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捨て置かれた第二王子を助けたら王太子が婚約者になりました  作者: とぅーのすけ


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危機

アイシアは夢を見ていた。

まだ母がいた頃の夢。

キラキラと光る淡い金髪に、優し気な少し垂れたペリドットの瞳。

お母さまはいつも優しく微笑んでいる人だった。

華奢で背が低く、背の高い鍛えられた父と並ぶと余計に小さく見えた。

いつも父は愛おし気に母を見つめ、母も幸せそうに父を見つめていた。

寄り添う姿が素敵で、二人が並んでいるのを少し離れたところから見ることが好きだった。

そうすると、こちらに気付いたどちらかが相手にトントンと合図をして一緒に振り返って笑って手を伸ばしてくれるのだ。

「おいで、シア。」

呼ばれて駆けていく少女の私は、とても幸せな子供だった。


だからルーファス様に出会って、自分がどれほど恵まれていたのかを知った。

そして、彼も私と同じくらい、幸せにしてあげたいと思った。

たくさん笑って、満たされて、生まれてきたこの世界が彼にとって優しいものになればいいなと願った。

ルーファス様はとても純粋で優しい人だったから…。

初めて会った時、彼は「近づかないで、ケガをさせてしまう」と離れようとしたのだ。

自分はあんな目にあっていたのに…誰かを守ろうとする強さと優しさを持っていた。


「シア、気を付けてね…。」

お母さまが心配そうに私に言う。

「お母さま、会いたいわ…。」

「シア、守るよ。」

おかあ…?

「何があっても、シアを守る。」

ルーファス様…?

「シア、気をつけて。」


まるで耳元で囁かれたように頭に声が響き、ハッとアイシアは跳ね起きた。

今、何時かしら?夕食後、部屋に戻っていつの間に寝たのかしら?

外を見ると真っ暗だ。


隣のベッドを見るが、まだエレナが戻っていない。

起き上がるとアイシアは、ドアを開いて廊下に出た。


そこには向かいの個室を警備するシーザーがいて、こちらに気づいて、駆け寄ってきた。

そう。部屋を入れ替わったのだ。

勧められた個室を使うのも何か嫌で、アイシア用の部屋はレンブラントが寝ている。

「シーザー様、異常はないですか?」

「はい。誰もこのいっかくには近づいていません。」

ニコッとシーザーが笑い、アイシアもホッとする。

「今ちょうど深夜を過ぎたので、そろそろ交代ですので、レンブラント殿を起こします。」


そう言ってシーザーがドアをノックする。

中からは何の音もしない為、シーザーは一言声をかけてからドアを押した。


アイシアも一緒に中を覗く。

ベッドの上には誰かが寝ていた形跡はあるが、誰もいない。

「…え…?」

シーザーが小さく声を漏らし、奥の洗面や衣装棚を確認するが、部屋にいるはずのレンブラントの姿がどこにもなかった。

「いない…。え?。」

呆然とするシーザーの横から、アイシアは中に足を踏み入れると、部屋を観察する。


ここ数日一緒に行動して覚えたシーザーの魔力の残滓が、ベッドに残っている。

最後に魔力を使おうとしたのね。

それは誰かに攻撃を受けたから…?


「アイシア嬢、わ…私は…一度もこの部屋の前を離れておりません。あなたがこの部屋にいるかのように、ずっと警護しておりました…。」

信じられないものを見ているかのように、瞳を揺らすシーザーに、アイシアは真剣に頷く。


「こうやって…行方不明の聖魔法師達がいなくなったのね…。」

レンブラント様は無事かしら…?魔力の残滓が見えるから、生きているはず…!

私が部屋を変わったから…代わりに連れて行かれたの?エレナは無事なの…?


「ゴーレムを呼びましょう。」

シーザーが、とにかく人手がいると判断したが、夜中、私とシーザー2人だけで、彼を迎え打てるのかわからない。だが、朝までこのままでいるわけにもいかない。逡巡してる間に、シーザーがゴーレムを探しに行く。


「外を警護している村の者も呼んで、外も確認しないと。」

「ええ…そうね。エレナも探さないと…。」

後をついていくアイシアのつぶやきに、シーザーが驚いて振り向いた。

「侍女殿もいなくなったのですか?!」

シーザーが眉を顰め、声を漏らす。

「いなくなったと言うより、帰ってきていないと言った方がいいかもしれない。私が頼み事をしてしまったばかりに…。」

後悔が胸を襲う。

やはり危険だったのだ。いくらエレナが強くても、魔法使いには太刀打ちするのは難しい。

ゴーレムはかなりの魔力量を持っていた。つまり、それは強い魔法が使えるという事だ。


「探さないと。何があっても2人を無事に連れ戻さなきゃ!」

アイシアのエメラルドの瞳が強く輝く。

ここに来る様に命じたのは王妃。

何かあるとは思っていたけれど、いきなり攫われるということは想像していなかった。

一緒につけられた近衛騎士の二人も、悪いものは感じなかったし…。


教会の祭壇のある部屋へ来ると、中から人の気配がする。

シーザーがアイシアを守るように、前に出ると、剣に手をかける。

そっと中を覗くと、人影が2つ。


「誰だ?!顔を見せろ!」


シーザーが人影に向かって声を上げるとハッとしたように人影が動いた。


窓から入る月明かりに照らされたその顔は…

「エレナ?!」

アイシアが思わず声を上げる。

「アイシア様!こんな時間になぜここに?」驚いた顔で走り寄ってきたのはエレナで、その後ろにはグッタリした男性が座っている。

「彼は?」

シーザーが視線をその男へやると、エレナが神父様です、と答えた。

「申し訳ございません。見つけるのに手間取ってしまって。ゴーレムの後を追って行動を確認していたのですが、あの男、突然、この祭壇の奥へ向かった途端、姿を消したのです。

それからしばらく捜索していたら、奥に隠されたドアを見つけ、その奥で倒れている神父様を見つけたのです。でも、その中にはゴーレムはおりませんでした。」

騎士の礼で報告をするエレナの様子に面食らったようにシーザーが目を見張っている。


「あの…アイシア様、侍女どのは一体…?」

「あ…ごめんなさい。エレナは侍女ではないの。騎士団所属の有能な女性騎士で、ここについてすぐにゴーレムが怪しいと気づいてから、ずっと本当のこの教会の神父様を探してもらっていたの。」

すばやくアイシアが説明をしながら、座り込んでいる神父様に駆け寄る。

グッタリと息も荒く、熱があるようだ。

急いで魔法で回復魔法をかけるが、なかなか目を開けない。

何かしら…?この状態…、おかしい。

ケガをしているわけでもないのに、病気にでもかかった様に荒い呼吸と発熱の症状がある。

毒…?

解毒の魔法をかけるが症状が変わらない。

「おかしいわ、神父様の症状がよくならない。」

よく見ると、神父様の首元に青紫の痣のような斑点がいくつも見える。

今まで、慈善活動でたくさんの患者を診てきたが、こんな症状見たことがないわ…。

アイシアの中に底知れぬ不安が広がる。


「二人とも、ハンカチはある?急いで鼻と口を塞いで。もしかしたら、何かわからない病気にかかっているかもしれない。」

そういうと、アイシアは自分の口もハンカチで塞ぎ、エレナとシーザー、そして自分に清浄魔法をかけた。

「神父様はとにかくベッドに運んで寝かせましょう。シーザー様、清浄魔法のシールドをあなたにかけるから、運んでくれる?

エレナは外にいる村の人は建物に近づかないように伝えて。あと…、エレナ、レンブラント様が行方不明なの。部屋から忽然と姿を消したわ。」

驚いたように目を見開くと、コクンと無言で頷く。

ここにアイシア達二人が来た理由を瞬時に理解したのだろう。

流石、ユージィン様の部下だわ。


何が起こっているの?

シーザーが神父様を連れて祭室を出るのを確認したその瞬間、ドアがバンッと自動で勢いよく閉まった。

え…?

エレナとアイシアがドアを確認しようと足を向けた時、後ろからゴーレムの声が聞こえた。

「あなたは頭が良いですねぇ…。何もするなと命じられておりましたが、その力はあまりに素晴らしく、欲しくなってしまったが…。”ここ”に貴方がいると、不都合なことが起こりそうですからね…。残念ですが、消えて頂きましょう。」

「ゴーレム!!」

エレナが剣を構えてアイシアを庇うように前に立つ。

「聖魔法士を攫っていたのはお前だな!一体何のために!?」

エレナの声にニヤニヤと下卑た笑いで答える。

「それは秘密です。しかし、よくあの部屋を見つけましたねぇ。褒めて差し上げましょう。」

「…ゴーレム…、レンブラント様はどこ?無事なの?」

アイシアが真っすぐにゴーレムを見つめながら、問うと、爬虫類のような瞳を細めた。

「あなたと間違えて攫ったあの男ですね。さぁ…生きてはおりますが…ある意味、地獄の入口にいらっしゃいます。それより人の事よりご自分の心配をされた方が良いですよ。」

ゴーレムが指をパチンと鳴らす。


その瞬間何もない空間から5名の刀を持った男たちが周りを囲んだ。

「!!」

今、魔力が歪んだ!

歪んだ魔力の塊から人が現れたわ!

目を見開いてエレナとアイシアが辺りを見渡す。一見して手練れとわかる者達だ。

「あなたは一体誰なの?何を企んでいるの?」

「…こんな状況でも泣き叫んだりしないのですね。美しいお嬢さん。では殺す前に一つだけ教えて差し上げましょう。攫った聖魔法士達は生きておりますよ。ただ、あなた達を地獄へ突き落すための仕事をしてもらっているのです。」

エレナが剣を構えなおして周りを素早く確認している。アイシアもシールドの呪文を二人にかけるが、魔法には効いても物理攻撃には意味がない。何か方法がないのか…。

「では、美しい方、さようなら。…殺せ。」

 

5人の敵が一気に襲い掛かる。

最初の一撃を剣で受けながら、横から襲ってくる者を蹴り飛ばす。

エレナはアイシアの逃げ道を作ろうと動くが、5人ともかなりの手練れだ。

「アイシア様!どうか、逃げて!!」

必死で受けながら道を作るとアイシアの背を押した。

「早く!!」

エレナが心配だ。でも、自分を守りながら戦うことの方が大変だと、言われた通り、素早く足を動かしドアへ向かうが、グッと背中の襟元を引き戻され、床に転がった。

濃紺の髪の男の口元が弧を描いて剣が振り下ろされる。

「アイシア様!!!」

エレナの叫び声が聞こえる。鈍く光る剣が自分に向かって振り下ろされるのがゆっくりと見える。

ダメ…!

私が死んだら…

その瞬間、アイシアの胸元が光り、バチンと剣がはじき返された。

後ろへ吹き飛ばされた男は何が起こったかと混乱して目を見開き、落ちた剣を慌てて拾い上げる。

ルーファス様から頂いたネックス…!!

アイシアはハッとすると、服の上からネックレスをギュッと握った。

エレナが他の者達を相手にしながら必死でこちらへ向かおうとするのが、目の端に映る。

再度アイシアに向かって男が剣を構えて振り上げた時、後ろのドアが勢いよく開く音がしたと同時に、目の前の男がうめき声を上げて倒れた。



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