接する姿勢はアイシア様も同じだ。
自分よりも年下なのに、頭も良く、思いやりがあって裏表がない。実はユージィン様と似ていると思うのだ。とても尊敬出来る令嬢だ。
「こんなこと、聞いてよいのかわかりませんが、アイシア様は…王太子殿下の事、どう思っていらっしゃるのですか?」
まっすぐに問うエレナの視線に、少しだけ目を伏せる。
「ヴァンシル殿下は、王の資質のある、素晴らしい方だわ。文武両道で、努力も出来る素敵な方だし。だからこそあの方にとっては私は役不足だとも思う。私はこんな感じで、令嬢らしくないところが沢山あるし、魔法について考えるのが何より好きな変わり者だから…。」
「…恋はどうですか?」
「恋…。は…、わからないわ。殿下が素敵でどこにも嫌なところがないことは間違いないけど。」
「まぁ!フフ…。」
お互いクスクス笑っていると、外から声をかけられる。
「シア、大丈夫?もう少し走ったら一度休むよ。」
馬で並走してくれているルーファスは、風魔法を巧みに使いながら、馬や馬車を走らせている。
村を出発してからおよそ2日で城に到着すると、出迎えてくれたジュリアスとエリオットに、ルーファスとアイシアはそれぞれ別室へ案内された。




