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第430話 妹の結婚式なう

皆様お久しぶりでございます。コツコツ書き溜めていたストックが結構増えてきたので久々に投稿してみました。お楽しみ頂けましたら幸いです。

「結婚おめでとうマリー。ディル。幸せになれよ」


「ありがとうお兄様! 私今、とても幸せよ!」


「ありがとう義兄さん!」


「結婚おめでとうふたりとも」


「何かあったら遠慮なくワシに言うんだぞ! ゴルド商会が総力を挙げてどうとでもするからな!」


「ありがとうお父様! お母様!」


「ありがとうございますお義父さん、お義母さん! マリーは俺が絶対幸せにしますから!」


 季節は6月。海外留学を終えそのままあちらに移住することを決めた妹のマリーが遂に結婚した。お相手は皆さんご存じディルくん。砂漠の国の田舎で養鶏業を営む半虎獣人の褐色青年だ。かつてはその筋肉質な肉体に見合わぬあどけない童顔の持ち主だった彼も高校を卒業して徐々に大人びた顔つきになりつつある。というか、高校を卒業したら結婚しよう! とマリーにプロポーズした時点で精神的には十分立派な大人のそれだろう。涙ながらにOKしたマリーは結婚式の日程を6月に選んだ。


 マリーの私たち! 結婚します! 宣言に両親も大いに喜んだ。ゴルド商会の総力を挙げて世界一豪華な結婚式を! という父さんの意向はマリーとあちらのお義母様の意向により却下され、ふたりの結婚式はディルくんの実家で昔ながらの古きよき家庭的な結婚式と披露宴を執り行うことに。まあ気持ちはわかる。田舎で逆玉成金仕草したら絶対近所から要らん嫉妬や顰蹙を買うだろうしな。ローカルコミュニティに配慮するならマリーがあえて手作り感地味婚を選んでも不思議ではない。


 正直冠婚葬祭とかたとえ妹のものでも面倒だから出たくない、と昔の俺なら結婚式をすっぽかすなり適当な用事をでっちあげて逃げるなりしただろうが、さすがにそれなりに成長した今の俺はそんなこたーせんよ。


「それでは、誓いの口付けを」


 ふたりが誓いの言葉とともに口付けを交わすと、拍手喝采があがった。ディルくんの実家である古びた家屋は手作り感あふれる飾りつけで華やかに彩られ、両家の親族やご近所さん、マリーやディルくんの友人が参列しとても幸せな空間が広がっている。本当はローガン様も招待してあげたかったのだがいきなり庶民の家にお忍びの王族がこんにちはするとあちらの御両親がビックリ仰天してしまうだろうから今回は断念した。代わりにとても綺麗な花輪が届いている。さすができる男は違うね。「余はそなたの身内も同然なのだからなんの問題もなかろう!」と百科事典並みに分厚い御祝儀片手に突撃してきたどこかの黒獅子は見習ってもろて。


「まあまあ。イグニスの奴もそなたの妹の結婚を祝福してやりたかったのであろうよ」


「そうだぞ。そなたの妹は余の妹も同然。もし養鶏場が不況や鶏感染症で潰れそうになっても余が手を差し伸べてやるとも!」


「おめでたい席で縁起でもないこと言うんじゃないの!」


 親戚のお爺ちゃん枠で参列している身長3mの黄金竜人共々、声も態度もデカい身長250cmの黒獅子はよくも悪くも目立つ。なので絶対余計なことしない約束で今回は親戚のおじさん枠で参列させてあげた。オークウッド博士からの常識的な額の御祝儀も預かってきてるあたりほんと抜け目がないんだから。


「イーグルさん! ささ! 今夜は新郎新婦の父親同士、朝まで飲み明かしましょうぞ!」


「おお! そうですな! 是非!」


「あなたったら! すみませんねアリーさん。うちの人ったらいつもこうなんだから!」


「いいんですのよ。うちの人に比べれば可愛いもんですわ」


 ディルくんの両親は一昔前のホームコメディ・ドラマの登場人物のように愉快で善良な一般人だった。ゴルド商会の富や名声に目が眩んだ愚かな親戚とかいなくてホッとしたよ。まあマリーも昔に比べてだいぶ強くなったから大丈夫だろう。いざとなれば護衛のハイビスカスもいるから急に親戚を名乗る連中が乗り込んできても問題あるまい。


「幸せそうじゃな」


「うん。そうだね」


「我らも負けじと幸せになろうな」


「俺を幸せにするのはハードル超高いよ?」


「ふ! 望むところである!」


 幸せそうなマリーの姿に、よかったねえとお兄ちゃんも嬉しくなる。この世界に転生したばかりの頃は、異世界転生者の妹なんて兄にガチ恋する危険なヤンデレブラコンキャラに違いない! と無駄に警戒していたものだ。あの頃、俺は若かった。当時は思春期特有の拗らせた自意識から赤面ものの黒歴史を大爆発させていたからな。今なら笑い話だが当時の俺は真剣に悩み苦しんでいたのだ。そんなあの頃の俺を愚かの一言で切り捨ててしまうのもどうかと思うので、青春だったなあ、と懐かしむことにする。


 でもあれだね。昔の俺だったら「子供なんか作ったところで」ぐらいの皮肉は言ってたかもわからんね。


「坊ちゃん! グラスが空だべ!」


「わたくしが何か頂いて参りましょうか?」


「ありがとう。それじゃあお冷やを」


「かしこまりました」


「実にめでたきことよ。主殿もさぞ喜ばしかろう」


「そうだね。不幸になるよりかは幸せになれた方が絶対いいもの」


 お祝いのシャンパンで赤ら顔のオレガノ。ナノマシン義体で実体化したシェリー。紋付袴姿のカガチヒコ先生らも笑みを浮かべている。シェリーがもらってきてくれたお冷やを飲んでいると、その巨体を窮屈そうにスーツに押し込めたクレソンがシャンパン片手にやってきた。


「よ。御主人様はブーケトスには参加しねえのか?」


「バージルが本気で狙ってるみたいだからやめとく」


「あいつも懲りねえなァ。独身最高! と結婚してェ! をどんだけ交互に繰り返しゃ気が済むんだか」


「独身の悲哀を感じるね。俺には一生理解できない感覚だわ」


「お、見ろ御主人。バージルが嬢ちゃんからハイビスカスに向けて投げられたブーケを風の魔法で横取りしようとしたら別の突風が吹いて結局別の奴に取られちまったみてえだぞ」


「ま、いんでないの。ハイビスカスは姉御肌の美人だからブーケなんかなくとも結婚できるでしょ」


 無事に結婚式を終えた次は披露宴である。新婦の母親やご近所の奥様たちが真心こめて作り上げた手料理の数々はとても温かみがあって美味しい。皆が楽しそうに幸せそうにしている光景はとても微笑ましいもので、だからこそそれを台無しにされないよう養鶏場の周囲ではゴルド商会警備部の人間が目を光らせている。俺の妹の結婚式とか絶対なんかトラブル起こる奴じゃん! の精神で警戒は必要だ。


「会場内は少し暑いな。少し風にあたってくる」


「おう。ついてくか?」


「ちょっと一息入れるだけだから大丈夫」


 外に出ると目ざとくオリーヴが追いかけてきた。


「坊ちゃん」


「ん、お疲れ様。警備に問題はなさそ?」


「ああ」


 オリーヴがくれたミントを噛みながら、俺はネクタイを緩めて風にあたる。


「名探偵イグニスが来た時は花嫁のコップに毒でも盛られるんじゃないかとヒヤヒヤしたけど、何事もなさそうでよかったよ」


「そうですね。と言いたいところですが」


 鼻を鳴らして何かを嗅ぎつけたオリーヴの視線の先。大きな花束を両手で抱えた女性が道の向こうから笑顔でこちらに歩いてくるのが見えた。


「彼女から銃の臭いが」


「招待客は?」


「全員揃ってます」


「はあ。やっぱり何か問題が起こる運命なのね」


「何も起こさせないために我々がいます」


「頼りになるわあ」


 彼女はこちらに向かって大きく手を振った。


「こんにちは! 私は近所に住むジョヴァンナと言います! 本日は息子さんの結婚式ということで、皆を代表してお祝いの花束をお届けにあがりました!」


「そいつはどうも。俺は新婦の兄だ。綺麗な花束だな。妹もさぞ喜ぶだろう。だからこそ惜しい」


 俺が指を鳴らすと、彼女が両手で抱えていた花束は一瞬で砂になった。


「な!?」


 花束の中から出てきたのはいわゆる小型機関銃だ。右手はしっかりとグリップを握っており、花束に偽装した小型機関銃をいつでも撃てるようにしていたのだろう。


「お祝いに真っ赤な花吹雪でも撒き散らしてくれるのかな?」


「く!」


 彼女は即座に銃口をこちらに向けようとしたが、俺が再び指を鳴らすと小型機関銃も砂になった。驚き目を瞠る彼女を即座にオリーヴが拘束して無力化する。彼女が地面に組み伏せられると同時に俺は遮音結界を張った。


「何か弁明は?」


「クソ! 殺してやる! 殺してやるぞゴルド一族! 私の父ジョヴァンニは30年前イーグル・ゴルドのせいで死んだ! 母ジョアンナも父を喪ったショックで後を追うように心労で! 両親を奪われた私はそれからこの30年間復讐だけを考えて生きてきた! イーグル・ゴルドのせいで私たち一家は不幸になったんだ! だから今度は私がお前たち一家を不幸にしてやる!」


「だから娘の結婚式に乗り込んで無茶苦茶にしてやろうって?」


「この30年間奴への恨みを忘れた日はただの1日もなかった! 奴も愛する者を理不尽に奪われる痛みを! 苦しみを! 悲しみを味わえばいい! やっと巡ってきた復讐のチャンスなんだ! だから! 邪魔をするな!」


「するに決まってるだろ」


 ネクタイを外して彼女の口に猿轡を噛ませる。こいつはあれか。いじめられっ子がいじめっ子の結婚式に乗り込んでいって結婚式を台無しにしてやる妄想みたいなざまあを実際にやろうとしたわけか。


「君の恨みが正当なものかそれともただの逆恨みなのかはわからんが、妹の結婚式で銃を乱射させるわけないだろ。30年頑張って耐えてきたんだからもう30年刑務所の中で頑張りな。それにほら、娘より初孫を狙った方がダメージデカいと思うし。オリーヴ」


「はい」


 俺が目配せすると、オリーヴは彼女を絞め落とした。殺しちゃいない。警察に引き渡すだけだ。気絶した彼女を縛り上げてオリーヴが肩に担ぐと、ドレス姿のローリエがやってきた。


「お戻りが遅いからと心配になって様子を見に来てみれば。一体何があったのです?」


「すまんねローリエ。警察を呼んできてくれる?」


「後できちんと説明して頂きますからね」


「わかってるって。そのドレス、似合ってるよ」


「それで誤魔化せるとでも?」


「誤魔化してなんかないさ。ほんとに似合ってるよ」


 実際とても綺麗だ。柄にもなくローリエが照れていると、ビンゴ大会が始まったのか中から歓声が聴こえてくる。


「親の因果か子に報い、か」


 どれだけなかったことにしたかろうと、よくも悪くも過去は消えないもんだ。昔の父さんは確かに悪党だったのかもしれない。というか今でも現役の悪党ではある。きっと父さんのせいで不幸になった人間も大勢いるのだろう。だけど俺は、それでも父さんを庇いたい。たとえ世界を敵に回したとしても、愛する俺の味方になってくれた人だから。俺もその愛に報いたい。たとえそれが正義ではなくとも。


「少なくとも俺の生きてるうちは、誰にも手出しはさせない。マリーはディルくんと幸せになるんだから」


 結婚式。俺には疲れるだけで何がいいのかわからんが、今日はマリーにとって一生に一度の忘れられない幸せな日なのだ。たとえどんな理由があろうと、それを台無しにさせるものか。だからマリー。汚れ仕事はお兄ちゃんたちに任せて、君たちは一点の曇りもなく幸せになるんやで。

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