イベリアの赤き大地1
スペイン南部、アンダルシアの夏がもたらす陽光は、地表のあらゆる水分を強奪していく執拗な渇きそのものだった。かつて大西洋と地中海を結ぶ交易の要衝であり、古代の歴史家たちが豊穣なる幻の王国「タルテッソス」の跡地として指し示した広大な湿地帯は、現在の衣服にまとわりつく乾いた砂礫の海へと姿を変えている。地平線は陽炎によって激しく歪み、遠くに見えるオリーブの群生さえもが、まるで燃え尽きた灰の塊のように白茶けて見えた。スコップの刃先が、極度に乾燥して固結した赤茶けた土壌を捉えるたびに、微細な塵の雲が湧き上がり、作業に従事する者たちの視界を容赦なく遮る。その細かな粘土質の粒子は、防塵マスクの隙間をかいくぐって鼻腔を焼き、汗と混じり合って皮膚の表面にどろりとした不快な層を形成していった。
「いいか、我々がここで証明すべきは、紀元前六世紀における先住イベリア人とカルタゴ、あるいはフェニキア人との間で行われていた、泥臭いまでの現実に即した物資の流通網だ。ロマンや伝説などという言葉は、予算を審査する中央の役人たちの前だけで使えばいい。我々学徒が掴むべきは、論文の脚注を埋めるに足る、疑いようのない客観的な物証だけだ」
日よけのために張られた白いキャンバス地のテントの下で、調査団の総責任者であるアルヴァレス教授が、冷えたミネラルウォーターのボトルを片手に、白髪混じりの顎髭を揺らして熱弁を振るっていた。彼の声は、乾いた風にかき消されることなく、発掘現場の掘削区画全体に傲慢に響き渡る。教授の周囲を囲む大学院生や熱心な学部生たちは、じりじりと照りつける太陽の下で額の汗を拭うことも忘れ、教授の一言一言を手帳に書き留めていた。彼らの目は、古代への純粋な探求心ではなく、いかにしてこの発掘成果を秋の国際学会での自己のプレゼンテーションに繋げるか、いかにして次期の研究予算の配分枠を確保するかという、極めて現実的で世俗的な野心によってギラギラと輝いている。
彼らにとって、この数千年の歳月をかけて堆積した赤茶けた大地の断層は、自らのキャリアを飾り立てるためであり、学術界という名のヒエラルキーを上り詰めるための踏み台に過ぎなかった。出土した土器の破片の表面に残る微細な文様を顕微鏡で覗き込み、それがギリシャ由来の模倣品であるか、それとも現地の土着の工房で作られたものであるかを分類する作業は、彼らにとって記号の処理と同義である。そこに、かつてその器を手にして生きていた人間の息遣いや、その大地が内包する圧倒的な時間の厚みに対する畏怖などは微塵も存在しなかった。データ化され、グラフに縮小され、学会誌の限られた誌面に収まることだけが、彼らにとっての「真実」の定義だったからである。
「おい、ヴィリアトゥス。そっちの区画から出た土砂の選別はどこまで進んでいる。手を休めるなよ。地表から2メートル下の第四層から出た土砂は、すべて3ミリのメッシュの篩にかけて、亜鉛の微細な滓や青銅の削り屑が見落とされていないか確認しろと言ったはずだ。地味な作業だが、それこそがフェニキア人との金属交易を立証する決定的な打鍵になるんだからな」
調査団のナンバー二を気取る、眼鏡をかけた肥満体の大学院生セバスティアンが、首に巻いたタオルで派手に汗を拭いながら、高圧的な口調で指示を投げかけてきた。ヴィリアトゥス・バエナは、その言葉に対して声を発することなく、ただ首を数ミリ下げることで、最低限の了解の意思を示した。彼の細く引き締まった指先は、すでに周囲の誰よりも多くの土砂を扱い、誰よりも正確に、スコップが触れた地中の感触を捉えていたが、それを誇るような素振りは一切見せなかった。
ヴィリアトゥス・バエナ。その古風極まりない名前は、大学の講義の初日に名簿が読み上げられるたび、常に奇妙な沈黙と、それに続く教授たちの軽い失笑を誘ってきた。紀元前にローマ帝国の圧倒的な軍事力に対して果敢にゲリラ戦を挑み、半島の先住民族の独立を守ろうとした伝説的な英雄ヴィリアトゥスの名と、アンダルシアの最果ての鉱山地帯に古くからへばりつくように存在してきた「バエナ」という土着の姓の組み合わせは、現代の洗練されたマドリードやバルセロナの若者たちの中にあって、異様なほど泥臭く、不吉なほど頑固な血脈の存在を予感させるものだった。同級生たちは彼のことを「教科書から這い出てきた迷子」と呼び、教授たちは彼を「古い地名がそのまま歩いているような男」と冗談めかして評した。しかしヴィリアトゥスは、そのような周囲の評定を完全に遮断された真空の底で聞くように、常に無表情に聞き流してきた。
彼は周囲の人間たちが口にする「交易ルートの解明」「ローマ以前の小規模な流通網」「学会の椅子」といった言葉を、頭の中で冷徹に咀嚼し、そして吐き捨てていた。彼らが熱を上げている学術的成果など、この無限に続く赤茶けた大地が秘めている真の姿の、ほんの薄皮一枚を爪で引っ掻いた程度のものに過ぎないことを、ヴィリアトゥスは直感的に理解していた。いや、理解というよりも、彼自身がその事実を最初から知っていたという方が正確だった。周囲がデータの集計や論文の構成という名の客観性の檻に閉じこもれば閉じこもるほど、ヴィリアトゥスの精神は彼らから静かに、しかし決定的に遠ざかっていく。
掘削区画の最下層、陽の光が届きにくい深い溝の底で、ヴィリアトゥスは一人、衣服を赤黒く染め上げながらスコップを動かし続けていた。3ミリの金網の篩の上に土砂をぶちまけ、規則的な振動を与えて細かい砂粒をふるい落としていく。金網の上に残るのは、乾燥して丸まった植物の根の死骸や、数百年前に死んだ野ネズミの骨の破片、そしてどこにでもある無価値な礫ばかりだ。セバスティアンが求めるような、カルタゴの栄華を証明する青銅の破片などは、そう簡単に姿を現さない。だが、ヴィリアトゥスにとってその選別作業は、決して退屈な苦行ではなかった。彼は、金網の上で転がる石の一つ一つの重量感や、土砂が擦れ合う微かな音の差異を鋭敏に感知していた。
彼らの足元に横たわるこのイベリアの赤き大地は、幾度もの征服と破壊の歴史をその肉体に刻み込んできた。ローマ、カルタゴ、フェニキア、そしてそれらよりも遥か昔、文字を持たないとされているさらに古い先住の人々。現代の考古学は、発掘された遺物の層を年代ごとに綺麗に分類し、まるで階段を上るように歴史が進化してきたかのように説明しようとする。しかし、ヴィリアトゥスの感覚における時間は、そのような直線的なものではなかった。あらゆる時代の記憶が、この乾燥した赤い粘土の中に、溶け合い、重なり合い、巨大な一つの質量として脈打っているように感じられるのだ。彼がスコップを土に突き立てるとき、それは過去の遺物を掘り起こしているのではなく、現在もなお大地の底で生き続けている巨大な構造物の、その一部に触れているような倒錯した感覚を彼に与えていた。
「おい、バエナ。ちょっと休めよ。お前、さっきから一言も喋らずに機械みたいに動いているが、熱中症にでもなったら調査団の迷惑なんだよ」
作業着の胸元を大きくはだけた同級生の一人が、めんどくさそうに歩み寄ってきて、ヴィリアトゥスの足元に水の入ったプラスチックのカップを置いた。その態度には、熱心すぎる変わり者に対する微かな蔑みと、自らの怠惰を正当化するための牽制が含まれていた。ヴィリアトゥスは作業を止めず、ただ視線だけをわずかに動かしてカップを一瞥した。
「ありがとう。問題ない」
彼の声は、長時間の沈黙のせいで少し掠れていたが、その響きには周囲の誰とも交わろうとしない明確な境界線が引かれていた。同級生は、その拒絶の気配を察して肩をすくめ、すぐにテントの下の涼しい影へと逃げ帰っていった。一人残されたヴィリアトゥスは、再び篩を揺らす作業に戻る。
周囲の学生たちが、スマートフォンの画面を覗き込んでマドリードの天気や、週末の予定、あるいはSNSの通知に一喜一憂している声が、風に乗って途切れ途切れに聞こえてくる。彼らはスペインという現代の国家のシステムにしっかりと保護され、その安全な枠組みの中から、この荒涼としたアンダルシアの辺境を「調査」しにきている。彼らの皮膚は白く、その思考は現代の都市の論理で満たされている。しかし、ヴィリアトゥスは違った。彼の皮膚は、この数週間の発掘作業によって、周囲の泥や砂礫と見分けがつかないほどに赤茶けて日焼けし、その手足の筋力は、まるでこの土地の岩石から削り出されたかのように硬く引き締まっていた。
彼の中に流れる血液のどこかが、この不毛な赤き大地と、不気味なほどの親和性を示している。地下深くへと続く掘削の溝が深まるにつれ、周囲の人間たちが息苦しさや疲労を訴える中で、ヴィリアトゥスだけは、むしろ呼吸が深く、楽になっていくのを感じていた。地層が重なり、より古い時代へと肉体が近づいていくそのプロセス自体が、彼にとって失われた故郷への帰還であるかのような、奇妙な安らぎをもたらしていたのである。教授たちが大真面目に議論している「歴史の真実」が、いかに浅薄で、いかに人間の都合に合わせて捏造されたものであるか。それを指摘する言葉を、ヴィリアトゥスは持たなかったし、持つ必要性すら感じていなかった。ただ、自らの肉体が、足元の土壌の底から発せられる微かな振動を、静かに、しかし確実に受信し始めているという事実だけが、彼の世界を支配していた。
太陽が天頂を過ぎ、発掘現場の周囲にわずかな影が伸び始める時間帯になっても、赤茶けた大地の熱気は一向に衰える気配を見せなかった。むしろ、地表に蓄積された熱が、じわじわと這い上がるようにして作業者たちの体力を削り取っていく。アルヴァレス教授はすでにテントの奥でパイプに火をつけ、地元の名士からの寄付金に関する書類に目を通し始めていた。セバスティアンたち院生も、暑さに耐えかねて作業の効率を落とし、いかにして今日の作業を早めに切り上げるかの言い訳を話し合っている。
そんな俗世の停滞と弛緩のただ中にあって、ヴィリアトゥス・バエナのスコップだけが、冷徹なメトロノームのように正確なリズムで動き続けていた。彼が掘り起こし、篩にかけている土砂の量は、他のメンバーの数倍に達していたが、その呼吸が乱れることはついになかった。周囲の人間たちに対する冷ややかな軽蔑すら、今の彼の心の中には残っていなかった。彼はただ、この大地の皮膚を一枚ずつ剥ぎ取っていく作業のその先に、誰も見たことのない、しかし自分がずっと待ち望んでいたはずの「何か」が、圧倒的な質量を持って横たわっていることを確信していた。
乾燥したアンダルシアの風が、再び掘削区画を吹き抜け、ヴィリアトゥスの長い前髪を揺らした。彼の瞳は、陽光を反射して赤茶色に濁った大地の色彩をそのまま映し出し、その奥には、周囲の誰一人として立ち入ることのできない、深く、閉じた知性の炎が静かに揺らめいていた。彼らの「客観的な成果」の探求という名の茶番劇のすぐ足元で、ヴィリアトゥス・バエナという名の孤独な楔が、イベリアの赤き大地の核心へと、一歩ずつ、確実に打ち込まれようとしていた。
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