第432話 蜂蜜と牛乳はズッ友
「ある国で野生のクレソンが大量発生して困ってる、ねえ」
「あんだよ。こっち見んじゃねェよ」
今朝の朝刊を読んだ俺の脳裏に、ふとクレソンが複製魔法で大量に増えた光景が思い浮かんで朝からカオスな気分になった。
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「御主人!」
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101匹クレソン。すごくむさくるしい光景だ。101匹イグニスよりはまだマシかもしれないが。
「だから、妙な想像すんじゃねェっつゥの」
「俺も100人に増殖すれば誰か1人ぐらいは結婚できますかね? 誰かが上手く行ったらそいつに再統合する感じで」
焼きたてのトーストに真っ赤な苺バターを塗りながらバージルが口を挟んでくる。トーストってバターを塗ってから焼く派と焼いてからバターを塗る派に分かれるよね。俺はどっちかってえと前者だけど。ちなみに父さんは後者だ。
「2人以上成功したら修羅場になるからやめといた方が」
「だよな! そういう時に限って上手く行きそうな気がするからやめとくわ!」
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「坊ちゃん!」
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バージルが102人いたらとても眩しそうだな。などと朝から馬鹿なことを考えていると。
「やあ。おはようございます皆さん」
「おはようオークウッド博士」
オークウッド博士が我が家を訪ねてきた。
「今朝はハニーミルクスコーンを焼いてみたのですが、美味しく焼けたのでお裾分けに参りました」
「おいおい。まさか変な薬でも入ってねえだろうな?」
「まさか。この我輩が蜂蜜を使った料理を粗末にするはずがないでしょう」
「そこは蜂蜜を使ってない料理も粗末にすんなよ!」
俺は甘いものが好きだ。クレソンも甘党だし父さんもスイーツ好き。博士が持参してくれたバスケットにはまだ温かい焼きたてのハニーミルクスコーンが山盛りになっていた。
「かの大帝国は紅茶産業が盛んですからね。ハニーミルクスコーンによく合う紅茶も持参しました」
「至れり尽くせりじゃん! そこのメイドさん! お茶の用意お願い!」
「御意」
「それじゃあ頂きます! 美味え!」
「それは何よりでした。沢山ありますから皆さんも遠慮なく召し上がってくださいね」
「そんじゃありがたく頂くぜ! お! こいつは確かに美味えな!」
「確かに。一流のパティシエに優るとも劣りませんね」
「そうか? 少し甘すぎやしねえか?」
「紅茶とあわせるとちょうどいいようにできているのだろう」
「否。博士殿のことだから、素で甘党なだけにござる」
「確かにこれを召し上がりながらココアを飲まれそうな御仁ですからね」
「オラは美味けりゃなんでもええだ!」
博士の作ったスコーンは大好評だった。みんなが美味しそうに食べてるのをニコニコしながら嬉しそうに見ている。
「帝国料理はスコーンだけでなくサンドイッチも盛んだよね。ポテチ挟んだだけの奴とか」
「ふふ。興味がおありなら今度はお手製のキュウリサンドを御馳走しますよ。我輩の自信作です」
「パンにキュウリ挟んで美味くなんのか? 水っぽくなるだけなんじゃ」
「そこが我輩の腕の見せ所なのです! きちんと水けを絞ってマヨネーズやツナなどで和えるととても美味しいキュウリサンドイッチができあがるのですよ! 時には蜂蜜を足してメロン風味にするというのも」
「キュウリに蜂蜜って」
「いや、意外と美味いかもしれんぞ。何事も食ってみねェとわかんねェのが料理ってもんだからなァ」
博士は意外と料理が上手い。料理は科学と言うぐらいだから、天才科学者である博士が天才料理人でも不思議ではないか。特にお母様から教わったという母の味は、俺も認めるぐらい美味しかったりする。
「そういえば。遅ればせながら妹さんの御結婚おめでとうございます」
「博士も御祝儀ありがとう。イグニス様はちゃんと引き出物渡してくれた?」
「ええ。とても美味しいバームクーヘンでした」
博士と雑談しながら楽しい朝のひと時を過ごす。
「実はですね。今度我輩の好きなブランドのファッションショーを観に行くことにしたんですよ。よければホークくんも一緒に如何です?」
「ファッション興味ないなあ。ショーの途中で寝落ちしちゃって顰蹙買いそう」
意外に思われるかもしれないがオークウッド博士はお洒落さんだ。普段白衣の印象しかないが、白衣の下にはブランド物のお洒落な服を着ている。コートがどうだのブーツがどうだのベルトがどうだのと俺には解らん話でイグニス様やローガン様や父さんらダンディなメンズとと盛り上がっている。そう考えると商売人にあるまじき駄目男だな俺。
「ふふ。美味しいマッシュポテトと挽肉のパイを出すお店があるんですよ。ショーの後はそちらでディナーにしましょう。勿論、たっぷりソースのかかったローストビーフもあります」
「行く!」
ファッションには興味ないが、ジャガイモとお肉にはいつだって興味津々なのが俺だ。まんまと餌に釣られた俺は、今度の休日オークウッド博士と一緒にファッションショーを観に行く約束をしてしまった。
「ファッションショーを観に行かれるのであればさすがに服装には気を使われる必要がありますね」
「さすがにね。ゴルド商会の面子にもかかわるし、博士に恥をかかせるわけにもいかんし」
そんなわけで博士、オリーヴ、ローリエ、父さんの4人でホークちゃんお着換え大作戦だ。ホークちゃんに似合う服は、とか、どこのブランドのショーなのですか? とか、あれこれ盛り上がること数時間。さすがに付き合ってられんくなった。
「んで、案の定身代わりの分身を魔法で残して逃げてきたと」
「まずYシャツ1枚選ぶのに何時間かけるつもりなのさ! 俺には全部同じにしか見えんわ!」
耐えきれなくなって逃げ出した俺はガメツの爺さんとともに屋台の昔ながらの醤油ラーメンをすすっていた。女神教の最高幹部が屋台のラーメン屋で夜食を食ってるというのも面白い話だな。まあ俺も似たような立場なので文句は言えんが。
「ゴルド商会の未来の社長さんがその体たらくで大丈夫なのかよ?」
「俺には優秀な秘書がいるからいいんだよ!」
ちなみに当日俺が着ていく服が決まるまでに3日かかった。みんな自分が俺に着せたい服を主張して譲らなかったらしい。どんだけー! 結局一緒に行くのは博士なんだからという理由で博士のコーデに決まった。それが一番無難だよね。





