第433話 豚に真珠色の靴下
「よくお似合いですよ」
「可愛いですねえ」
「さすがは坊ちゃんです」
「当然さ。我らがホークちゃんだもの」
「そいつはどうも」
「それではホークくんをお借りしていきます」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい! 折角だから楽しんでおいで」
「行ってらっしゃいませ、坊ちゃん」
「行ってらっしゃいませ、坊ちゃま」
ファッションショー当日。俺は皆に見送られながら博士とともに転移魔法で屋敷を出た。博士が選んでくれたコーデは俺にはよくわからなかったが博士にとっては大満足の仕上がりらしい。博士が喜んでくれてるならまあいいか。帝国では博士は超VIP待遇なのでSP&運転手付きの黒塗りの高級車だ。ちなみに今年は真珠みたいな光沢のある紫がかった白がトレンドらしい。
「さあ、着きましたよ」
「なんか緊張してきた」
「ふふ。ホークくんがランウェイを歩くわけではありませんから大丈夫ですよ。リラックスリラックス」
車の中で博士がメープルシロップみたいな甘い香りの香水を吹きかけてくれた。会場に到着し車から下りるとマスメディアの魔導カメラが猛烈にフラッシュを焚きまくる。博士はあっという間に大勢の取材陣にカメラやマイクを向けられてしまったが帝国のSPさんたちが頑張って記者たちを押しとどめている。
「おい! あれゴルド商会の御曹司じゃないか!?」
「来るなんて話は聞いてないぞ!」
「すみません! 一言よろしいですか!」
「なんか俺たち悪目立ちしてません?」
「無理もありませんよ。君はどれだけ招待されようともこの手の場には基本来ませんからね」
どうやら帝国技研のお騒がせ天災博士が今度はゴルド商会の御曹司を連れてきたみたいだぞ! 一体何が始まるんです!? と一部の事情通たちは大騒ぎになったようだ。が、博士は涼しい顔で俺をエスコートしてくれる。正直とても居心地が悪い。ファッションショーの会場にいるような人間はどれもお洒落に命を懸けてる洗練されたお洒落上級者の集まりみたいな偏見があるから、俺みたいなお洒落失格者にとっては居心地が悪いのだ。
「早くも帰りたくなってきた」
「大丈夫ですよホークくん。我輩が傍にいますから。落ち着いて」
「ドクター・オークウッド! これはこれは!」
「ミスター・ヤング・ゴルド! お会いできて光栄だ!」
会場に入ると更に大勢の著名人に囲まれてしまった。博士目当ての奴。ゴルド商会目当ての奴。俺目当ての奴。次から次へと大勢の人間が押し寄せてきて、心身ともに疲弊してしまう。俺に社交は無理だ。父さんに任せて一生屋敷に引きこもってたい。そんな気持ちをぐっと堪えて愛想笑いで応対する。さすがに父さんや博士の顔に泥を塗るわけにはいかないんだもの。俺だって頑張る時は頑張るのだ!
「まさかうちの靴を履いて頂けるとは!」
「如何です? よければこの後うちの店に!」
「是非御紹介したい女性が!」
「お父様に是非よろしく!」
そうなんだよな。普段忘れてるけど俺ってゴルド商会の御曹司なんだよな。世間的には超セレブ。俺が着た服はゴルド商会御用達になりそれだけで絶大な価値を産むんだ。父さんも博士もそういう意味でコーデにあれだけの時間をかけたのかもしれない。なんかもう愛想笑いのしすぎてほっぺの筋肉が攣りそうだ。ホークちゃんのモチモチ可愛いほっぺが痛くなったらどうしてくれるんじゃい!
「死にそう。というか半分死んでる」
「よく頑張りましたねホークくん。偉いですよ。いい子ですね」
ようやく椅子に座ることができた。博士にヨシヨシされながら軽く死んでいると、遂にファッションショーが始まる。華やかで煌びやかで美しい衣装に身を包んだ男性モデルたちが音楽とともに今年の新作ファッションを披露する。どうやら今回は博士の好きなメンズブランドのショーだったらしく、モデルの大半は男性だった。それも獣人男性が多い。博士は適度に拍手しながら手元のリストをチェックしている。
人生初のファッションショーはそれなりに楽しかった。ファッションショーは。ショーが終わった後も大勢の人間の対応に追われ、マリーの結婚式より疲れた気がする。途中ショーに参加していた世界的トップモデルが別のモデルに刺されて瀕死の重傷を負う事件こそあったものの、簡単な回復魔法で治せたのでそれ程大きな騒ぎにはならなかった。主催者には泣きながら感謝されたがそれなら早く帰らせてほしい。結局博士オススメのパブでジャガイモと挽肉のパイを注文する頃には俺は死屍累々の体たらく。
「頑張ったよ。俺すげえ頑張った」
「よしよし。いい子いい子」
「扱いが雑!」
「おや、そんなつもりはなかったのですが。頑張った御褒美に美味しい料理を食べましょうね」
博士はショーの後に新作の商品をいくつか注文して御満悦だった。実際に届くまでにはしばらく時間がかかるらしい。楽しみですねえ、とホクホク顔なのでよかったですねえ、と俺も死んだ魚の眼で笑っておく。ちなみに運ばれてきた料理は博士がオススメするだけあってどれも美味しかった。コテージパイにフィッシュ&チップス。ローストビーフにはベイクドビーンズとチーズマカロニを添えて。
「ふふ。今日はお付き合い頂きありがとうございました。とても充実した休日になりましたよ。特に、我輩がトータルコーディネートした服を着せたホークくんとお出かけするのは実に楽しかった。よければこれからも我輩のオススメのコーデ一式を定期的に贈らせてくださいね」
「喜んでもらえたんなら何よりだけどさあ。でも俺、服なんかそんなに着替えないよ?」
「それでも構いませんよ。大事なのは贈りたいという気持ちですから。それに、それを着て一緒に出かける楽しみが増えるきっかけにもなるでしょう?」
「確かに俺出不精デブだからなあ。基本誰かに誘われないと外出しないかも」
とにかく疲れた。でも博士が嬉しそうにしてるから、たまにはこんな休日も悪くないかもしれないね。





