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捨て置かれた第二王子を助けたら王太子が婚約者になりました  作者: とぅーのすけ


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闇魔法の脅威

先に王都へ出発したヴァンシルを見送って、アイシアとルーファス、エレナ、シーザーの4人は村にいた御者と合流し、同じ宿で休んでいた。


「アイシア様、私、第二王子殿下に初めてお会いしましたが、とても美しい方ですよね…。王太子殿下とまた違う美形ですよね。」


安全の為、同じ部屋で過ごすエレナが、荷物を整理しながら、何気なく感想を漏らす。

「そう…ね…。ヴァンシル殿下と腹違いのご兄弟だけど、一見すると似てないものね。」


ヴァンシル殿下は逞しく爽やかで精悍な美丈夫だ。

王妃譲りの亜麻色の髪に透き通る様な琥珀の金の瞳。

通った鼻筋にふっくらと優しく弧を描く唇。

誰が見ても素敵な王子様という見た目だ。

ルーファス様は、しっかり鍛えてはいらっしゃるのに魔術師のローブのせいか、線が細くどこか儚げな印象に見える。

月の光のような銀色の髪に白い肌、深いアメジストの引き込まれそうなほど、美しい紫の瞳。

唇は薄く、基本的に無表情だ。

人外に見える程美しく、妖精の王と言われても信じてしまいそうな美形だ。

「お二人とも、アイシア様を大事に思っていらっしゃるのですね。第二王子殿下は、あのジョゼット侯爵の後継と謳われる、魔法の使い手なのですよね。それほどの方が、あれほどの怪我をされておりましたが、ここへ来るまでに何があったのですか?」


「それが、まだ聞いてないの…。邪魔が入ったとしか…。」

ところどころローブが燃えていた。

背中にかなりの傷があったし、気になるわ。ルーファス様はずっと命を狙われているもの。いくらお強くても、やはり心配だ。

「エレナ、少しルーファス様の話を聞いてくるわ。

あまり寝てないでしょう?ちゃんと休んでいてね。」

「では、第二王子殿下の所まで送ります。」

「フフッ、平気よ?隣だもの。」

「でも…。」

なおも心配気なエレナをベッドへ休む様に押し付けると、アイシアは隣のルーファスの部屋をノックした。

扉が開いてアイシアに気付くと、すぐに手を引いて自室へ迎え入れられた。


「シア…。すまない…。」

アイシアの前に下を向いたまま、立ち尽くすルーファスの様子に、アイシアが不思議そうに首を傾けた。

「ルーファス様…?何がですか?それより、残れるように進言して下さって、ありがとうございます。」

嬉しそうに笑うアイシアと反対に、ルーファスの顔は泣きそうに見えた。


「どう、、されたのです?ここに来てくださるまでに、一体何があったのですか?」

顔を覗き込む様に近づいてルーファスの頬に触れる。

アメジストの瞳が不安に揺れている。

出会った時からこうして何か抱えている時に、こんな置いて行かれる子供のような、不安そうな表情を見せていたわ。

「シア…、守ると言ったのに…。間に合わなくてごめん…。」

眉間を寄せて、途方に暮れたルーファス様の顔が、出会った時の少年に重なる。

「…フフッ…。何、言ってるんですか。守って下さいましたよ?見てください…。」

アイシアは首元からネックレスを引き出すと、ルーファスに見えるように手のひらに乗せて持ち上げた。


「ヴァンシル殿下が来てくれる前に、一度、私は剣を振り下ろされたのです。その時、これが光って…攻撃は弾かれ、助かりました。ルーファス様が私を守ってくれたのです。」

アメジストの横の魔石はいくつかヒビが入っていて、その効果が失われたことがわかる。


「ルーファス様のおかげで、今、私はここにいます。ありがとうございました。」

フワッと笑うその花が咲くような優しい笑顔に、ルーファスの目が細められた。

「そ…か…。そうか。ありがとう…、シア。無事でいてくれて…。」

「はい。」


その時、かけられているボロボロのローブが目に入り、アイシアはここに来た目的を思い出す。

「そうだわ、ルーファス様こそ、ここに来るまでに何があったのです?こんなにボロボロになるなんて…。」

ガバッと顔を上げて詰め寄るアイシアにルーファスはそうだった…と、ベッドの横にある荷物へ何かを取りに行く。


ルーファスが持ってきたのは大きな魔石だった。

「…魔石?こんなに大きなもの、見たことないです…。」

爪の先ほどの大きさの魔石でも貴重なのに、ルーファスが手にしているのは手のひらくらいの大きな黒曜石のような魔石だった。


「これに出くわした。ドラゴンだ。」

「ドラゴン!!?」

そんな…、こんな草原や森では見かけない、上級の魔物がなぜ?

「お一人で…ドラゴンを倒したのですか?ローブが燃えたのはドラゴンの炎…?そんな…ルーファス様こそ…ご無事でよかった…。」

想像して怖くなり、思わずギュッとアイシアはルーファスの服の裾を握りしめた。

ルーファスは安心させるように、優しく頭を撫でてくれる。


「大丈夫だ…。ドラゴンの中でもたぶん小型のものだったし…。でも、見たことのない真黒な個体だった。それに…アレは僕を狙っていた。突然現れ、一直線に僕を狙って来た。」


思い出しながらその時の様子を語られ、その内容に、アイシアもルーファスと同じように違和感を覚えた。

「普通ドラゴンは何もなく攻撃はしてこないわ。捕食や、危害を加えられたことによる攻撃以外は…。

しかも山岳地帯でもないこんな南の辺境になぜ突然…。」

「ドラゴンは僕を狙っていた。僕の何かに反応して敵と見做していた。今考えると…魔力だと思う。

ドラゴンは魔力の察知能力が高く、攻撃対象を魔力の質で判断すると言われている。僕が放った風魔法ではなく、闇を纏わせた炎の魔力に反応した。自分がその炎で燃えている間、アレは自分自身に攻撃をしたんだ…。」

「まさか…。」

アイシアがルーファスを見つめる。

「僕の持つ闇魔法に反応したんだと思う。」


突然現れたのが、行方不明事件と同じ、闇魔法での空間移動で放たれたとしたら…?

ルーファス様を攻撃させるために、ドラゴンを闇魔法で攻撃した後、空間移動でドラゴンをルーファス様の前に放つ。

ドラゴンは自分を攻撃したのがルーファス様だと思って攻撃してくるはずだ。


「では、王妃が…?」

「それはわからない…。さすがに王妃がドラゴンを寄越すとは思えないし、この王国内に黒いドラゴンはいない。ドラゴンを移動させるほどの闇魔法の使い手がこの国にいるとも思えない。間違いなく他国が関わっていると思う。」


他国…。

西のモルディモア国は、ルーファス様の結界魔法のおかげで脅威がなくなった。でも、相手国にとってはルーファス様は邪魔な存在だわ。

東のガルシア帝国はルーファス様のもう一つの母国。不戦協定が結ばれて久しい…。

北のルースファレン王国は友好国で関係は良い。

そういえば、最近、他国の話を聞いた。どこで?


”ノルンは長く閉鎖した独立国家でしたけど、最近、この国にも国交の申し出があってね。独自の技術で新しい道具や、食品を生み出してるようで、今、この国もノルン帝国との協定を詰めてる最中なの。”


王妃の…その口から聞いたのだ。

ノルン帝国。

長く閉鎖した他国を排除してきた南の独立国家。


「王妃が…ノルン帝国からこのフェイレイ王国に国交の申し出を受けたと聞いたわ…。まさか、王妃はノルン帝国を使って、あなたを排除しようとしたの…?!」

他国を巻き込んで、邪魔な王子を排除しようとしたの?それはあまりに危険な行為。

他国に、弱みを見せることになる。


「ノルン帝国…。国交の話など、聞いたことがない。いくら機密事項だとしても、師団長のジョゼット侯爵が知らないはずはない。でも、ノルンなら、国の半分は山岳地帯で、大型の魔物が多い国でもあるはずだ。国によって生まれ持つ魔力の特色があるが、ノルンは闇魔法使いが生まれるのか…?。」


このフェイレイ王国は水と風、そしてそれよりは断然少ないとはいえ聖魔法使いが生まれる。北のルースファレンは農業国だけあって、土魔法と水魔法使いが多い。ガルシアは火と風、モルディモア国は土と水。ノルン帝国は未知の国と言われ謎に包まれていたが、もしかすると闇魔法使いが多く生まれるのかもしれない。


「一応、兄上とユージィン副団長に連絡しておく。少しでも早く確認してもらった方が良さそうだ。聖魔法士の誘拐にも関与しているなら、なにか企んでいるのかもしれない…。」


急ぎでルーファスは宿に備えつけられた小さな机の前に座ると、手紙を書き始める。

簡潔に書きあげると、風魔法で手紙を飛ばす。

「これで兄上が到着するころには手紙が届いているはずだ。」


ルーファス様の魔法は本当にすごい。

この新しい風魔法の術が出来るまでは人が馬や足で運んでいたのだ。

彼が新しく作った術式は、正確に相手に風魔法を用いて手紙を届ける。今までの3分の一の時間で手紙が届けられるようになったのだ。

「ルーファス様のおかげでこの王国がどんどん豊かになるわ。」

思わず呟いたアイシアの声を聞いて、驚いたようにルーファスが振り向いた。

「何言ってるの?僕が動く行動の全ては国のためじゃない。シアの為だよ。手紙も、離れている時にもっと早く声を届けられないか考えて思いついたものだし。結界もそうだよ。シアを守るために考えたことだ。だから今、侯爵家は結界に守られているし。」

フッと優しく笑うルーファスの笑顔にアイシアの胸がキュンと鳴る。


無表情だと言われるルーファス様は、本当はとても表情豊かだ。

父や私、そしてヴァンシル殿下やユージィン様、侯爵家のみんな。魔術師団の仲間。

心を許した相手にはとても感情豊かで愛情深い。

この方を絶対に、死なせたくない。

ヴァンシル殿下と共にこの王国を支えるべき力を持った、尊い方だもの。

何があっても守るわ。


今はまだ…守られてばかりだけど…。


「そうだ、シア、このドラゴンの魔石を使って新しいお守りを作る。」

「え??こんな貴重な魔石を使うんですか??」

びっくりして目を見開くアイシアに、何でもないようにドラゴンの魔石を手の平に乗せた。

「大きいから全部は使わないけどね。」

魔法で風の刃を出し、丁寧に指先程の大きさの魔石を切り出しカットする。


「あぁ、とても質が良い。これなら大量の魔力を付与しても割れないだろう。」

「あ、待ってください。ではカットした残りのかけらを私に下さい。」


切り出してカットした小さな魔石のかけらがいくつかある。

不思議そうにルーファスはアイシアの手に乗せてくれると、自分は魔石に何か呪文と唱え始めた。

聞いたことのない呪文。


アイシアはルーファスを横目に手のひらの小さな魔石のかけらを両手で握りしめると祈るような仕草で魔法を付与する。

これはルーファス様を守るために私が出来る祈りの魔法。

私には攻撃を回避する魔法の付与など出来ないけど、聖魔法だけは自信があるのだ。


かけら全てに聖魔法を付与すると、アイシアは一度部屋へ戻る。

小さな皮袋にひもを通して中に魔石を入れると、もう一度ルーファスの部屋に戻る。

「ルーファス様、これを」

アイシアは首からそれをかけた。


「…ありがとう…。シアもこれ。身につけていて。」

付与された魔石をアイシアの手のひらに乗せる。

温かい虹色の魔力を手のひらに感じる。


「ありがとうございます…。ではもう休みますね。ルーファス様も、休んでください。」

「うん、おやすみ、シア。」

「はい、おやすみなさい。」


部屋を出て行くアイシアの背中をルーファスが決意をこめた目で見つめていた事に、気づくことはなかった。
















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