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捨て置かれた第二王子を助けたら王太子が婚約者になりました  作者: とぅーのすけ


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ガルシア帝国からの遣い

ヴァンシルが城に戻ると、慌ただしく迎えに出たエリオットから、ガルシア帝国から使者が来ていると告げられた。


「事前に連絡もなしにか?」

歩きながら、ヴァンシルが状況を確認する。

「はい。急ぎ、お願いがあると、その…。」

「なんだ?」

「王女が…セラフィーヌ王女が今、応接室で殿下をお待ちです…。」


は?

セラフィーヌ王女は、ガルシア帝国の第一王女ではないか。

王族が知らせもなく、使者として来たのか?

「本物なのか?」

「はい、間違いなく。私も殿下と共に帝国との友好パーティーに参加をしたことがあります。

その時お会いしたセラフィーヌ王女で間違いないです。ガルシア帝国の刻印の入った指輪もお持ちです。」

…一体何だ?

この忙しい時に…。王は今、ルースファレン王国との使者と会合があって抜けられず、王妃は知らせもなく来たガルシア帝国の姫に会いもしなかったと。今は宰相補佐官のジークフリードとジュリアスが対応しているという。

ヴァンシルはエリオットに簡潔に説明と指示を出す。詳しくは共に戻った騎士に話を聞くように伝えると、連れ戻った捕獲者2名と、結界で隔離された神父の対応を任せ、応接室へ急いだ。


「ヴァンシル殿下、この度は不躾にも、知らせもなく参りましたこと、誠に申し訳ございません。」

入室したヴァンシルの顔を見て急ぎ席を立ち、淑女の礼をとるセラフィーヌ王女に、顔を上げるように伝える。

「いえ、お待たせして申し訳ない。して、急ぎでの用とは?私も立て込んでおりまして、挨拶は不要ですので、簡潔にお願いします。」

「っ…はい…。申し訳ございません…。助けて欲しいのです…。我が国がまた…謎の病が広がっております…。王都から離れた村から広がり、今や帝国全土へと広がりつつあるのです…。どうか…聖魔法士の派遣をお願い出来ないでしょうか…?」

「…謎のウイルス…?以前、帝国が危機に瀕したあのウイルスですか?」

「いえ、アレとはまた、違うのです。あのウイルスに対抗できる薬は今は研究の末、わが国も準備しておりました。聖魔法士の生まれないわが国でも対応出来うる限り薬は常に研究して保持していたのですが、今、広がっているウイルスが、どの薬も全く効果がないのです…。」

「なんと…。」

ジークフリードを見ると、確認が取れているようで頷いた。


そこでジュリアスが口を開く。

「聖魔法士の派遣と言われても、今、わが国も各地で聖魔法士が行方不明になっていて、帝国へ派遣できるような状況ではないのです。して、症状はどのようなものなのか、もう一度殿下にお伝えしてもらってよいでしょうか?」


ヴァンシルが来る前に説明をしていたようで、セラフィーヌ王女は小さく頷くと、真剣な目を向けた。


「最初は体のダルさから始まり、その後、熱と呼吸不全、そのうち体に青紫の斑点のようなものが広がり、顔にまで斑点が広がる頃には、寝たきりになり、最後には痙攣と吐血を繰り返し絶命するのです…。

発症してからその期間は1か月ほどです。もう…最初に発症が始まった村の感染者は全員亡くなりました…。…母が…王妃が慈善活動中に感染してしまって、今、王宮内で隔離されております…。今日で1週間経ちました。」

ギュッと手を握りしめるセラフィーヌ王女の薄く凍った湖のような青灰色の目には、縋るように涙の膜がうっすらと張り、唇を噛み締めた。

「こんな風に、礼を欠いた訪問、罰は私が受けます。でも、どうか…助けて下さいませんか…?お願いします…。」

セラフィーヌ王女と共に来たらしい、補佐官であろう者と騎士も共に膝をついて頭を下げる。


ヴァンシルはその痛ましい様子に目を閉じた。

セラフィーヌ王女は強国の姫という立場でありながらも、奥ゆかしく穏やかな方で、ルーファスと似た白金の緩やかに波打つ髪に、灰色に一雫だけ青を混ぜたような不思議な色合いの美しい瞳をした儚げな姫だ。年は確かまだ15才の少女。帝国内で不動の人気を誇っている。

王族というにはいささか大人しい印象だったが、母を、国を救うためにここまで来る行動力があるのかと

少し、見方が変わった。


それにしても…

その症状…青紫の斑点…


「ジュリアス…、今、エリオットに連れ帰ったマグノリア教会の神父を運ばせたのだが…。その症状、その神父も同じ斑点があったように思う。アイシア嬢がすぐに異変に気付き、しっかりと結界で隔離を施しているから感染に関しては心配はないが…。もしもそれが同じ症状だとするならば…。」

ジュリアスが眉間を寄せ、口元を覆うように手をあてた。


「殿下が先に知らせてくれた手紙の内容通りならば…そのウイルス、聖魔法が効きませんね…。」

「!!!」


絶望するかのように目を見開いたセラフィーヌ王女に、申し訳なさげにジュリアスは視線を下げる。

「あくまで同じなら…です。我が国で一番であろう聖魔法士の方が、治せなかった…効かなかったという症状の為、王宮で調べるために運んだのです。して、感染の経路などはわかっておりますか?」


呆然としたまま、セラフィーヌ王女が涙を堪えながら首を振る。

「いえ、正確にはわかっておりません…。ただ、母は慈善活動の最中に痙攣して倒れた方が吐いた血に触れてしまったそうです…。」

ずっと聞き役に徹していた宰相補佐官のジークフリードがそこで確認する。

「そうですか…。その、青紫の斑点というが出るのは発症してからどのくらい経った頃でしょう?」

「母ままだ出ておりません。亡くなった方の看病をされていた人の話では、倦怠感から2日程で熱が出て、熱が3,4日続いた後呼吸がおかしくなり、そのうち下肢から小さな斑点が出始めるそうです。」

「では少なくとも斑点が出るまでに1週間以上はかかるという事ですね。」


ジークフリードの顔が険しくなる。

「殿下、これがもし同じ症状なら、わが国も他人事ではなくなります。聖魔法が効かないウイルスであるなら、早急に対策せねばなりません。少なくとも、南の地域には広がる可能性があります。

この症状が確認されたのはまだ神父一人でしょうか?」

「…わからん…。だが、神父は隠し部屋にとらわれていたのを、騎士団の者が見つけた。その時には既に熱と呼吸不全の状態だったと聞いている。神父が居なくなったのが正確にはわかっていないが、残してきた者達から連絡が入ればわかるかもしれない。」

ジュリアスはある可能性に気付くと、口元に当てていた手で目を覆う。

「どうした?ジュリアス?」

ヴァンシルが気づき、声をかける。

ジュリアスは考え事をまとめる時に顔を手で覆う癖がある。

何か…わかったのか…?


しばらくジュリアスが思考の中に沈んだ後、根気強く二人は待つ。

ジークフリードもジュリアスが黙った時は思考の世界へ没頭することを知っている。

セラフィーヌ王女が黙ったままの三人を祈るように見つめていると、徐にジュリアスが顔を上げた。


「そのウイルス、人の手で作られたものでしょう…。その神父にウイルスを植え付けた者は聖魔法士の誘拐に関わっている者と同じと考えられます。」

「そんな…!!人の手で作られたウイルス…??」

立ち上がって呆然とするセラフィーヌ王女を支えるように、後ろに控えていた補佐官が口を出す。


「申し訳ありません、一つよろしいでしょうか?」

話してよいかと、確認する補佐官にヴァンシルが頷く。

「ウイルスを人の手でというのは…可能なのでしょうか…?」

握りしめた拳を震わせながら、見つめる補佐官にジュリアスが真っすぐに見返した。


「はっきり言って、ウイルスというのはある種予想のつかないものから発生して人へ害を為すものへ変化するいわゆる天然の脅威です。ですが、今回のものは…あらゆるものに少なからず有効であるはずの聖魔法が効かない点、ガルシア帝国へ突然広がった事、対策していたにも関わらず、薬が効かない事、村の者と同じ生活をしていたはずの神父が、誰かしらに捕らわれている間に未知の病いに感染したこと。

一連のことから、人為的なものを感じます。生物兵器…とでもいいいましょうか…。」


生物兵器…


その場にいた者全てにゾクリと悪寒が走った。


「そんな…一体誰が…。」

セラフィーヌ王女が力なく座り込んだ時、ノックが聞こえた。


ジークフリードがすぐに確認に行く。

「殿下、ルーファス第二王子殿下より手紙です。」

「ルーファスから?」


ヴァンシルが急ぎ開封して中を確認する。


「…これは早急に調べないと、わが国も危険だ…。」

中を確認したヴァンシルが、すぐ傍にいたジークフリードとジュリアスにも見るように目で示す。


「これは…。」

「ガルシア帝国、そしてわが国も急ぎ対策が必要だ…。これは国の…存亡の危機だ…。」








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