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第431話 汝の敵を愛すのはなかなか無理ゲー

 マリーとディルくんの結婚式と披露宴は無事に終わり、俺たちは転移魔法で熱砂の都のホテルに戻ってきた。今夜は夜通し飲み明かすぞ! と盛り上がっていたあちらの親父さんが早々に酔い潰れてしまったため、父さんと母さんも一緒だ。今夜はホテルに一泊して、明日の朝ゴルド商会のプライベート飛空艇で帰国する予定だ。


「今頃あいつら交尾してんのかね」


「品のない言い方はやめい! ロマンチックな初夜だぞ!」


「だけんども言うてやってることはやることやるだけだべ。はあ、オラも昔を思い出すべなあ」


「それはブラックジョークなのか?」


「人の営みなど瞬きの間よ。気付けばあっという間に誰も彼もが我を置いて死んでいく」


 今日一日スーツだった反動か、みんな風呂に入った後はパン一で寛ぎながら2次会を始める。父さんと母さんは疲れたからもう寝るそうだ。オリーヴとローリエにふたりを任せ、俺たちはホテルのルームサービス類を頼む。披露宴であれだけ飲み食いしてたのにみんな元気だな。胃もたれとかしないんだろうか。しないんだろうな。それにいざとなれば胃もたれを治す魔法もあるわけだし。


「本当に眺めてるだけでいいんですかい? 折角だから坊ちゃんも混ざればいいのに」


「いいのいいの。今夜は参加するより外から眺めてたい気分なんだ」


「では主殿を退屈させぬよう、より一層励まねばな」


「おいカガチヒコ! そいつは俺様が狙ってた肉だぞ!」


「御免」


「ははは! 早い者勝ちであろう! 余も遠慮なく行くぞ! 今夜は無礼講なり!」


「やれやれ。いい大人が子供のように。とはいえ、100歳にも満たぬ人間など幼子も同然か」


 2次会が始まり盛り上がっていると、まだスーツ姿のオリーヴがやってきた。


「坊ちゃん。少しいいだろうか」


「お疲れ様。なあに?」


「旦那様がお呼びだ。大事な話があると」


「ジョヴァンナの件で?」


「ああ」


 父さんと母さんの部屋に行くと、バスローブ姿の父さんがバーカウンターでお酒を飲んでいた。高級シャンプーのいい香りがする。


「やあホークちゃん。手間をかけさせちゃって悪かったね」


「別にいいよ。さすがに結婚式で小型機関銃乱射は不味いでしょ」


「ああ。ホークちゃんが対処してくれて本当によかったよ。それにしてもジョヴァンニか。懐かしい名前だ。と言いたいところだが、正直全然記憶にないんだよね」


「なんせ30年も前の話らしいからなあ」 


「パパもスラムの浮浪児から裸一家成り上がるまでに汚い手も沢山使ったからなあ。ゴルド商会の発展と繁栄の陰には草葉の陰でどれだけの人間が血の涙を流したか計り知れないよ。証拠を残すようなヘマはしなかったはずだけど、人の心だけはどうにもならないからね」


「後悔してる?」


「まさか。パパはパパのやりたいようにやった。それで人から恨まれるならしょうがないことだよ。でも、恨みの矛先がパパじゃなく家族に向けられるのは腹が立つかな。狙うならワシを狙え卑怯者が、とね」


「愛する者を奪われた悲しみは愛する者を奪うことでしか与えられないからなあ。それならマリーより俺を狙うべきだったね」


「ははは。それこそ赦さないよ」


 父さんが注いでくれた烏龍茶で喉を潤す。自惚れでもなんでもなく、父さんが世界一愛しているのは俺だ。それはこれまでもこれからも変わらない。マリーに子供ができようと、俺に子供ができようと、父さんが初孫より大事にする宝物は俺。それだけは確定的にあきらか。


「パパは死んだら地獄に落ちるかもね」


「その時は俺が迎えに行くよ。それとも事前に地獄を先行制圧しておくのも悪くなさそうだ」


「はは! やっぱりホークちゃんは頼りになるなあ! それならパパ安心して天寿を全うできそうだ!」


 嬉しそうに笑う父さんが俺の頭を撫でる。


「ホークちゃんが地獄の大王になればゴルド商会地獄支部を出店できるようになるかもね! 地獄では何が売れ筋商品になると思う?」


「天国行きの免罪符とかどうよ。それを買ったらみんな無条件で全ての罪が赦されて天国行きになる奴」


「それ採用! さすがはホークちゃん! 目の付け所が天才的!」


 マリーの結婚で少しセンチメンタルになっていたのか、ようやく本来の調子を取り戻した父さんは上機嫌で酒を呷り、やがてカウンターに突っ伏して寝落ちしてしまった。


「坊ちゃん、俺が」


「いいよ。俺が運ぶ。ありがと」


 父さんの重たい体をもお姫様抱っこできるぐらい大人になった俺は、父さんを抱っこして寝室に向かう。


「あらホーク。お疲れ様」


「うん」


 寝室ではバスローブ姿の母さんがドレス姿のローリエ相手にお酒を飲んでいた。似た者夫婦だな。


「寝ちゃったの。ほんと、手のかかる人」


「俺の面倒臭さは父さん譲りかな」


「でしょうね」


 父さんをベッドに寝かせ、二日酔い防止の魔法をかけてやると。


「うーん、ムニャムニャ、ホークちゃあん」


「結婚式の日ぐらい、マリーの名前を呼んであげればいいのに。ほんとこの人と来たら」


「しょうがないよ。父さんだから」


 母さんのぼやきがごもっともすぎて何も言えん。


「ローリエ。あなたももう下がっていいわ。今日一日、付き合ってくれてありがとう」


「仰せのままに」


「おやすみ母さん。父さんも」


「おやすみなさいホーク」


 ローリエとともに部屋を出ると、オリーヴがバーカウンターの後片付けをしていた。


「ふたりともお疲れ様。今日は本当にありがとう。ゆっくり休んで」


「ああ。さすがに俺も疲れたから、今夜はゆっくり休ませてもらうとしよう」


「ありがとうございます。わたくしも部屋に戻らせて頂きます」


 俺も朝からバタバタしてて、さすがに疲れた。部屋に戻るのも億劫だから、このままこの部屋のソファで寝るのもありかもしれない。


「では俺が添い寝を」


「ではわたくしが添い寝を」


「はは。折角だから川の字で寝る? って、さすがにソファじゃ無理か」


 どちらが俺に添い寝をするか、というか俺を抱き枕にして寝る権利を勝ち取るかでオリーヴとローリエが睨み合う。無理もあるまい。ホークちゃんのモチモチボディは最高の癒やし要素だからな。疲れてるんだから不毛な争いは避けて、じゃんけんでもしたらどうだい。


「俺は悲しい。昔は即決即断でじゃあオリーヴで、と言ってくれたのに」


「ふ。いつまでも坊ちゃんの右腕を気取っていられるとは思わぬことです」


 何はともあれ結婚おめでとうマリー。ディルくん。俺の分まで幸せな家庭を築くんやで。

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