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第434話 インフィニティ・ピンクダイヤ

 インフィニティ・ピンクダイヤ。それは∞の形をした世界最大のピンクダイヤモンド。永遠の愛と平和の象徴だったそれは、永らくある国の国宝として大事に保管されていた。のだがそんなインフィニティ・ピンクダイヤの首飾りをかの暴君イグニス・マーマイトが国ごと簒奪し、自分の愛人に下賜したらしいという噂が世界中で話題になっている。


「誰が愛人やねん!」


「致し方あるまい。アンチにとってわかりやすさは大事だからな。友達にあげた、より愛人にくれてやった、の方が叩き棒としては都合がよかろうよ」


 実際には「なんだこの豚の鼻の形のピンクのダイヤモンドは! あまりにも面白すぎるであろう! 面白い! これをホークへの手土産にする! 今日からこれはインサニティ・ピッグダイヤだ!」と面白半分に俺に寄越してきただけなのだが。それはそれであまりにも邪悪すぎやしないだろうか。言われてみれば豚の鼻の形にしか見えないピンクダイヤの首飾りを装備した俺にイグニス様は大爆笑だ。


「盗品を横流しするのやめてくれませんかねえ」


「何を言う! これをくれてやるからどうか家族と民の命だけは、と涙ながらに献上されたものだぞ! 合法だ!」


「なお悪いわ!」


 イグニス様がそんな調子だから、義賊を名乗る怪盗団が奪われたインフィニティ・ピンクダイヤを奪還すべく動き出したらしい。普段なら「大変だ! 泥棒がホークちゃんを狙ってる!」と父さんが大騒ぎするところだが、現在俺は帝国にいるため父さんはここにはいない。


「名探偵VS怪盗団! なんとも燃える戦いではないか! よかろう! その挑戦受けて立つ!」


 イグニス様は嬉々として俺に送られてきたという予告場を見せびらかした。


「何々? 来る7月7日の七夕パーティの夜。奪われたインフィニティ・ピンクダイヤを奪還しに参ります。正義の怪盗団グリーンエンジェルス?」


「うむ。実は余の主催する七夕パーティでインサニティ・ピッグダイヤのお披露目をすると宣言してしまったからな。狙うには格好のチャンスであろう。無論、そなたにはインサニティ・ピッグダイヤの首飾りをつけてパーティに参加してもらう!」


「拒否権は!?」


「ない!」


「悪いけど俺ちょうどその日はみんなで流しそうめん大会やる予定が入る予定なんだよね」


「よかろう! 七夕パーティ会場に世界一巨大なスーパーウォーター流しそうめんスライダーを作り、全員を招待してやろうではないか! そうめんを我が身にまとわせた余が芸術的に滑り降りる様を見るがいい!」


「やめて! 食べ物を粗末にしたら炎上しちゃうから!」


 そんなわけで名探偵イグニスVS怪盗団の戦いの火蓋が切って落とされた。


「優秀なる我が部下たちが集めた情報によるとだ。グリーンエンジェルスのリーダーはミカエラ。魔術にも奇術にも話術にも詐術にも精通した世界一の女マジシャンだそうだ。普段は世界中で恵まれない子供たち相手に手品を見せるボランティアをしながら各地で悪の金持ちから宝石や絵画などを奪い恵まれない子供たちに富をばら撒いているらしい。その右腕と呼ばれるのが凄腕の女魔導メカニック、ガブリエラ。こいつは帝国技研に匹敵する程の技術力を持った天才でありミカエラの恋人だそうだ。そして新入りのラファエラは凄腕の女ランサー! 槍を高速回転させて空を飛ぶらしいぞ! 是非一度生で見て見たいものだな!」


「うわあ」


 相変わらずイグニス様が絡むとイロモノがわいてくるな。いやこの世界そんな奴らばっかか。


「そもそもこいつらなんの権利があって取り戻すとか義賊とか言ってるんだろうね。元々ピンクダイヤがあった国の出身とか?」


「さてな。いかなる理由であれ余を楽しませてくれるのならそれでよい!」


 そんなわけであっちゅう間に7月7日になった。7月7日の夜7時から、イグニス様が新たに建設した、パーティホールの天井全体が巨大な防弾ガラス張りの天窓になっている星見の離宮で開催される七夕パーティは飲めや歌えや踊れや騒げやの乱痴気騒ぎな楽しいパーティだ。参加者は全員星の仮面をつけて、顔も名前も身分もわからない状態で楽しむ仮面舞踏会。勿論主役であるイグニス様は仮面をつけていても露骨に誰だか一目瞭然。その隣で件のピンクダイヤの首飾りをつけて御馳走を頬張る俺の姿も目立つこと目立つこと。興奮作用のある食材や酒が多めに使われた料理や飲み物のせいで、会場の熱狂もどんどん過熱していく。四方八方から伸びてくるダンスにお誘いの手をはたき落としながら、俺はイグニス様の傍を離れないように努める。


「諸君! 今宵はよくぞ集まってくれた! さあ見るがよい! これが永遠の愛と平和の象徴! 豚の鼻の形をした世界最大のピンクダイヤモンド! インサニティ・ピッグダイヤである!」


 壇上に上がりマイクパフォーマンスをするイグニス様の咆哮に会場中から熱狂渦巻く歓声が沸き上がる。無礼講の馬鹿騒ぎに参加してるだけあってどいつもこいつも馬鹿揃いだ。或いは日頃のストレスや鬱憤を仮面舞踏会で発散しているのかもしれない。四方八方から俺の胸にキラリと輝くピンクダイヤに視線が注がれ、それから星の仮面をつけた俺本人にも注目が集まる。


「どうやら今宵! この宝石を狙う怪盗団がこのパーティ会場に侵入しているらしい! 実に結構! この名探偵イグニスの緋の眼を盗み、いかにしてこのピンクダイヤを盗み出すのか! 皆の者! 怪盗団、グリーンエンジェルスと名探偵イグニスの直接対決に注目せよ!」


 ちなみに七夕パーティ会場に流しそうめん用の装置はなかった。ちょっとホッとした。イグニス様は歌と音楽に合わせてディスコよろしく踊りまくっているし、参加者らも相手を見付けて踊りまくっている。根が陰キャの俺には陽キャの集まりは辛い。事件起こすならさっさと起こしてくれないかな怪盗団。


「可愛い坊や。お姉さんと踊らない?」


「素敵なお兄さん。私と踊りましょうよ」


「あら駄目よ。お兄ちゃんは私と、ね?」


「キュートな子豚ちゃん。おじさんと一曲如何かな?」


「ふふ。こんなお婆ちゃんでもよければお手を拝借」


「ねえ素敵なあなた。私と朝まで踊り明かしましょうよ」


 入れ替わり立ち代わり星の仮面をつけた大勢の人間から踊りに誘われる。彼女たちも期待しているのだ。イグニス様から国宝級のダイヤモンドを贈られた俺という存在に。そして俺が胸から下げている世界最大のピンクダイヤに。そしてそれが今宵いかに盗まれるのか、或いは名探偵イグニスが怪盗団の犯行を防ぐのかを。だからみんな興味津々で俺たちに近付いてくる。お陰で誰も彼も怪しいったらない。


「きゃあ!?」


「なんだ!?」


 その時である。会場の魔導ライトが一斉に停電し、一瞬でパーティ会場は真っ暗になった。


「うわあ!?」


 それと同時に四方八方から何かが弾ける炸裂音が響き、パーティ会場内に煙が充満する。毒ガスか!? さすがに毒ガスではなかった。睡眠ガスでもない。ただの煙玉だ。


「来たか! さて如何とする!」


 満面の笑みを浮かべたイグニス様は壇上から飛び降りると、一瞬で俺の隣に降り立った。


「来たか! 食らえ名探偵パンチ! 名探偵キック!」


 暗闇の中にイグニス様の声と打撃音が響き始めた。一体何が起きているのかわからずパーティの参加者たちがどよめく。


「明るくなれ!」


 このままでは埒が明かないと判断した俺が魔法の光で会場を照らすと、そこにはイグニス様と戦う男装の麗人がいた。星の仮面をつけた黒獅子と星の仮面をつけた赤いタキシード姿の男装の麗人が殴り合いの喧嘩を、いやイグニス様の攻撃を華麗に避けているようだ。ヒラリヒラリと華麗に舞うその姿はさながら闘牛士のよう。


「おっと!」


 大勢の観客がそれに見惚れていると、俺は背後から気配を感じて咄嗟に後ろから伸びてきた手を払った。そこには星の仮面をつけて緑のドレスに身を包んだ女性が舌打ちをしながら更に襲いかかってくる。


「イグニス様!」


「なるほど! こちらは囮か! 最初に貴様がダイヤを盗もうとして盗めればそれでよし! 失敗しても貴様が皆の気を引いているうちに別の仲間がダイヤを奪う! そう言えば貴様らは3人組の怪盗団だったな! もうひとりはさて、どこだ!」


「さて、どこだろうね!」


 赤いタキシードの男装の麗人VSイグニス様、緑のドレスの女VS俺、そして未だ現れぬ3人目の槍使い。七夕の夜は更に熱く盛り上がりを増していく。余興の見世物じゃねーぞオラ!

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