視線
モルディール公爵に続き、騎士団の副団長であるユージィン・バルコス伯爵が挨拶に来られた。
「ルーファス第二王子殿下、先日は騎士団と魔術師団との合同での魔物討伐にご協力いただきまして、ありがとうございます。」
赤毛の短髪のガタイの良いユージィンは、ルーファスより12歳年上で、父と一緒に剣の鍛錬をしていため、よく父について魔術師団へ通っていたアイシアを、とても可愛がってくれている方だ。
「その話し方…やめてくださいよ…。」
ルーファスが気まずそうに答える。
もちろん、ルーファスも、ジョゼット侯爵家に来てから、魔法は父が教えているが、師団本部での剣の鍛錬は騎士団から派遣される騎士が教えるため、ユージィンはルーファスの剣の師でもある。豪快で面倒見の良い方で、ルーファスの事も弟のように可愛がってくれている。
「フハッ!なんだ、ルー。さっきまでと態度が違うだろう。シア嬢ちゃんも久しぶりだな。綺麗になったな。」
「ユージィン様!お久しぶりでございます。あら、また傷が増えてません事?」
アイシアが頬から首に出来た傷に眉を顰める。
「あぁ、この前、王都の東に大きな魔物が出たからな。ちょっとしくじった。」
「どんな魔物でしたの?」
アイシアはユージィンに近づいて手を翳し、呪文を唱えつつ問いかける。
傷が綺麗に消えて、ユージィンはアイシアの頭をポンと右手で軽くたたく。
「ありがとな、シア嬢。また男前に戻っちまった。」
ハハハッと笑うと魔物について話し出す。
普通の令嬢は魔物の話など聞きたがらないが、昔からアイシアはどんなことも知りたがった。
ユージィンはいつもしつこいくらいに聞いてくるアイシアに付き合って色々教えてくれるのだ。
「今回は鳥型の魔物だったからな。飛ぶから厄介で、魔術師団に協力頂いたんだ。アーサー殿もありがとうございました。ルーは大活躍だったんだぞ。シア嬢にも見せたかったな。なぁ、ルー。」
「何ですか?そんな話、聞いてませんよ、お父様、ルーファス様。」
キッと二人を睨むと、お父様もルーファス様もそっと目をそらす。
「危ない時は私を連れて行ってくださいと言ってるでしょう?私は聖魔法が使えるのですから、少しはお役に立つはずです。」
プンプンと怒るアイシアを優しい目で見つめながら、ユージィンがまぁまぁと諫める。
「二人とも心配かけたくないんだよ。シア嬢は、殿下の婚約者候補になったんだろ?王太子妃教育も
王女殿下の魔法の先生もしてるんだろ?相変わらず暇見つけては教会行ってるらしいし、本当、このお嬢さんはジッとしてないからな。」
からかうような口調だが、ユージィンも心配してくれてるのがわかる。
蚊帳の外に追いやられたようなすねた気持ちが落ち着いて、アイシアも笑顔を見せる。
「私はユージィン様と違って若いから元気なのです。」
「お、言うなぁ、シア嬢。俺はまだ20代なんだぞ。」
「ギリギリですけどね。」
張りつめていた気持ちが緩んで、ユージィンと近い距離で話していると、グイッと腕をひかれた。
「シア、もう、行くよ。」
「ルーファス様?」
無表情なのに不機嫌さが漂っている。
「お、ルー、なんだ、やきも…」
「行こう!シア。ではまた、バルコス伯爵。」
「え?え…?ルーファス様?」
アイシアの腕を引きながらそのままユージィンから離れるのを、アイシアは不思議そうについていく。
後ろからユージィンの笑い声が聞こえるが、振り向くことも出来ず、アイシアはルーファスの後ろ姿を見つめる。
なんだか魔力が揺れていて耳が赤い。
ルーファス様が実はユージィン様を慕っていることは知っている。
ブツブツとユージィン様の愚痴を言うときもどこか照れくさそうなのだ。
最近、ヴァンシル殿下にも似たような態度でもあるが、ルーファス様は心を許した相手には素直になれないということが最近わかってきた。
可愛い…。
フフッと笑うとアイシアはルーファスの横に並んだ。
「なに?シア。」
「なんでもないですよ。あ、お父様を置いてきてしまったわ。」
「侯爵なら大丈夫だよ。粗方挨拶も済んだしそろそろ帰ろうか。」
「そうですね…。今日はなにもなくてよかった。」
「うん、そうだね…。」
いや
ルーファスはずっと、纏わりつくような視線を感じていた。
ずっと、観察されていた。
振り向くと、視線は消え、嫌な魔力の残滓が残るだけ。
でもわかったことがある。
”ここ”には”闇魔法”の使い手がいる。




