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第435話 ヘビー級狸警部現る!

「いけないわねおふたりさん! そのダイヤはピンキンテイシ王国の国宝! 返してもらうわよ!」


「その国宝はマーマイト帝国とピンキンテイシ王国の友好の証として献上されたみたいだけど!」


「笑わせないで! ピンキンテイシ王国に攻め込んだ暴君イグニス・マーマイトが強奪したも同然じゃない!」


「国宝を守り通せないような弱い国ならどうせそのうちイグニス様以外の誰かに奪われたと思うけどね!」


 緑のドレスの女が改造魔導スタンガン片手に襲ってくるのを名刀アケガラスで捌く。カガチヒコ師匠からの贈り物である黒刃の小太刀は子供の体の時は日本刀感覚で扱えたが成長した今となっては少し小さく感じる。とはいえ長年体に馴染んだ相棒だ。小太刀とスタンガンによるチャンバラは些か小ぶりだが酒や煙草や熱狂に酔い痴れた観客にとっては素晴らしい見世物だったようで、みんな大盛り上がり。


「悪いがチャンバラで負けるつもりはないよ! これでも毎朝師匠に扱かれてるからね!」


「く!?」


 改造スタンガンでは分が悪いと見るや今度は超高速でボクシンググローブが飛び出す拳銃にターボエンジン付きハイヒールによる超高速回し蹴りからの踵落とし。麻痺毒針が飛び出す指輪に睡眠ガスを噴射するコルセットなど、魔導メカニックの名は伊達ではないらしい。


「いい玩具だ! 次から次へと楽しかったよ! だが俺には通じない!」


「が!?」


「ガブリエラ!」


「ラファエラ!」


 緑のドレスの女が追い詰められ、小太刀の峰で脳天をぶん殴られそうになった瞬間、突然戦いを遠巻きに見ていた給仕が乱入してきた。どうやら最後のひとりは給仕に変装して潜入していたらしい。ズボンの内側に隠していた折り畳み式の槍を取り出し、俺と緑のドレスの女の間に割って入る。


「なるほど君が槍を高速回転させて空を飛ぶと噂の槍使いか!」


「馬鹿ラファエラ! なんで私なんかを庇ったの! これじゃあ計画が台無しじゃない!」


「仲間を見捨てられるわけないだろ! 来い! 今度は私が相手だ!」


 麗しい友情だな。だがどれ程感動的だろうと、力が伴わなければ無意味だ。槍使いは俺に瞬殺され、緑のドレスの女共々あっさり脳天に峰打ちされて気絶させられた。


「ガブリエラ! ラファエラ! く!」


「遊びは終わりだ! 名探偵チョップ!」


 赤いタキシードの男装の麗人もイグニス様のチョップを首筋に叩き込まれてあっさり気絶した。最初から本気でやれば瞬殺できただろうに。あえて七夕パーティに参加しているお客さんのために見せ場を盛り上げようとするあたり、相変わらず目立ちたがりなのは変わらないねあなたは。そこが彼のいいところであり悪いところでもあるのだけれど。


「諸君! 名探偵イグニスの勝利である! 正義は勝つ! 名探偵がこそ泥風情に負けるはずがないのである! インサニティ・ピッグダイヤは守られた!」


 イグニス様は俺を手招きして呼び寄せると、そのまま俺の手を取り壇上に上がった。と同時に停電が復旧する。会場は沸いた。そらもう大歓声よ。義賊を名乗る正義の怪盗集団グリーンエンジェルスは全員逮捕された。


「国際警察のマミアナ警部であります! この度は御協力感謝するであります!」


「うむ!」


 グリーンエンジェルス逮捕の通報を受け現れたのは、イグニス様に匹敵するレベルの巨体を誇る狸獣人の警部だった。いかにも刑事らしい服が今にもはちきれそうな程の太鼓腹具合だ。ガタイのよさならクレソンにも匹敵するかもしれないが、彼は前後にも横にもふくらんでいる分クレソンの倍はありそうな巨漢に見える。どうやら彼は怪盗団グリーンエンジェルスが現れるかもしれないと考え、参加者のフリをして七夕パーティ会場に潜入捜査していたらしい。すぐに彼の部下である警官隊も駆け付けてきて、離宮の警備をしている帝国の軍人さんたちと揉め始めたが彼がイグニス様に事情を説明することで事無きを得る。


「長年散々コケにされ続けたグリーンエンジェルス逮捕は国際警察の悲願でありますゆえ! 後日感謝状を贈らせて頂きたく!」


「はあ。そりゃどうも」


「ホーク・ゴルド殿! お会いできて光栄であります! 以前よりお噂はかねがね!」


「どうせ悪評まみれの悪い噂なんでしょ?」


「とんでもない! ゴルド商会からは国際警察に対しても多大な便宜を図って頂いて! 是非お父様によろしくお伝えくださいであります!」


「はいはい」


 狸獣人の警部さんが満面の笑みで俺の手を両手で握ってブンブンするのをイグニス様は若干面白くなさそうに眺めている。なんか距離近くない? 握手どころかハグまでされそうな勢いなんだけど。その太鼓腹でハグされたら俺の全身がでっぷりお腹の肉というか脂肪に埋もれちゃいそうでこわいんだけど!


「おい、近いぞ」


「は! こいつは失礼をば!」


 狸警部と俺の間にイグニス様が割って入る。どしたん突然。狸警部が一歩引いたので、イグニス様も一歩引く。


「ホーク・ゴルド殿は大のもふもふ好きと伺っております! 如何でありますか! よければ本官のもふもふお腹に顔を埋めて深呼吸など! このお腹の上で昼寝をしてみたいと国際警察内では評判の自慢の太鼓腹でありますゆえ!」


 狸警部も諦めが悪い。露骨に大胸筋をアピールされながらグイグイ迫られるとちょっと圧が強すぎる。だから今にも密着しそうなんだって! 今度はイグニス様は割って入っては来なかった。ので自力で撃退すべく俺も一歩後ずさる。


「結構であります!」


「そうですか! それは残念であります! こちら本官の電話番号であります! よろしければいつでもご連絡頂きたく!」


 狸警部は名残惜しそうに俺から離れた。彼の引き連れてきた部下の警官隊がグリーンエンジェルスを会場の外に運び出していく。


「それでは本官は失礼するであります! 早速グリーンエンジェルスを国際警察本部に連行せねば!」


「はあ、お疲れ様です」


「本官、いつでも連絡お待ちしてるであります!」


 ウインクとともにそう言い残して彼は去っていった。グリーンエンジェルスは逮捕され、七夕パーティ会場は再びの賑わいを取り戻している。だというのにイグニス様は猛烈に不機嫌そうな顔で、深々とため息を吐いた。


「なんだったんですかね、あのやたら濃い警部さん」


「馬鹿者。奴が本物の怪盗グリーンエンジェルスだ」


「へ?」


「まんまとインサニティ・ピッグダイヤをすり替えられおって。余は呆れたぞ。この未熟者めが」


「そんなん言われましても」


 どうやら名探偵に種明かしをしてもらう必要があるらしい。首を傾げる俺の首元で、どうやら気付かぬ間にすり替えられていたらしい偽物のピンクダイヤの首飾りがキラリと揺れた。

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