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  作者: しゅう


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光と闇4

二月の凍てつく朝。ランヴァールの広場は、かつてないほどの群衆で埋め尽くされていた。

大聖堂のバラ窓を焼いた伝説の職人が、悪魔に魂を売った。そのセンセーショナルな噂は、信心深い市民たちを熱狂的な狂気へと駆り立てた。立ち上る数千人の白い息と、興奮した怒号が広場の空気を濁らせ、重く停滞させている。


ルカは審判官席の傍ら、特等席とも言える場所に座らされていた。膝の上には、コンラートが用意させた最高級の羊皮紙――若牛の皮を極限まで薄く剥いだ、一点の曇りもないヴェラムがある。そして、隣には新しく削り出された、黄金の装飾が施された羽根ペン。

コンラートは、自らの正義が完璧に文書化され、永劫に教会の手柄として残ることを確信し、満足げに鼻を鳴らした。


「始めよ」


コンラートの低い声が合図となり、巨大な火刑台の足元に松明が投げ込まれた。

乾燥した薪が爆ぜる音とともに、赤い舌のような炎が這い上がる。その瞬間、群衆からは「光に栄光あれ!」「悪魔を焼き尽くせ!」と、地鳴りのような歓声が上がった。彼らにとって、この炎は不浄を焼き払う神の慈愛であり、秩序の証明であった。

だが、ルカの目には違って見えた。炎がバルタザールの痩せこけた肉体をなめるたびに、大聖堂のステンドグラスから鮮やかな色が剥がれ落ち、世界が絶望的な灰色に死んでいくように見えた。神を称えるための「光」が、その光を作った「知恵」を焼き殺している。そのあまりにも歪な相似に、ルカの胃の奥は凍りついた。


ルカのペンが動いた。

しかし、そのペン先が羊皮紙に刻み込むのは、コンラートが待ち望んでいる「悪魔の浄化」でも、教会の勝利を称える空虚な賛辞でもなかった。

ルカは、狂ったように文字を書き連ねた。バルタザールが硝子を焼くために捧げた一生の熱量を。彼が砕かれた指でルカに託した、闇と光の不可分な相似という哲学を。そして、その背後に立つコンラートの瞳に宿る、黄金への飽くなき渇望と、教会の美しさを支えるための醜悪な集金構造のすべてを。

ペン先が紙を削り、インクが血のように吸い込まれていく。もはやそれは記録ではなく、この偽りの世界に対する、ルカ自身の「魂の写本」であった。


炎が激しさを増し、火刑台は巨大な光の渦と化した。

熱風が巻き上がり、飛び散る火の粉が雪のように舞う。その猛烈な光の中に、バルタザールの影が細く揺れた。


その瞬間、老人は一瞬だけ、ルカの方を見た。

肉体が焼かれる地獄の苦痛に歪んでいるはずのその顔に、驚くほど澄んだ、確かな微笑みが浮かんだのをルカは見逃さなかった。それは、かつて暗い工房で硝子を見つめていた時の、あるいは少年の日に灰の中に文字を見つけたルカを祝福した、あの「真実の光」と同じ輝きを湛えていた。

バルタザールは死んでいくのではない。彼は今、自らが一生をかけて焼き続けた硝子そのものになろうとしているのだ。この世の光と闇を等しく透過し、その輪郭を鮮やかに映し出すための、透明な真理へと。

「……書け、ルカ。最後の一文字まで、私の勝利を、この光の凱旋を記録せよ」

隣でコンラートが、立ち上る黒煙を神への供物であるかのように見つめ、陶酔した声で囁く。

ルカは最後の一筆を、魂のすべてを込めて羊皮紙に叩きつけた。

『光は闇を食らい、闇は光を抱く。この沈黙の相似こそが、神の不在を証明する唯一の言葉である』


処刑が終わり、広場には白く冷たい灰だけが残された。

祭りの後のような虚脱感が群衆を包む中、ルカは静かに立ち上がった。

彼は完成した羊皮紙を、無言でコンラートの前に差し出した。


「これは……」

期待に満ちた表情で読み進めるコンラートの顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。


「貴様、何を……! これは記録ではない! 呪詛だ、恐るべき反逆だ! 私を、神聖なる教会を、この都を、何だと思っている!」

コンラートの怒号が響く。しかし、ルカは揺るがなかった。


「それは、貴方が決して見ないようにしてきた『相似形』です、コンラート様。光を維持するために貴方が生み出し、切り捨ててきた闇が、今、貴方の掲げる正義と同じ重さ、同じ筆致でそこに定着しました。貴方はそれを消すことはできない。それを破り捨てれば、貴方の正義もまた、その瞬間に消滅するからです」


ルカは驚愕と恐怖で言葉を失ったコンラートを置き去りにし、騒然とする広場へと背を向けた。

バルタザールの死を見届け、興奮から覚めやらぬ群衆は、それぞれの家路へと急ぎ、あるいは互いに神の正義を語り合って混乱の極みにあった。黒煙が視界を遮り、人々がぶつかり合う雑踏。その混沌こそが、ルカに与えられた唯一の逃げ道だった。

ルカは、かつて憧れた「光の秩序」の象徴である豪華な書記の法衣を、足元の泥の中に脱ぎ捨てた。その下には、石工の息子であった頃の、煤けた古いチュニックを着込んでいた。

彼は写字室にも、司教の執務室にも戻らなかった。

預けていたわずかな私物も、教会から与えられた社会的地位も、石工の息子としての重い過去も、すべてその場に捨て置いた。


彼の手元に残されたのは、使い古して短くなったペン一本と、半分のインクが入った小さな瓶だけ。

大聖堂の巨大な門をくぐり、街の境界へと向かう。

空からは、再び白く不透明な霧が降りてきていた。

ルカは歩きながら、自分の内側にある感覚を確かめた。

自分はもう、光の側に立つ人間ではない。かといって、闇に堕ちて絶望したわけでもない。

白き紙(光)の上に黒きインク(闇)で線を引く。その「線」そのものが、今、自分の歩んでいる道なのだ。


自分自身が、光と闇のどちらをも等しく内包し、その矛盾を受け入れながら境界線の上に立つ「相似象」そのものであったことに、ルカは辿り着いた。

文字とは、境界を定める断絶の道具ではなく、両方を繋ぎ止めて意味を与えるための、たった一つの楔だったのだ。


街の外縁を越えると、そこには名もなき荒野がどこまでも広がっていた。

ルカの足取りは、かつて重い石を運んでいた時のように泥を掴んで力強く、そして、かつて静謐な写字室で筆を走らせていた時のように、どこまでも軽やかだった。

彼は、新たな世界の相似を記すために、一歩ずつ、深く冷たい霧の中へとその身を浸していった。

遠ざかる背中を見送る者は誰もいなかったが、彼が踏み出す足跡だけが、真っ白な霧という名の巨大な紙の上に、消えることのない「真実」を刻み続けていた。

最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。


本作は、カタカムナ第17首に記された「万物相似象」という言葉を道標に描き進めてまいりました。

光が闇を支え、闇が光を縁取る。その相似のことわりを、中世の異端審問という過酷な舞台装置の中で表現したいと考え、生まれたのが本作です。

前作「ティアマト物語」から形を変えて引き継がれた「光と闇」の命題が、ルカという一人の書記の旅立ちをもって一つの区切りを迎えました。

この物語を最後まで見届けてくださった皆様に、厚く御礼申し上げます。


よろしければ、下の★~★★★★★での評価や感想をお寄せいただけますと幸いです。

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