行方不明者達
初めての夜会から2週間。
その日は朝から屋敷内がバタバタとしていた。
アイシアは起きて早々、すでに出かける準備をしている父とルーファスの姿に驚いた。
「おはようございます、お父様、ルーファス様。今日は何かあるのですか?」
玄関で執事のバーニーと話していた父が、アイシアを振り返った。
「あぁ、すまない。急な要請で1か月ほど留守にする。」
「まぁ、本当に急だわ…。危なくないのですか?」
不安そうにアイシアが見上げると、アーサーは優しげにアイシアを見つめてその頭を撫でた。
「大丈夫だよ。調査に行くだけだから。」
「ルーファス様も行くのですか?」
魔術師団のローブを羽織るルーファスがアイシアを見つめて頷いた。
「あぁ、今回は魔術師団全体への要請だからね。シア、1か月、一人にしてしまうが、気を付けるんだよ。」
アーサーがそっとアイシアを抱き寄せると背中をポンポンとたたいた。
私、不安そうな顔をしていたのね…。
小さなころからアイシアが不安な時はいつも父が抱き寄せて背中をポンポンとたたくのだ。
「ええ。私は大丈夫よ。お父様も、ルーファス様も気を付けて…。」
アーサーが離れた後、今度はルーファスがアイシアをそっと抱きしめた。
いつものようにアイシアは癒しの魔法をかけると、ギュッと抱きしめ返した。
「どうかご無事で…。お帰りを待ってます。」
「僕たちは大丈夫だよ。王国最強の魔術師と、その弟子だよ。シアこそ気を付けて。なんだか嫌な予感がするんだ。」
アイシアの髪をするりと撫でながら、眉をひそめてルーファスが呟く。
「城に行くときはいつも以上に気を付けて。あと、この前のネックレスは絶対に身につけること。忘れないで。」
では行ってくる、と二人が出ていくと急に屋敷内が静かに感じた。
「お嬢様、朝食にしましょう。」
気を遣ってか、笑顔で侍女のアンが元気に声をかけてくれる。
「ええ…、そうね。」
1か月、この屋敷でアイシアは一人になるのだ。
今まで魔術師団の団長である父は数か月いないこともあったし、侯爵家の使用人の皆がいても、私が一人になることなんて当たり前だったのに…。
1か月なんてきっとすぐだわ…。
「アイシア様、しってらっしゃる?最近、王国内の聖魔法士が、何人も行方不明になってるそうよ。」
その日の王太子妃教育の休憩中、4人でお茶を飲みながら一息ついていると、ジャスミン様が口を開いた。
「あら、行方不明の噂は聞いたことがありますけど、聖魔法士なんですの?」
ペネロペ様も興味をそそられた様に、ジャスミン様に問いかけた。
「ええ。父が弟と話しているのを偶然聞いたのよ。最初は気づかなかったそうですけど、調べてみるといなくなった方はほとんどが聖魔法を使う方だそうよ。」
声をひそめるように話すジャスミン様はアイシアをじっと見つめている。
聖魔法を使う者、この中ではアイシアただ一人だ。
「ではアイシア様も気を付けないと。あなたは聖魔法の使い手として、仰々しくも聖女と噂されておりますものね。ヴァンシル殿下の評価を上げるために教会へ行くのも控えた方がよろしいのではなくて?」
クロエが皮肉気に口元を歪めるのを見ながら、アイシアは父とルーファスの事を考えていた。
調査とおっしゃっていたわ。
もしかしたら、この調査のために出かけられたのではないかしら…。
内容はおっしゃらなかったけれど、聖魔法士が行方不明の調査だなんて、私に言うわけないわ。
「アイシア様、大丈夫?」
黙ったままのアイシアを心配げに、ペネロペ様が声をかける。
「ええ。ごめんなさい。少し考え事をしてしまって…。行方不明になった方たちが心配ですね…。」
そうね…と相槌をうちながら、ジャスミン様が不思議そうに首を傾けた。
「なぜ、聖魔法士なのかしら…?悪い組織か何かが、聖魔法を独占したいとか…?それとも聖魔法を使える者を減らすため…?」
聖魔法士が出来ることなんて、たかがしれている。
ケガの治療は出来ても、重い病気は治せない。疲れを癒したり、解毒したり…、後は魔物を弱くしたり、浄化したり…。
「その…ジャスミン様、行方不明の方というのはどこの地域が多いのか知ってらっしゃいますか?」
アイシアに聞かれて困った様にジャスミン様は首を振った。
「さあ、そこまでは…。でも、王国で登録されて派遣されている方々みたいですわ。行方不明者のリストが、王国の聖魔法使いのリストと重なるとのお話でしたから。」
王妃の行った改革の一つだわ。
聖魔法の使える者は王国で登録すると、無料で魔法の教育が受けられる。
国の補助ももらえるし、生活も補償される。
私も教会で慈善活動をするにあたって、聖魔法士として登録はしている。
ランクがあり、難しい症例なのはランクの高い聖魔法士が呼ばれることがある。
私は常駐している聖魔法士ではないため、ランクには登録はしていないが、聖魔法力の強さを知る教会にはお願いとして呼ばれることもある。
「アイシア様、十分、気を付けてくださいね。」
心配げにアイシアの手に自身の手を重ねる赤い瞳の友人に、アイシアは安心させるように笑う。
「ありがとうございます。何が目的かわからないのが少し不安ですが、皆様もご心配頂いてありがとうございます。」
心配なんてしてないわと、そっぽをむくクロエ様と、小さく首を振るだけにとどまったジャスミン様、笑ってアイシアにギュッと抱き着くペネロペ様の三者三葉の対応にアイシアはフフッと笑った。




