3年の月日
あの日から3年。
ルーファス様の活躍はすごかった。
フェイレイ王国は四方を強国に囲まれた国である。
北の農業国、ルースファレン王国とは国交が盛んでとてもよい協力関係を築いていて、東のガルシア帝国とは先のウィルスの流行で不戦協定を結んだが、西のモルディモア国とは国境のサルム山を巡って小競り合いが頻発していた。
サルム山は魔石が採れる魔物が多い山で、魔物が多いと当然、危険も多いのだが、サルム山は比較的小型の魔物しかいない、恵まれた土地で、取れる魔石も質の良いものが多いため、モルディモア国がその山を欲してよく戦闘が起きていた。
ルーファスは研究の末、2年かけて、不可侵魔法を完成させた。いわゆる結界である。
その因縁の場所を若干15歳の少年が不可侵魔法を広範囲にかけて、他国が介入できないようにしたのだ。
国境付近が強硬になったことで、モルディモア国も手が出せないようになり、
厄介ものの第二王子であったはずのルーファスが有能な魔術師になったと、有名になったのだ。
その後さらに1年かけて、フェイレイ王国の魔獣出没地域に結界を張った。王国内は一気に平和になり、国民はルーファス第二王子を素晴らしい魔術師だと褒め、魔術師団長であるジョゼット侯爵の後継になりうる有能な第二王子として名を上げ始めた。
その間、アイシアはローズベリー王女の友人兼教育係の傍ら、王太子妃教育も受けることになり、毎日王宮に長時間通うことになった。
先に王太子妃教育を受けていた3人の令嬢から大きく遅れたものの、もともと勉強の好きなアイシアはすぐに追いつくことになった。
婚約者候補の3名とは、一緒に授業をうけることになり、何度も顔を合わせるうちに、少しづつ親しくなった。特にジルモア公爵家のペネロペ様とはなぜかとても気が合った。
ペネロペ様は艶やかな黒い髪に赤い瞳の美しいが少しきつめの顔立ちながら、話すととても愛嬌のある方で、王太子ヴァンシル殿下とは幼馴染なのだそうだ。
ヴァンシル殿下の側近である兄と共に、幼い時から顔を合わせることが多く、同じ年のせいか遠慮のない関係らしい。
「殿下ははっきり言って、ちょっと頑固で融通が利かないんですの。子供のころからこうと思ったらなかなか曲げなくて、兄も苦労してましたわ。でも、とても正義感に溢れた方で、ご自身の未熟だと感じたことははっきりと認める潔さと、周りの人たちの意見に耳を傾けることが出来る公正な方だから、きっと良い国王になられるだろうと思います。婚約者候補に決まった時は、いきなり幼馴染が婚約者だなんて、頭が追いつかなかったくらいですの。」
フフッと笑いながら昔の思い出話をされるペネロペ様からは、ヴァンシル殿下に対する信頼が見える。
アイシアより2つ年上のペネロペ様は17歳。
サラサラと流れる黒髪がとても綺麗で、アイシアは会うたびにうっとりと手を伸ばしてしまう。
モルディール公爵家のジャスミン様は茶色の髪に若草色の瞳の一見すると大人し気な印象のある可愛い方で、話すとヴァンシル殿下を心酔している様子がわかった。
最初の挨拶の時にアイシアに冷たかったのがこのジャスミン様だ。
今でも仲良しとはいえないが、高位貴族らしく清らかな品もあり、当たりさわりなく会話する程度には親しくなったと思う。
そしてお茶会でも話したヘリオット公爵家のクロエ様は、完全にアイシアを敵視していた。
遅れて始まった王太子妃教育を、アイシアがすぐに追いついたことも気に入らなかったようだ。
何かにつけ、突っかかってこられる。幼い時からヴァンシル王太子殿下と結婚するのは自分だと、両親や周りに言い聞かされて育てられたようで、私だけでなく他の二人にも気を許さない雰囲気があった。
特に格下の侯爵家で後から候補入りしたアイシアにはことさら冷たく厳しかった。
だが、アイシアはペネロペ様と一緒に過ごすことが多かったし、ローズベリー王女が心配してしょっちゅう覗きに来てくれるため、それほど気にはしていなかった。
その日の授業も終わり、与えられた私室で本を覗きながら復習をしている、キラキラ光る淡い金髪に大きなエメラルドの瞳の美少女を見つめながら、ペネロペは口を開いた。
「アイシア様は本当にうっとりするほど綺麗ね。知ってる?最近あなたの噂が夜会でも広がっているのよ。」
「噂??」
アイシアはまだ15歳のため、夜会には参加をしたことがない。
貴族の娘は16歳でデビュタントを迎える。
既にデビュタントを終えているペネロペは、何度か参加をしているようだ。
「ええ。アイシア嬢は悪女だって。王太子と第二王子を手玉にとり、二股しているとかって。」
「えぇ…っ!?なに、それ。」
クスクス笑う様子に、アイシアはげんなりとした顔で声を上げた。
ヴァンシル殿下とはあれからとても良い関係を築いていると思う。
最初の顔合わせから、すぐに王太子妃教育が始まり、忙しく過ごす中ある日、ローズベリー王女と一緒にいる時に、ヴァンシル殿下が会いに来たのだ。
「あれから考えてみた。あなたに言われて気づいたことがある。私は弟に会おうと思うが、いきなり二人で会うのは気まずい。どうかアイシア嬢が付き添って、ルーファスと会う時間を作ってもらえないだろうか…?」
真摯なその瞳に、突き動かされアイシアはもちろんですと答えた。




